第61話 怒涛の『質問(おいこみ)』。

 たかだか半日ワームを狩ったくらいで生活に疲れ切った人妻のようになっていたカズラさん。


「お兄ちゃん、普通の女の子は一人ぼっちで、まるまる一日まるまると太ったミミズの相手をさせられれば心が病んじゃうよ!?」


「確かに、普段は俺も明石さんもあそこには行かないからなぁ」


「アレは見た目が気持ち悪いものね」


「どうしてそれが分かっていながらカズをあそこに配置したのかな!? かな!?」


 いや、ベテランさんなら大丈夫やおもて。

 ダンジョンから出た後は中務さんとも合流。


「まぁそんなことはどうでもいいのでカズラさんもとっととダンポールの積み込みを手伝ってください」


「幼気な美少女の心にトラウマを植え付けておいてそんなこと扱い!?

 ていうかカズに荷物運びをさせるとかお兄ちゃんとお祖母様くらいなんだからね?」


 倉庫に積み上げれられていた、大量の魔石を車のトランクに積み込むふりをしながらすべてインベントリに回収する。


「……お兄ちゃん、どう考えてもショウコの車のトランクに載せきれるような量じゃなかったはずなんだけど」


「イリュージョンです」


 さすがに遅くなってしまったので晩飯は適当にコンビニで調達。


「……気兼ね無くコンビニで買い物が出来るようになったとか、俺も随分遠くまで来たもんだなぁ」


「柏木さんはダンジョンに入った初日からかなり稼いでいたと思いますが」


「お金を持ってることと、コンビニで買い物をする踏ん切りがつくかどうかは別の問題なんだよなぁ」


 マンションに到着後、


「では明日も朝5時に駐車場集合で」


「えっ? 明日もダンジョンに行くつもりなの!?」


「むしろ明日からが本番ですが何か?

 それでは中務さん、おやすみなさい」


「はい、おやすみなさい」


「いや、どうしてお兄ちゃんはこのまま寝れると思ってるのかな?」


 ……どうしてって夜も遅いからに決まって……あれ? グッナイの挨拶をしたのに全員で俺の部屋に来るんだ? 

 しかたがないのでおにぎり、サンドイッチ、お弁当などなど広げながら今日の反省会というか報告会をすることに。


「まったく……ショウコがポーションに続いてスクロールの話を持ってきた時は詐欺の片棒を担がされるほどに男に入れ込んじゃったのかと呆れ返っちゃったけど」


「フッ、それは葛に私のような殿方を見る目が無いからです」


「初対面の時は中務さんにも結婚詐欺師だと思われてましたけどね?」


「私は初めて柏木くんを見た時から『ああ、この人が運命の人なんだ』って気づいたわよ?」


「明石さんとの初対面はブチギレられながらの壁ドンだったよね?」


 中務さんはともかく、まさか明石さんとここまで深く関わることになるなんて、あの時は思ってもなかったな。


「それで、スクロールを使ってみた感想はどうでした?」


「どうもこうも……想像していた100倍、1000倍凄いものだったわよ……。

 ていうか、今日一日でカズの11年の探索者生活が全部ひっくり返るくらいの体験をしちゃったんだけど?」


 そこから始まるカズラさんからの怒涛の『質問(おいこみ)』。


「そもそも標識板――ポータル・システムだっけ? あれの使い方!

 パーティを組めば経験値の共有が出来るとか、違う場所に飛べるとか!

 いったいお兄ちゃんはどうやって調べたのかな?」


 調べたというか普通に文字が読めるってだけなんだけどね?


「お兄ちゃんからの依頼って確か、

 『全部の標識板を経由しながら20層まで案内して欲しい』

 だったよね? それってもしかしなくても、一度訪れた? 触った? 何にしてもポータル同士で移動したりとかも出来るってことでいいのかな?」


 さすがにお貴族様、鋭い。


「だいたい何なのよあの『裏・第一層』だとか『真・第一層』だとかいう良くわからない空間っ! あんな誰もいない場所で狩りが出来るとかズルすぎじゃない!

 ていうか、今日は1日中狩りをしてたのに魔石1個も見つけられなかったんだけど、それもお兄ちゃんが何かしたからだよね?」


 ただで食べる魔石、美味しいです!


「お兄ちゃんが言うところのジョブをマスター? クラスをアクティベート?

 そのたびに体感で1割近く動きが良くなったように感じたんだけど!

 あれって売ってもらった2種類だけじゃなくて他にもあるんだよね?」


 あっても売らないけどね?


「ミミズの相手ですっかり忘れてたけど、ジョブをマスターすれば魔法も使えるって言ってたけど、ちゃんと使い方も教えて貰えるんだよね?」


 それはワードを唱えるだけだから後で実践して見せます。

 もっとも、今は使えるのが光魔法だけだから、怪我をしてない体に使っても疲労がポンと抜けるだけなんだけどさ。


「それで、ショウコとはどうなの?

 まさかこれだけ夢中にさせといて勝手に好きになったから知らないとか言わないよね? このまま放流とかしないよね?」


 中務さん、まさかのお魚扱い。


「もちろんそれはそれで別にかまわない「まったくよくありませんが!?」……んだけど。

 その場合は鷹司の他の分家から誰か若い娘を……いえ、もうこのさいカズがお嫁さんになってあげるけどどうする?」


「カズラさんはいらないです。

 繰り返します、本当にいらないです」


「どうしてそこだけ返事が早いのかな!? かな!?」


 うん、とても早口。あと話が長い。


 ていうかこの人の、苦し紛れの『お兄ちゃん』呼びはこのまま定着しちゃう感じなの?

 さすがにおかん世代……とまでは言わないけど、どう見ても年上の女性からお兄ちゃんとか呼ばれてるのを他人に見られるのは恥ずかしいんだけど?


「てことでご質問の回答ですが、まとめて『企業秘密』ってことで」


「企業って何よ……って、そういえばショウコが会社を起こしてたわね。

 なるほど、つまりそこにカズが就職すれば教えてくれるってことだよね!」


「いや、そういう意味じゃ」


「もう! なんだかんだでカズのことを束縛しようとするとか素直じゃないんだから」


 だからそういう意味じゃねぇっつってんだろ!!

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