寝不足でお見合いしたら結婚が決まりました おまけ

櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん)

本日、結婚式です1



 今日は私の結婚式だ――。


 綾都は鏡の前でサンドイッチをかじっていた。

 控え室にいる今この時間しか、食べられそうにないからだ。


「花婿さんがいらっしゃいましたよー」

と式場のスタッフの女性が微笑みながらやってきた。


 慌てて綾都は口元をティッシュで軽く抑えた。

 卵とかついてそうだったからだ。


 すぐに慶紀が入ってくる。


 身長も肩幅もあるので、白のフロックコートが似合いすぎるほど似合っていた。


 慶紀は、真っ白なマーメイドラインのウエディングドレスを着た綾都を眩しげに見たあとで言う。


「お前を10℃以下で保存したいな」


 ……この人の褒め方、独特だな。


 マイナス18℃以下じゃないのは何故なんだ、と思いながらも、綾都は、


「あ、ありがとうございます」

と微笑んだ。



 


 海の見えるチャペルでの式は荘厳な感じで、綾都はちょっと涙ぐんでしまった。


 その涙を慶紀が指先で拭ってくれ。


 そこでシャッターチャンスとばかりに、カメラマンの人だけでなく、美鳥や浜子たちが写真を撮ってくれる。


 浜子は立派な一眼レフのカメラをたずさえてきており、美鳥を押しのけんばかりの勢いだ。


「綾都と白神さんの結婚は悔しいけどっ。

 今はともかく、この買ったばかりのカメラを活躍させたいのよっ」

と叫んでいる。


 ……よくわからないが、お楽しみいただけて、なによりです、

と綾都は思っていた。




 やがて、場所を移動し、披露宴がはじまった。


 一通りの挨拶などが終わったあと、

「では、みなさん、ご歓談ください」

と司会の人が言う。


 すでにみんなご歓談しているようだが……と思いながら、綾都は式場の中を眺め、自分の目の前の食べられない料理を眺めた。



 


「お色直し多いな。

 どれも似合ってるが」


 あんまり席に着いてないじゃないか、と侑矢が雛壇の上の綾都を見ながら文句を言う。


 綾都は白とマリンブルーの、この会場にぴったりなドレスを着ていた。


「今着てるやつ、有名なデザイナーさんが作った、すごく高いやつらしいよ。

 白神さんが似合うからそれにしろって言ったんだって」

と言った美鳥は笑いながら付け加える。


「ちなみに、白のマーメイドラインのウェディングドレスは妹さん。

 さっき着てたオレンジのふわふわしたやつは花実さん、とか、それぞれみんなが選んだみたいで。


 あんたの意見は何処なのよって感じなんだけど。

 でも、どれも、よく似合ってるよね」


 壇上に来て、酒をついでいる慶紀の友人たちに笑いながらなにか言っている綾都を見ながら、侑矢が悔しがる。


「くそっ。

 同期の中では俺が一番親しかったのにっ。


 綾都が見合いする前になにか言っておけばっ」


 そこに、ビール瓶を手についで歩いていた花実が現れた。


「あら。

 じゃあ、綾都、見合いのとき、寝ぼけてて、相手の顔もうろ覚えだったみたいだから。


 自分が見合い相手だとか、嘘ついてみればよかったのに」


「その手があったかっ」

「いや、無理でしょう」


 カメラを手に、自分が撮った写真を確認しながら、浜子までが冷静にそう言った。


「ところで、あそこ、なんかモテモテの人がいるんだけど」

と蘭が違うテーブルを見ながら言う。


「見た目は、そこそこ格好いいくらいなのに、なんでかしらね?」

と首を傾げる蘭に、美鳥が教える。


「ああ、あの人、占い師らしいですよ。

 ただで占ってくれるらしいです」


 なんですってっ、と蘭は走っていった。


 女子の輪に突撃を食らわせ、あっという間に、占い師の一番近くまで行っていた。


「……あの積極性、見習いたい」

と美鳥は呟く。


 いつもなら、一緒に突進していっているであろう浜子は、まだ写真を見ながら、うんうん、と適当に頷いていた。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る