15話 変化した結末

 レイモンが矢を放った直後、ジェラールはナタンとジャッドに覆いかぶさるようにして地面に伏せた。

 ナタンも皆を守るために、全ての力を魔術に注ぐ。


 セレストは矢に気付いたが、止まることなくロボットを撃破し続ける。

 そんな彼から目を離せないでいたレニエが危機に気づいたのは、丁度火がガスに触れる寸前だった。


「な――――」


 レニエが言葉を発する前に、轟音と共に大きな火柱が上がった。



 ナタンは最大限の出力で、防御魔術で爆発の衝撃を防いだ。

 しかし、魔術で防げるのは物理的な干渉だけ。

 そのせいで三人は炎の熱に晒されたが、ジェラールが必死に二人を熱さから守る。


 ナタンが限界に達し、気を失って魔術が解除された頃には周囲は静かになっていた。

 ジェラールも横に倒れ込むと、火傷を負った状態で意識を手放してしまう。



 ジャッドが二人の容態を確認しつつ周囲を見渡すと、バラバラになったロボットの残骸が至る所に転がっていた。

 ナタンが奮闘していなければ、今頃三人とも同じ運命になっていただろう。


「ありがとう、二人とも……」


 そう呟いて応急処置をしようとすると、遠くから複数の人の声が聞こえてきた。







 その頃、レイモンは絶叫しながら落下し続けていた。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」


 なんとか役目は成し遂げたものの、刻々と地面は目の前に迫ってきている。

 そのうえ爆風のせいで、打ち上げられたところからかなり離れたところに落ちそうになっていた。


(あ、これ……死ぬかも……)


 地面まであと数メートルのところで、レイモンは硬く目を閉じた。



 しかし地面は硬くなく、温かくて柔らかった。

 どうやら誰かが寸前のところで彼をキャッチし、その衝撃で倒れてしまったようだ。

 レイモンが目をゆっくり開けると、ヴェロニックが彼の下敷きになっていた。


「……重い」

「っ! ごめん! ありがとう……」


 レイモンが反射的に離れると、ヴェロニックは立ち上がり服についた土を掃い始めた。

 もしかして変なところに触れてしまって怒っているのかと焦ったが、いつも通り平然としている。


 周りには、頂上を目指していたロボット達が何体も居た。

 しかし完全に機能を停止しており、その場から微動だにしない。

 どうやらあの爆発で、司令塔はやられたようだった。


 ヴェロニックは何事もなかったかのように、そのまま丘の上へと足早に歩き始めてしまった。


「あ、ちょっと! おいていくな!」


 レイモンも慌てて、彼女と一緒に坂を登り始めた。




 二人が到着すると、まだ土煙が舞っている中に多くの人が集まっていた。

 どうやら近くにいた医療班や先生たちが、爆発を聞きつけてやってきたみたいだ。

 意識のないナタンとジェラールは、応急処置を受けて担架で運ばれるところだった。


「二人とも、良かった無事で!」


 声のした方を向くと、頭に包帯を巻いたジャッドがこちらに駆けつけてきた。

 幸い彼女は、そこまで大きな怪我を負っていないみたいだ。


「ナタンとジェラール先生は?」


 レイモンがそう聞くと、彼女は不器用にほほ笑んだ。


「二人とも重傷だけど、たぶん大丈夫よ。

 医療班がすぐに駆けつけてくれなかったら、危なかったかもしれないけど。

 ……アデルはどうしたの?」


 レイモンとヴェロニックは顔を見合わせた後、彼女とお互いの身に起きたことを共有することにした。

 ジャッドは二人の話を聞いた後、とても暗い顔をした。


「……そう、まさかアデルが死にかけるなんて。

 でも、本当に助けてくれてありがとう。

 貴方達が来てくれなかったらと考えると、とても恐ろしいわ」


 ジャッドは二人の不安をかき消すかのように、優しい顔を見せた。

 だが彼女の無理を察したかのように、ヴェロニックが話題を変えた。


「……セレストとレニエ先生は?」


「分からない。

 視界が悪すぎて、今先生たちが二人を――」


「おーい! いたぞ!」


 突然、駆け付けた先生の一人が声を上げた。

 三人はその場にいた人たちと一緒に、声のした方向へ走り出す。

 そしてその先にあるものを目にしたレイモンは、思わず手で口を塞いだ。




 ――そこに転がっていたのは、全身黒焦げになったレニエだった。


 爆発をもろに食らったらしく、体の色々なところが欠損している。

 顔もただれていて、一瞬誰なのか分からなかったほどだ。

 そんな状態なのに、レニエは目を見開いて必死にヒュウヒュウと呼吸をしている。


「うぷっ……」


 あまりもの悲惨さに、レイモンは吐き気が込み上げてきた。


 レニエがこんな状態になっているのは、火矢を放った自分のせいだ。

 やむを得なかったとはいえ、自分は人を殺す気でいた。

 そう考えると、口の中がすごく酸っぱくなる。


(これが……”敵を倒す”ってこと……?)


 これから参戦すれば、こんな光景なんて当たり前になる。

 その事実が、レイモンを圧し潰そうとしていた。



 そんな死にぞこないの彼を、医療班の一人が担架に乗せようとしたその時。


「……どけ」


 聞き覚えのある声がしたかと思うと、レニエのそばにいた医療班が全員蹴飛ばされた。

 その人物はそのまま彼の前に立ち、荒々しく右足で彼の体を踏んづけて血を吐かせる。


 ……セレストだ。

 彼も爆発に巻き込まれたはずだが、謎の魔術でそれも無効化してしまったみたいだった。

 憎悪に囚われた彼は、傷一つなくピンピンしている。


 彼がレニエの首に刀を突きつけると、レニエの呼吸が荒くなった。

 レニエはしゃべることができないのか、必死に目線で命乞いをしている。

 しかしセレストはお構いなしに、冷徹に刀を高く振り上げる。


「待って!」


 彼を止めたのは、レイモンの隣にいたジャッドだった。

 刀はレニエの首を切り落とす直前で止まったが、レニエの首から僅かに血が滴り落ちている。

 セレストは怒りを隠すことなく、彼女を見たことのない形相で睨みつけた。


「確かに彼は、死刑に当たることをしたわ。

 でも、今は生かさないとダメ!

 もしかすると、彼からグエッラに関する有益な情報を引き出せるかもしれない……!」


 ジャッドは真摯な態度で、セレストを説得しようとした。

 彼は未だにジャッドを睨み続けていて、外野のレイモンでも固唾を飲んでしまう程の緊張感が走った。




 だがセレストは素直に刀を鞘に納めた。

 そして何も言わず、ただならぬ気迫を漂わせたままその場を去ってしまった。

 周囲の空気すら凍りつくような殺気を残して。



 レニエは少し安堵した様子を見せたが、その後ジャッドが彼の傍で冷たい目線を落とした。


「――チュテレール第二王女の名において宣言する。

 ピエール・レニエ、貴方を殺人未遂と国家反逆罪で逮捕する」

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