こたつと猫と侍と
昼月キオリ
こたつと猫と侍と
〜人物〜
<花澄(かすみ)>
主人公(22)
<あんず>
三毛猫(オス)
<青之助(あおのすけ)>
侍(20)
年の瀬。
あんず「にゃあ〜」
一匹の三毛猫があくびと共に伸びをした。
一匹の猫と暮らす花澄はバイトはほどほどに、休日は猫と。
そんな自由きままな一人暮らし。
窓の外。
ビュオーっ、カタカタと寒そうな風の音。
と、その時。
ゴソゴソ。
こたつの中で何かが動いている。
花澄「ん?あんず?」
あんず「にゃ?」
名前を呼ばれたと思ったあんずが私の方を見た。
いや、今あんずは私の横にいる・・・これはまさか幽霊!?
あれって布団に出るんじゃなかった!?てゆーか、こんな真っ昼間から出るの!?
ええい!開けてしまえ!!
ガバっ!!
その瞬間、ガシッと足首を掴まれた。
花澄「きゃああ!!!」(鳥肌が立つ)
あんず「にゃー!!!」(毛が逆立つ)
青之助「うわああ!!!」(鳥肌が立つ)
私が咄嗟にあんずを抱えて部屋の隅まで後退る。
のそ〜っとこたつから出て来たのは袴姿に刀を持った侍みたいな男だ。
何これ、何これ、何これ!?
なんでこたつから侍が出て来んの!?
青之助「ここは・・・どこだ?」
キョロキョロと見渡す侍。
年の瀬。
こたつにみかん。猫と私だけの穏やかな空間のはずだった。
今、目の前に侍が一人現れなければ。
花澄「ひいぃ、こ、殺さないで下さい!!」
青之助「待て待て、誤解するな、殺しはしない」
花澄「じゃあ何ですか、お金ですか、体ですか、何なんですかー!!」
青之助「そうではない、わしは・・・」
ぐう〜。
その時、侍の腹の虫が盛大に鳴った。
青之助「すまん、腹が減っていて・・・恥ずかしいところを見せた」
そう言えばこのお侍さん、かなり頬がこけてる。
ご飯、食べてないのかな?
花澄「み」
青之助「み?」
花澄「みかんなら・・・食べていいですよ」
花澄が恐る恐るこたつの上を指差すと侍がチラッとそれを見る。
青之助「いいのか・・・?あなたの食事では?」
これだけボロボロな状態でお腹も空いていたら無理矢理奪い取ってもおかしくないのに。
悪い人じゃなさそう?
花澄「私はさっきご飯を食べたばかりなので大丈夫です」
青之助「そうか・・・・なら、ありがたく頂くとしよう」
侍はその場にあぐらをかくとみかんの皮を剥き、丸ごと口に入れた。
豪快な人だな・・・よっぽどお腹空いてたんだろうな。
青之助「ありがとう、おかげで助かった、実は丸三日何も食べていなくてな」
花澄「そ、そんなに!?」
青之助「俺は青之助だ、あなたの名前は?」
花澄「か、花澄です」
青之助「花澄か、いい名前だ」
イケメンに初めて褒められた!ラッキー!
花澄「ありがとうございます」
青之助が姿勢を正すと花澄の方に向き直る。
青之助「俺はあなたに命を救われた、この命好きなように使ってくれ」
今好きなようにって言ったこの人?
このお侍さん、今は髪ボサボサでやつれてるけど背高くてガタイも良くて
かなりのイケメンだし、これはチャンスなのでは?・・・ってバカバカ!何考えてるの私!
青之助「何でもする」
花澄「ええと・・・無闇に何でもするなんて言わない方がいいですよ?何かと危ないですから」
青之助「うん?危ないとは?」
花澄「それはつまり、あんなことやこんなことを強要、あまつさえもっとすんごいことに・・・」
青之助「花澄、事情はよく分からんが鼻息が荒いぞ・・・」
花澄「はっ、す、すみません」
青之助「はは、面白い女だなぁ」
キュン!!!
うわぁ、笑顔の破壊力ヤバ!!
こんなイケメンな侍いたら誰だって惚れ・・・ん?
花澄「てゆーか、あなたは誰なの?どこから来たんですか?」
青之助「ん?」
青之助が首を傾げる。
くっ、可愛い顔して!ずるいじゃないの!
青之助「敵に追われ、川に流され、気付いたらここへ」
そんなアホな。
花澄「てことは幽霊じゃない?・・・」
ぐいっと手を掴まれる。
!?!?!?
青之助「ほら、幽霊ではない、幽霊ならば触れられないだろう?」
花澄「わ、分かりましたから手を離して下さい!」
青之助「すまない」
自分から離せと言ったくせにパッと手を離されてちょっぴり残念な気持ちになる。
青之助「先程まであれこれ言っていたのに手に触れただけで慌てるところを見ると本当は純粋なのだな」
花澄「そ、そんなことないです、欲の塊です、本当です」
青之助「はは、ならそういうことにしておこう」
対応まで大人!!
イケメンがイケメンなことするなイケメン!(?)
江戸時代。
侍として生きていたが敵に追われ、川に飛び込んだらこの場所へたどり着いたらしい。
青之助「それにしても、部屋の作りや衣服が俺の暮らしとは随分と違うな、香澄は異国の人間なのか?」
花澄「いえ、違います」
私は、それはタイムスリップという時代を飛び越える現象だと伝えた。
青之助「なんと・・・それでこのような姿形をしているのだな、ふむふむ」
え、そんなあっさり受け入れちゃうの?
そう言えば驚いたのも最初の一瞬だけで後は平然としていたな。
凄い、凄過ぎる!
私は青之助さんにこの部屋から出ないこと。
もし出る時は必ず私と一緒に行くこと。
それからこの時代の格好をすること、とお願いをした。
何かしら断るだろうと思っていたのだけど
この人、何言っても受け入れちゃうんだもん。いえ、そういう意味でなく。
なんでも、命を救われたら"一生忠誠を誓う"と決めているんだとか。
さすが侍。生き方までカッケーな。
あんず「にゃ!」
今まで様子を見ていたあんずがいきなり青之助に飛び移った。
花澄「ちょっ、あんず!?」
青之助「っと・・・可愛いな」
青之助があんずの顎をなでるとゴロゴロと鳴った。
ちょっ、イケメン過多・・・。
青之助「花澄!鼻血が出ている!」
花澄「え?」
青之助「大丈夫か?」
花澄「だいじょぶ、です・・・」
青之助「いや、血が出るのはよほどのことだ」
めちゃ心配してくれてる申し訳ねぇ・・・。
花澄「本当に大丈夫なんです!」
青之助「駄目だ、ちゃんと医者に見せた方がいい」
花澄「ちょ、チョコレート!チョコレート食べ過ぎて!それで・・・」
青之助「うん?チョコレート?」
私は棚に買い置きしてあるチョコレートを見せた。
食べ過ぎたのは嘘だけど。
花澄「えーと、これです」
青之助「これは食べものなのか?」
花澄「そうですよ、こうやって紙から出して・・・はい」
青之助がチョコレートを受け取ると匂いを嗅ぐ。
花澄「毒なんて入ってませんよ」
青之助「いや、花澄から受け取ったものだ、
毒の心配はしていない」
この人、さっきから私をキュン死させる気か?
更にスンスンと匂いを嗅ぐ。
ふふふ、チョコレートの香りに誘惑されておるな。
私も袋から開けた時は必ず嗅ぐから気持ちはものすご〜く分かる。
青之助は興味津々な目でじ〜っとチョコレートを見つめると花澄の方に視線を向けた。
花澄「食べていいですよ」
青之助が頷く。
青之助「ん・・・うまい、うまいな花澄!」
キラキラとした目でこちらを見てくる。
犬か!可愛いなチクショウ!!
花澄「少しなら大丈夫ですけど食べ過ぎると鼻血出るので気を付けて下さいね」
青之助「鼻血が出るのに大丈夫な食べものがあるのだな」
花澄「まぁ、何でも食べ過ぎは良くないです」
青之助「ふむ、確かにご飯の食べ過ぎも腹を下すことがある、気を付けよう」
こうして私と猫と侍の不思議な正月が始まった。
こたつと猫と侍と 昼月キオリ @bluepiece221b
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます