第4章 — 死のネット(全然機能しない)
カイは肺が退職願を出しそうなくらい走り続けた。
だが、売店の角を曲がった瞬間、彼の希望に火をつけるものが目に入った。
漁網。
古い。
埃まみれ。
たぶん中に甲殻類が潜んでいる。
でも──網。
完璧。
もちろん「カイ基準の完璧」だ。つまり、完全にバカげているという意味。
彼はその網を掴み、街灯の柱二本に引きずっていき、縄を結んだ。
あまりにも必死だったせいで、結び目は“ロープを見たこともない人間”が作ったような仕上がりになった。
罠は地上二メートルほどの高さで揺れ、酔ったクモが作った巣みたいにブラブラしていた。
カイはアイスの屋台の後ろに隠れた。
「よし…よし…今度こそ引っかかる…」
彼は呟いた。
「頼む、宇宙よ…今日はせめて一勝を…!」
大地が震えた。
リュウナが重い足取りで現れた。
まだ人間の姿のまま、まだ髪を滴らせたまま、そしてまだ小さな魚を聖遺物みたいに抱いたまま。
「カーーーイ…」
歌うように呼びながら、周囲を見渡す。
「感じるわよ…あなた…この方向にいる…!」
カイは目を見開いた。
彼女は本当に“ピンポイントで”彼の方向を指差していた。
「なんで分かるんだよ!?」
リュウナは続けた。
「あなた、水とココナッツの混ざった不安の匂いがするもの。」
侮辱なのか、能力的に凄いのか、判断できなかった。
リュウナはついに網の方へ足を踏み出した。
カイは小声で呟いた。
「そうだ…そう…そう…来い…!」
彼女はそのまま通り過ぎた。
網は落ちなかった。
カイは目を見開き、戦慄した。
「えっ?! 作動しない!?」
リュウナは上を見上げ、首をかしげた。
「これなぁに?」
カイは飛び出し、ロープを手動で引っぱった。
網が落下した。
彼女がもう一歩踏み出した“直後”に。
つまり──
網は彼女の後ろに落ちた。
虚無へ。
ただの悲しい布切れのように。
リュウナはゆっくりと振り返り、無邪気に微笑んだ。
「カイ…これ、私に落とすつもりだった?」
カイはロープを地面に叩きつけた。
「もうイヤだあああああ!!!」
リュウナは恋に狂ったレーザーポインターのような瞳で近づいてきた。
「罠の改善、手伝ってあげるわ!」
彼女は嬉しそうに言った。
「私、落ちたふりしよっか?」
「いらない!!」
「じゃあ今、あなたに“印”してもいい?」
カイは腕を伸ばし、地平線を指差した。
「この世界には何百万人も人がいるだろ! なんで俺なんだよ!?」
リュウナの笑みは、純粋さ・執着・そしてちょっと可愛さを混ぜ合わせたものだった。
「だってね、あなた……」
彼女の声が優しくなる。
「私が初めてあなたを見た時、すごく悲しそうだったから……
守りたくなったの。
抱きしめたくなったの。
手に入れたくなったの。
そして二度と一人にしたくなくなったの。」
カイは凍りついた。
一瞬だけ、混沌が止まった。
……その一瞬は二秒ほどだった。
彼女が続けるまでは。
「それにね、あなた……干物の匂いがするの。私、干物大好き。」
カイは泣きそうになった。
「もう安全なのか侮辱されてるのか分からねぇ!!」
リュウナは一歩踏み出し、手をゆっくりと広げた。
「おいで、カイ……ほんのちょっとの“引っかき傷”だけよ……」
「いやあああああ!!」
カイは再び砂浜へ向かって一目散に走り出した。
リュウナは新しいオモチャを手に入れた子供のように笑いながら追いかけた。
そして、手にはまだあの小さな魚が揺れていた。
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