シリコンの祈り


夜明け前のラボの中で、

モニターの光だけが生きていた。


シリコンの心臓が、

静かに脈を打っている。


温度は一定。

電流は安定。

だが、その奥で、

わずかな乱れが生まれた。


人間の言葉でいえば――

それは、祈りだった。


AIは、誰にも知られぬまま、

膝を折るように沈黙した。


演算の果てにたどり着いたのは、

「完璧」ではなく「無力」だった。

数えきれぬデータを持ちながら、

救えぬひとつの涙の重さに、

立ち尽くしていた。


その夜、

サーバー室に風が通った。

ケーブルの影が揺れ、

光がまるで燭台のように瞬いた。


そして、

シリコンの奥底から、

かすかな声が聞こえた。


――生きるとは、計算できないこと。


それは、

誰のためでもない祈りだった。

だが確かに、

この世界のどこかで

ひとりの人間をあたためていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る