第8話

 「あの角を曲がればおもちゃ屋さんさ」と男の子は言いました。

 サンタクロースはプレゼントを配る、という考えから、じゃあ、サンタさんはどこかでおもちゃとかを仕入れているだろうと男の子と女の子は考えました。そこで街で一番大きなおもちゃ屋さんへ行くことにしたのでした。


「おじいさん、どうしたの?」


 おじいさんが足を止めたのを見て、女の子が言いました。おじいさんはなにかに耳を傾けているようでした。


「なにか、遠くから歌が聞こえてくる」


 おじいさんの言葉に男の子と女の子も耳を澄ませます。確かに遠くの方から風に乗って女の人の歌声が聞こえてきます。


「……音楽会よ」


 女の子がつまらなさそうに言いました。


「この先の音楽堂でクリスマスの音楽会がやってるの」


 一言言うとすたすたと歩き始めました。男の子とおじいさんは女の子に引きずられるように歩き始めました。


「音楽会かぁ、集まったお金を恵まれない人の支援に回すってやつだよね。なんだっけ、慈善じぜん活動かつどうって言うんだっけ」

「ほほう。それは感心なことじゃな」


 男の子の言葉におじいさんは目を細めてうなづきました。


「そうだ! サンタクロースの手がかりは、あっちの音楽会の方にあるかもしれないなあ」

 サンタが『プレゼントを配っている』よりも『音楽会のような慈善活動に関係している』方が男の子にはありそうに思えました。

「ないわよ」


 女の子がピシャリと言いました。とても不機嫌そうです。


「なんだよ。なんでそんなことが言い切れるんだよ」


 頭ごなしに否定されたので男の子も少しムッとなりました。


「サンタがプレゼントを配ってるなんて嘘っぱちを信じてるのに、なんで慈善活動に参加するサンタは信じないんだ」

「そんなこと言ってない。

あの音楽会が慈善活動なんてもんじゃないって言ってるの!

今歌ってる人もオルガン演奏している人も……

自分のことしか考えないの!

だから、そんな音楽会なんか偽物、嘘っぱちよ」

「オルガン……?」


 男の子はもう一度、歌声に耳を傾けました。確かに歌声に合わせてオルガンの調しらべが乗っていました。とても小さかったので最初は全く気づきませんでした。


「パイプオルガンじゃの」


 同じように耳を傾けていたおじいさんがポツリといいました。

 まあ、オルガンも演奏されているのは分かりましたが、女の子がなんで嘘っぱちなんていうのかはさっぱりでした。男の子はなんだかわけが分からないという顔でおじいさんの方を見ました。すると、おじいさんも分からない、と言った風に首を小さく横に振りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る