悪役皇子の俺、破滅した悪役令嬢を金で買う

おとら

第1話 悪役皇子、前世の記憶を思い出す

はっ、兄上も馬鹿なことを。


侯爵令嬢であるユリアに婚約破棄をし、あんな平民上がりの女にうつつを抜かすとは。


やはり、奴は皇太子の座に相応しくない。


「ククク、いよいよ俺の番がやってきたか」


俺は大貴族の母を持ったが、第二皇子として生を受けた。

ただそれだけの理由で皇太子のスペア扱いだ。

どう考えても俺の方が兄上より優秀だと言うのに。


「まあ良い……今に見ていろ。とりあえず、暇潰しに売られるというユリアでも見にいくとしよう」


俺は王城を出て、奴隷が売られているオークションに向かう。

そこは非合法ではあるが息抜きのために見逃されている施設で、今日も熱気に包まれている。

俺はお目当てのユリアが出てくるまでのんびり待つことに。

その時、視界の端に気にくわない相手を見つけた。


「あれは……グフタフ卿か」


マリアン教会に三人しかいない枢機卿を務める男だ。

ぷよぷよのだらしない体に汗を垂らして醜悪な顔をしていた。

大臣や教会の後ろ盾があることをいいことに好き勝手しているらしい。

それこそ聖職者の癖に奴隷を買いに来るとは。


「ふんっ、美しくない」


立場がある者には責任が伴う。

それについたからには、きちんと名に相応しい態度や姿をしていなければな。

そんなことを考えていると、今日の目玉がやってきたようだ。


「さあ! いよいよ今日の目玉商品です! なんと薔薇姫と謳われれたユリア-フォルセティです!」


「………」


鎖に繋がれて出てきたのは紅髪の乙女だ。

やる気のない表情、それでいて人形のように整った顔。

艶やかで有名だった髪は薄汚れ、その見事な肢体は薄い布で覆われている。

服の上からでもわかるスタイルで、男好きする体と言われているのも無理はない。


「しかし、落ちぶれてしまったものだ」


俺がユリアと会ったのはまだ幼少期の頃か。

兄上の婚約者として紹介されたのだった。

綺麗な女の子だなと思った記憶はある。


「結局、兄上と関わりたくないからユリアとも関わることはなかったが」


その時、ふとユリアと目があった。

その瞬間——俺の頭に恐ろしいほどの情報が流れてくる!

前世の情報、そこでの生活や生き様、そして趣味嗜好など。

頭が割れるほどの痛みが治まった時、俺は全てを理解した。


「……そうか……そうなのか……ただ、何故今更なのだ」


「さあさあ! 500万円で落札かー! 最終落札者はグフタフ卿様だー!」


「ぐふふ! もうすぐ念願のモノが手に入れるぞ!」


しまった、いつの間にか進んでしまっている。

俺は考えるのは後にし、すぐに手を挙げた。


「六百万」


「おっとー! これは第二皇子アルヴィス様が手を挙げました!」


「な、何!? あの皇子め……七百万だ!」


「八百万」


「なァァァァ!? ……九百万だ! ククク、これ以上は吊り上げられまい」


奴の言うことは間違いではない。

この世界の貨幣価値は前世とは違う。

いや正確には俺の生きていた時代か。

大体十倍の違いがあると思っていい。


「一千万」


「……はっ? は、払えるわけがない!」


「俺なら払える。それで、それ以上は出せないのか?」


「な、な、なァァァァ!? たかが第二皇子風情がァァァァァ!」


「俺は払えるのかと聞いている……払えないなら黙ってろゲスが」


そんなことを言われた経験がないからか、グフタフ卿が泡を吹いて倒れる。

そこで時間切れとなり、鐘が鳴り響く。


「落札決定です! 皇太子に婚約破棄された落ちぶれた薔薇姫ユリアを落札したのは——第二皇子であるアルヴィス-ミストルティン様に決まりました!」


「ふっ、俺の勝ちだな……しかし、何も今思い出さなくても」


俺の思い出した記憶、それは前世で姉がやっていた乙女ゲーム。


俺はゲーム自体に興味はないが、そこに出てくる悪役令嬢に一目惚れをした。


そう、今落札した彼女こそが——その人である。


そして俺はこの世界にて……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る