第14話 ありがとうさようなら
なるほど理解した。
レディは、きっと鎧マニアなんだろう。
間違いない。
そうじゃないと、一目惚れなんて言葉が出てくるわけがないんだ。
なぜなら僕は、暑いも寒い日も、晴れの日も雨の日も風の日も雪の日だって。
日中は相棒であるこの全身鎧を身に纏っているのだから。
兜を脱いで過ごすことが許されているのは、起きて武具庫に駆け込むまでの間と仕事が片付いた後。
しかし、それは全て隊舎内の話であって、僕達王都衛兵隊が明るい時間に外で素顔を晒すことはない。
だというのに、目の前の美貌のレディは僕に一目惚れしたのだと紳士が言う。
常識的に考えればあり得ないね。
あり得ないんだけど、そう言い切るには紳士の顔があまりにも真剣だった。
であれば、いよいよこの虫も殺さないようなレディが生粋の鎧好きだと認定せざるを得なくなる。
もしかすると、鎧の傷に色気を感じるとか、そういう類の癖をお持ちなのかもしれない。
「鎧ですか? 殿方のようにとはまいりませんが、決して嫌いではありません。そう。最近は特に」
鎧が好きかと尋ねた僕に、綺麗なお顔にニコリ……じゃなく、どちらかというとニチャリと表現した方がしっくりくる湿った笑みを向けてくるレディ。
抱き締めたら折れちゃいそうな華奢な女性のはずなのに、その瞳には獲物を見つめる獣のような獰猛さがあった。
鎧に対してあんな目をするなんて、いよいよ本物じゃないか。
ひどいよ神様。
本体である僕より先に、全身鎧にモテの季節がやってくるなんてあんまりだ。
「それより衛兵さん……いえ、ミハル様。いかがでしょうか。ワタクシの恋人にというお話は、検討いただけますか?」
検討とはいっても、この鎧は衛兵隊の持ち物だ。
僕の一存で譲って差し上げることはできないので、一旦持ち帰って上に諮る必要がある。
まあ、お貴族様からの要請なら断ることはないだろうけど、そうなるとこの鎧ともお別れか。
三年間ありがとう相棒。
そしてさようなら。
僕は、新しい鎧とともに王都の平和を守ることにするよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます