第40話 「たぶんだけど、『そのほうが面白いと思った』とか、そんなくだらない理由だよね?」

 まさか教会がハロワまで『兼業(クラススクロールの販売)』なんてことをしてるとは想像すらできず。

 そんなありきたりな場所で就職できるなら俺の異世界での苦労は一体何だったんだと、しばらく愕然としてしまったが――


「……教会で売ってるなら、他の場所で入手できてもおかしくないよな?」


 などと、当たり前のことをさも重要そうに言うことで心の平穏を取り戻す。

 そもそも、イスカリアでは『クラス・スクロール』なんて見たことも聞いたこともなかったからあくまでも『異世界商店(メルクリウス)』の仕様だと思うしさ。


 幸いにも職業枠はまだひとつ余ってるのだ。

 魔石だって一万容量近く残っているわけだし?

 ここは新しい取引先の開拓といこうじゃないか。


「てことで!

 最初に向かうのはエタン教会とどちらにしようかと悩んだ冒険者ギルドっ!」


 理由は『ラノベだとステイタス確認、つまり自分のクラスを知る場所はだいたい冒険者ギルドだから』である。

 ……まぁイスカリアでは宗教勢力の専売特許だったんだけどさ。


 ディールにある冒険者ギルドの場所は南門の近く。

 冒険者なんて半ば暴力組織の構成員みたいなものだから、街の中でもちょっと治安の悪いエリアで、真っ当な人間はあまり近づかない場所……おっ、ここだここだ。


 さっそく建物に入ろうと、建物をタップ――


『新規取引先の追加には、一律で【魔石一万容量】が必要です』


「思ってた以上に高ぇな!?」


 魔石の残りは9,600……ギリギリ足りないんだけど。


『なんですかお客さん?

 あれだけ飲み食いしておいて、今になって魔石(かね)が足りないじゃこっちだって困るんですよ。

 うちの若いもん付けますんで、今から駅前のATMで下ろしてきてもらえますかね?』


「お前はボッタクリバーか!」


『お兄さん、ほら、あと2000容量!

 それだけ出せたらお兄さんのここからもいっぱい――』


「唐突な下ネタやめろや」


 『闇風俗(たけのこはぎ)』とかマニアックすぎるわ!!


「てかさ。下ろすも何も、魔石はダンジョン行かなきゃ手に入らないよな?」


『とある女性はこう言いました。

 「持ってなければ買えばいいじゃない」と』


「それくらい誰でも言うだろ! いや、この前メルちゃんが言ったよな?

 『狩った』魔石しか使えないって。『買った』魔石はダメだって」


『いいえ? 私はそんなことは言っておりませんよ?』


 いやいやいや、間違いなく『そういうズルをするのは良くない――』

 ……あれ? 確かに『使えない』とは言われなかったような?


「えっ? 何なの?

 じゃあどうしてあの時はあんなややこしい言い方をしたの?

 それならそれで早く教えてくれれば、もっと色々捗ったよね?」


『フッ、人の子よ。

 祝福(ギフト)とは人を寿ぐだけではなく、試練を与えるものでもあるのですよ?』


 こいつ、いきなり女神様プレイを始めやがったぞ?


「ていうか、絶対にそんな真面目な理由じゃないよね?

 たぶんだけど、『そのほうが面白いと思った』とか、そんなくだらない理由だよね?」


『そういう捻くれた考え方、私、良くないと思うんですよ。

 と言いますか、あなたは私の言うことを信用しすぎなのです。

 自分で考えることを放棄しすぎていて心配になったのです。

 これに懲りたら、少しでも疑問に思ったことはその場で聞き返してください』


「……それで実際のところは?」


『素直な少年の反応でその日のご飯が美味しかったです。

 でもその後の反応はちょっといただけませんでした。

 ツッコミが入るかとドキドキしながら待ってたのに、まったく気付かれなくて……思わず心の中で舌打ちしてしまいました』


「ほんとマジこいつは……」


 いや、それを聞いてからそれほど日は経ってないし、むしろ早く気付けたことを喜ぶべきだろう。

 湧き上がる衝動そのままに駆け出して電車に乗り、センニチダンジョンで魔石が買えるのか聞きに行こうかとも思ったけど……時刻はすでに夜の21時。


「ていうか俺は中務さんの専属探索者だしな」


 もしも彼女のいない時間に別の嬢を指名なんてしたら、絶対にあの人の目のハイライトが消えるはず。

 そのあと、3日くらい頬をプクッとさせてそう。……何それ可愛い。


「うん、明日できることは明日でいいか」


* * *


 ――てことで翌日のダンジョン上がり。


「中務さん、管理局(ここ)って買い取った魔石の販売ってしてるんです?」


「またいきなりのお話ですね。もちろん行っております。

 といいますか、迷宮管理局が作られたそもそもの理由が魔石の管理ですので」


「つまり右から左で暴利を貪っている天下り組織であると」


「柏木さんって役人とか政治家を敵視しているふしがありますよね……いえ、もちろんそのような人間が皆無だとは言いませんが、貴族院の政治家などは基本的に手弁当で給金も出ないんですよ?

 ……と、話が逸れましたね。

 そうですね、たとえばセンニチダンジョンの産出のほとんどをしめている一型魔石ですが」


「確か買取価格は一つ100円でしたよね?」


「そうです。それの卸価格が一つ150円。

 小売に並ぶと200円で、こちらは固定価格となっております」


「いきなり1.5倍とかやっぱりボッタクリ――いや、買い取る手間と税金、輸送費に保管費とか考えると下手をすれば赤字?」


「採算は取れていますが、それほどの儲けにはなりませんね。

 といいますか、一型に関しましては新人探索者保護の面もありますので」


 管理局、思っていたよりも真面目な組織らしい。


「もし俺がこちらで魔石を仕入れたいと言えばそれは可能でしょうか?」


「もちろん可能です。……が、ロットが万個単位となっております」


「えっ? ちょっと聞こえなかったのでもう一度お願いします!」


「へっ? ですのでもちろん可能だと……」


「違います! その後っ!!」


「その後? ロットが万――あなたは小学校高学年男子かなにかですか……」


 呆れた顔をしつつも頬を染め、可愛く睨んでくる中務さんだった。

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