第4話 人類の大地



――――屋敷のあった大きな街の城壁の外は……見渡す限りの茶色い大地だ。


「今は作物が育たない時期ってこと……?」

しかし寒いわけではない。だが遠くの山肌は露出し、枯れ果てたらしい森の木々が群生している。


「砂漠……ってわけじゃないんだよな。単なる水不足……?」

公爵邸では豊かな暮らしをしていたが、外ではその限りではなかったってことか。


【その昔、ヒト族の暮らす土地は豊かだった。ヒト族は豊かな地を奪い取ったんだ】

「奪い取ったって……さっき聞いた最低な簒奪?」


【そう言うこと。元々ここいらはな、魔族と呼ばれたやつらが暮らしていた。しかし数ある種族の中で最弱なヒト族には、魔界に近い貧しく厳しい環境の土地しか残されていなかった】

「弱肉強食って意味ではそうなるのかな」

地球のように人間が優位に文明を築く……と言うのは難しいだろう。


【だが、繁殖能力だけは優秀だったヒト族は、その貧しい土地ではとてもじゃないが暮らしていくことができなかった。ヒト族は周りの種族に助けを求めた。しかし獣人族もエルフ族も余裕がなく、断った。しかし豊かな土地で暮らす魔族たちは、余裕があったからこそ受け入れた】

「え、魔族めちゃくちゃ優しい」

魔族と聞くと恐いイメージを持つが、ヒト族に手を差し伸べていた。


【ヒト族は……それを利用したんだ】

「まさかその土地を魔族から奪い取った……?」


【そうだ。魔族たちの土地で住むところも、着るものも、食うものも恵んでもらいながら、その土地を魔族が治めるのを満足できなかったのさ】

いや……魔族たちが元々暮らしていたのなら当然のことなのに。それに衣食住も保証してもらっていたのに。


【全てを自分たちのものにしようと企てた】

「強欲すぎるだろ」

だがそう言う人間も地球にはたくさんいた。産みの父親も、俺を刺した異母弟のストーカーも、異母弟自身も。


いつだって清く正しく在ったのは、亜璃子だけだ。


【だからヒト族たちは自分たちが魔族に虐げられているとエルフ族や獣人族たちに嘘の情報を与えた。彼らの力と、自分たちの数と、それから女神にもらった強大な力で魔族を急襲し、女子どもを人質に大量虐殺を実行した】

「まさかそれ、初代勇者の魔族討伐とか言わないよな……?」

初代勇者が魔族を倒し、魔界に追いやった伝説。勇者はさらに魔族たちが崇める魔神の配下である古代神を倒し……魔神を屠り、ヒト族に安寧の地をもたらした。


【ん?そうだけど?勇者は最弱のヒト族のために与えられる特別なジョブだが……そのビジュアルを気に入った女神はありとあらゆる便宜をはかった】


「やっぱり女神、面食いか」

どうせレナードにもそれで便宜をはかったのだろう。

そしてレナードが手に入れたがっていた俺に嫉妬し、ギフトを【なし】にすると言う嫌がらせを仕組んだ。前世の異母弟の親派かよ。

いや、女神もレナードの親派であることには変わりないか。


【そうだな、ほんっと色欲に目が眩んだダメ女神だ】

ははは、その通りだ。でも……。


「それでよく、ギフト付与のお務め任されてるね」

【さすがにそん時、勇者に魔族を大量虐殺させ魔界と呼ばれた不毛で過酷な土地に追いやったことは創世神に怒られた。だから暫くはほかの女神が代行してたんだよ】

「マジで。一回反省させられたのにまたやったのか……?」

学習しないとはまさにそう言うことだろう。


【そうさな。謹慎が解けたのにまたやりやがった。ま、俺がついてんだから、お前に手は出させねぇよ】

「うん。頼りにしてるよ、アルベロ」


そしてアルベロと会話をしていれば……モニターが反応している。


「なぁアルベロ、お前の眷属神ってやつ……?何者なの?」

【うん?ティルも知ってるだろう?古代勇者伝説に出てくる古代神だ】

「はいっ!?」

【因みに俺は魔神な】

なんですと――――っ!?


「でも、勇者に屠られたんじゃ……」

【それ、ウソウソ。女神が人類に都合のいいように振り撒いた嘘】

「え……じゃぁ、正確にはどうなんだ……?」


【俺がヒト族の所業に怒って人類蹂躙したけど……飽きたし、ヒト族の身が億劫になってな……肉体捨てて古代神ども連れて、生き残って魔界に追いやられた魔族たちの土地に落ち着いただけ】

「いや……飽きたって……」

そんなんで魔神の蹂躙……終わるのか……?


「アルベロの始まりの肉体はヒト族だったんだ」

【そうだな。そうして生まれた生き神だが、神としての姿は地底種となる】

つまりは先程の姿だな。


当時最も力を持っていた種族の姿の神だが……まるで非力なヒト族の希望となるべく地上に降り立った生き神を……ヒト族は欲を掻いて地底種の姿に変貌させ、怒りを食らったのだ。

いや、むしろ神の姿に近かったからこそ地底種は力を持ったのかも。


「でも、ヒト族の肉体は今の俺と似てるな」

【うむ、半分な】

「半分……?3/4だろ?」

【いや、お前の1/4、地底種。魔族だな。その耳、エルフ族じゃなくて地底種からの遺伝だぞ】

はい――――っ!?俺、魔族の血、引いてたの!?


【その遺伝が濃く出たのは多分……俺の半身だから種族性が引っ張られたのかなぁ~~】

アルベロが呑気すぎるんだけども……!?


「そんなことってある……!?確かにフェヌアは魔界との境界に近いけど」

【魔族も魔界に籠ってるわけじゃない。魔界で生き抜くさながら、長い時間をかけてせっかく豊かな土地にした魔界を奪われないように、人類の土地を見張っているのさ】

つまりはスパイみたいな役割の魔族もいるってこと。俺の祖母もそうだったのだろうか……?


「あれ……魔界は豊かなのか?」

確か強力な魔物が蔓延り、大地は貧しく、痩せている。過酷な環境の土地。


あれ……大地……?


【大地を司る神である俺を祀ってるのに豊かにならないわけがあるか】

「あぁ……確かに」


【そして作物は大地から育つから、俺の領域。緑が豊かになれば環境も変わる】

山や森のもたらす恵みもあるからな。防風林……のような考え方もあるんだろう。


【今の魔界、早く見せてやりてぇな】

「うん……楽しみだ」

あれ、ちょっと待てよ……?


「あの、不毛の大地だった魔界が豊かに、かつて豊かな土地を奪ったはずの人類の土地がこんなになってるのって……まさか」

【うん?俺だってただで働くわきゃぁねぇからな……?俺を魔神だなんて呼びやがるんだ。相応の罰だろ……?それでも豊かにしようとすれば、できるはずだ。ヒト族は進化の可能性を秘めている。その数を使って、ギフトを生かして、知恵を深めて。だがそれをせずに、ただ豊かな土地を奪うことしか考えていない】

「当然と言えば当然かも」

あるところから奪うだけって、何時代の話だ、全く。


【ま、それに気が付いた進化した国もあるが。今から向かうのは、数少ない魔界と交遊のある国だ】

「そっか……だからかな。緑が多いね」

視線の先には緑の山々と森に包まれた土地があった。


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