姫花 —ヒメバナ—

アリスの鏡

第1話

「人は、恋をすると欲張りになる」


「そう、なの……?」


「そうだよ……今の俺が、そう」


私を見下ろしながら甘い甘い瞳を柔らかく細めて、そう囁くの。私を癒して、慰めて、とことん甘やかすヒト。


そんな目で見つめないで。そんな風に触らないで。


あなたは甘いお菓子のよう。やめたいのに、やめられない。だめだと思う程に、食べたくなる。あなたに会えないと本当に震えてしまうの。



『禁断の果実』



そんな言葉が頭にぼんやりと浮かんで消えた。


「好きだよ」


同じ言葉を返せない私に、切なそうな目を向けるあなたに私の胸は、きゅう、と鳴く。こんな関係はダメだとわかるのに。こんなことは続けられないと思うのに。


「もう会わない」


その一言がどうしても言えなくて。


「終わりにしよう」


なんて、きっとあなたは言わないから。


私は静かに瞳を閉じる。あなたの唇が触れることを知っていて。全てはきっと、さよならの理由が見つからないせい。

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