第55話 決着

激しい当たりに辺りに土埃が舞う。


そして、一瞬の静寂の後……目の前にいるカイルの目に正気が戻った。


俺のオリジナル回復魔法が効いた証拠だ……チャンスは今しかない。


「……俺は一体……お主は?」


「おい、目をそらすな。そして、俺の話を聞け」


「……わかった」


どうやら馬鹿ではないらしい。

ここで騒ぎ立てられたら作戦が台無しだから助かった。


「手短に言おう。お前は無理矢理戦わされているな? そして、その理由は子供達を人質に取られているからだな」


「何故、それを……いや、その通りだ」


「人質に関しては俺達がどうにかしたので心配しなくて良い」


「……本当だろうな?」


その瞬間、とてつもない圧を感じる。

当人にとっては、それだけ重要ということだろう。


「俺に嘘をつく理由がないな。なぜなら、お前を正気に戻したのは俺だ」


「……そうだ、俺は人質を取られて剣闘士として戦うことに……疲れてきたと思ったら変な薬を飲まされて……」


「少しは状況はわかったか?」


「……俺は何をすれば良い?」


「このまま正気を失ったフリをして、俺を痛めつけろ。そして、俺の次にオッズが上がったら俺に負けろ」


そう、これが今回の作戦だ。

ユリアの願いも当然叶える、そしてユリアのために金がいる。

ユリアには預けた金を俺に賭けるように言ってある。

後は俺が勝てば、一石二鳥というわけだ。


「よくわからないが……恩人に従おう」


「交渉成立だ。さて、砂埃が晴れるぞ。ここから、激しく痛めつけろ」


「おーっと! 砂埃が止んで……二人が打ち合いをしております!」


「ガァァァァァァァア!」


「っ……!」


「しかし、やはり挑戦者は防戦一方の様子!」


本当に手加減なしで、身体のあちこちが悲鳴をあげる。

というより、理性が戻った分先程より強い……最初からこれだったら普通に負けていたな。

何より皆が見てるので、今は回復魔法を使えない。

ギリギリのところで受け流し、タイミングを待つ。

そして……ユリアが手を振った。

それはオッズが上がりきった合図だ。


「——行くぞ」


「ガァァァァァァァ!」


「氷拳」


「ガァ!?」


右の剣で受け流し、氷を纏った左拳を叩き込んだ。

今度は相手が吹き飛び……起き上がらなくなる。

すると、レフリーがカイルに駆け寄ろうとするので……俺も動く。


「おーっと! 大番狂わせが!? これは確認を……な、何をするので?」


「それはこちらのセリフだ。貴様、


「な、なんのことだが……」


やはり、こいつもグルか。

手に持ってるのは何かしらの注射器。

恐らく、カイルの理性を失わせたやつだろう。


「早くカウントしろー!」

「ァァァァ! やめろやめろ! 俺の金が!」

「俺はあいつに賭けたぜー! 早くしろって!」


よし、これだけ注目を集めれば注射は出来まい。

恐らく、さっきの休憩とやらも注射を打ったに違いない。


「どうした? 早くカウントをしろ」


「そ、それは……」


「良いのか? 不正がバレたら暴動が起きるぞ? ここは大事な稼ぎ場所なのだろう?」


「っ……テン、ナイン、エイト……」


脅しが効いたのか、レフリーがカウントを取る。


そして……ゼロになるのだった。

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