異世界転生して無能だと追放されたけど、実は最強の存在だった件。
瓊紗
第1話 異世界転生、そして追放
――――ついに、この時が来たか。
「ティルダ・フェヌア、前へ」
「はい」
名を呼ばれ、神官の前へと進み出る。
この世界の住民は15歳になれば誰でも洗礼を受け、女神のギフトと呼ばれるジョブとスキルを授かる。
生まれてはや15年。貴族の家に生まれるも、俺の立場はまさかの愛人の息子。一応正妻の息子に何かあった時のためにと父親に引き取られつつも、正妻が反対したため、俺は母とは離れ離れになった上に母とは連絡がつかない。
でも、せめて……いいギフトすら手に入れば……俺は強引にでもこの家を出て、母さんを探しに行きたい。
祈る願いを込めて……俺は水晶玉に手を伸ばした。
そして水晶玉が光出す。洗礼ってこう言うものなのか……?そうのんびりと構えていた時だった。
――――ほんと、アンタムカつくのよ。だから……そうね。いいこと思い付いた。私は人間たちのステータスにジョブとスキルを付けるのが仕事だけど……アンタにはジョブとスキルに【なし】をあげるわ――――
「え……?だ、誰だ……?」
――――誰だ……ですって……?烏滸がましいのよ。光の女神であるわたくしに向かって!
――――
「ギフトを授けてくれるって言う……光の女神さま……?」
――――そうよぉ。ま、アンタには……【なし】しかやらないけと!せいぜいろくでもない人生を送るがいいわ。あーはっはっはっはっ!!――――
どうしてか……魂の底からムカつくような声が響き、かききえた。
そうか、俺、転生したんだ。
水晶玉に吸い込まれるかのように消えていく光を呆然と見つめながら悟った。
そして目の前の神官が舌打ちする。
「ち……っ、何だ、ハズレか。期待させやがって。この、亜人が」
亜人……か。
俺の母さんがエルフ族の血を引くから……。現に俺の耳はエルフ族のように長い。
こう言うのって普通……前世でよく聞く【ハーフエルフ】のように耳が短めに尖っているんじゃなかったか。尤もこちらの世界ではそのような言い方はしない。ヒト族以外の血が混じっていれば【亜人】だからだ。
わざわざハーフにする必要もない上に……俺は1/4だけだ。3/4ヒト族でも、耳がエルフ族並みに長ければ亜人と称される。
「お貴族さまの紹介じゃなけりゃこの俺が亜人なんぞの洗礼、引き受けたくはなかったのに……っ」
この世界では亜人は差別対象だからな。しかし【魔族】を除いたヒト族、エルフ族、獣人族は【人類】と呼ばれる。人類にはすべからく女神からギフトが送られるから、洗礼を受けなくてはならない。そして神殿で女神に仕える神官は洗礼を授けなくてはならないから。
普通エルフ族ならエルフ族の神官に頼むのだが、色素の薄い髪を好むエルフ族から俺は嫌煙される。この世界では珍しい黒髪だから。瞳はエルフ族に多いエメラルドグリーンの瞳だけど。
さらに美男美女のエルフ族に比べて顔は中性的なところも嫌煙材料のひとつだろうか。
母さんも黒髪のはずだから、エルフ族の居住区にはいられなくなったのだろうか……。
「どうせなら跡継ぎさまがよかったぜ」
神官はそう吐き捨て去ってしまう。そして案の定、跡継ぎ……正妻の息子の洗礼が行われている人だかりの向こうから、歓声が響き渡る。
「勇者さまのご光臨だぁぁぁ――――っ!」
神官長と思われる男の声が響く。
勇者……ね。愛人の子の俺はジョブもスキルもないのに、正妻の子はしっかりと持って生まれたらしい。
「しかもスキルを3つも持っていらっしゃるぞおおぉぉっ!」
普通スキルはひとりひとつ、2つ持っていればさらに喜ばれるのだが……3つも与えられるだなんて、未だかつてない偉業だろう。
しかも勇者である。
そうなれば……保険でとっておかれた俺も用済みだろう。
※※※
予想通り、家に帰った俺は父親からきついビンタを浴びた。そしてその後ろでほくそ笑む正妻。
父親がここに俺を連れて来なければ、俺はずっと母さんと暮らせた。俺は母さんと一緒に暮らせれば、こんな家も、アンタたちも、どうでも良かったんだ。
使用人にまでこき使われ、物置小屋で寝起きする毎日。エルフ族の血を引いてなければ耐えきれなかったかもな。
ヒト族は非力ではあるがほかの種族よりもギフトに恵まれているとされ、世界で絶大なる影響力を持つ。
対するエルフ族や獣人族はヒト族に比べてジョブやスキルは劣るが元々の素質は高いとされるのだ。
魔族は……どの種族よりも強いとされているが、女神のギフトの対象外であるゆえによく分かっていない。
でもま……これでここからおさらばできるんだ。
「お前のような無能は我が家には不要だ!とっとと失せろ!」
父親が怒鳴り付けてくる。
「分かりました」
もう関わりたくもない。金もない、食料もない。まさに着の身着のまま。
「あと、その首の宝石は置いていけ」
は……?
「これは母が祖母から受け継いだものです。元々俺のものです」
だからこいつらにやる理由がない。
「今まで育ててやった手間賃だ。生きて追い出してやるだけでもありがたいと思え」
渡さなきゃ殺すってことか……?俺が亜人の血を引くからってふざけすぎだろ……っ。そして父親の言葉に正妻がぱぁぁっと顔を輝かせる。あの宝石好きババア……俺が唯一母さんから受け継いだ首飾りを狙ってやがったのか。
「はぁ……分かりました」
ここで殺されるよりはましだろう。
俺は首からペンダントを外すと、カランと床に転がした。そしてそれに飛び付くように正妻が拾い上げ、目を輝かせている。ほんと……あからさまだ。
だが、まずはここから生きて出ることが重要だ。俺は振り返らずに、この忌々しき貴族の屋敷を後にした。
ようやっと敷地を抜けた俺に行く宛なんてないけど。やっと、母さんを探しにいける。探すすべなんてないけど。でもたったひとつ。
昔暮らしていた場所は確か……魔界との境界と呼ばれる場所だったと記憶してる。
ここがどこだかもはっきりとは知らないけれど、境界に行けば何か分かるかもしれない。
早速向かおうと足を踏み出した時だった。
「兄さん!」
「……」
この世界で俺をそう呼ぶのはひとりだけだ。
「……レナードさま」
「そんな呼び方しないでよ……兄さん」
そうは言っても……まだ屋敷に近い場所だ。誰かに聞かれたら、俺がお前に無礼を働いたと正妻の憂さ晴らしに何をされるか分からないのだ。
「本当に出ていくつもりなの……?」
「そうですよ」
追い出されたので、もう堂々と出ていける。
「父上もひどすぎる……!兄さんを一文無しに追い出すだなんて……!ぼくが父上にもらった屋敷にこっそり住むってのはどうかな!?父上にも母上にも内緒で兄さんを住まわせてあげる……!」
いや、勘弁してくれ。やっと自由になれたのに。
「バレては大変ですし、結構です」
早く俺を自由にしてくれ。
「でもぼくは勇者だから、今度はあなたを守れる!」
「守るべきものなら、ほかにいくらでもあるはずです」
人類の希望、国からも絶大な保護を受けるであろう勇者から特別視される無能なんてとんでもない。どんな目に遭うやら。
さらにはプラチナブロンドに青い瞳の月も霞むほどの美少年。周囲からの嫉妬や羨望の目も半端ないだろうし。
俺になんて関わらなくても、この子は周囲から愛される。俺は不要なんだよ。
「じゃぁ……じゃぁ……」
今度は何だろう……?まぁ、この子はテンプレのように愛人の子である俺を虐めたりはしなかったが、止めることはなかった。
今までは抗う力がなかった……とも考えられるが。本当にそれだけだったのだろうか……何か、気にかかる。
「兄さん。ぼくのこと、思い出したでしょ……?洗礼の時に女神さまに聞いたんだ……!」
は……?
「ね、兄さん。前世でもずっと一緒だったの……覚えてるでしょ……?ぼくだよ……!
そうか……お前だったのか。
前世の俺の異母弟で、お前は……前世ではお前が愛人の子だったな。
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