第11話 再会と拒絶
謎の魔族との交戦から3日経った。魔族はあれから姿を見せていない。村の周辺では時々魔物が姿を現したので、オクトゥス含めた騎士たちが難なく片付けた。
そして4日目の夜更け、オクトゥスは一人で森の奥へと向かっていた。
公式の任務ではない。個人的な、いや、衝動的な行動だった。あの血痕を見てから、彼の心は休まることがなかった。魔族の正体に対する疑念が、日に日に強くなっていく。
目指すのは、森の奥にある古い小屋だった。かつて、幼い頃のヘレナと二人で秘密基地にしていた場所。今はもう誰も使っていない、忘れ去られた建物。
森の奥へは朝焼けの光は届きにくく、木々の隙間からわずかに差し込む程度だった。オクトゥスは足音を殺して歩いていた。革靴が落ち葉を踏む音さえ、この静寂の中では大きく響いて聞こえる。
やがて、小屋が見えてきた。
朽ちかけた木造の壁。蔦に覆われた屋根。しかし、窓から微かな光が漏れていた。誰かがいる。小屋の地面をよく見ると、血と思われる液体の跡が続いていた。
オクトゥスの心臓が激しく鼓動を始めた。剣の柄に手をかけながら、彼は慎重に小屋に近づく。扉の前で一度立ち止まり、深く息を吸い込んだ。
そして、扉を押し開ける。
ギィ……
古い蝶番が軋む音が、夜の静寂を破った。
小屋の中は薄暗く、朝焼けの薄い陽の光だけが室内を照らしていた。そして、その光の中に異形の存在があった。
いや、そこに身をかがめて肩を震わせていたのは、銀色の髪をした少女だった。
髪は銀色と赤みがかった漆黒が混ざり合い、瞳は紅玉色だが、どこか水晶のように輝きが揺らめいている。
見たことのない半人半魔の状態。そして、左の脇腹を抑えている。
どのような姿でも間違えることはない。愛し続けたヘレナだった。
魔族、いやヘレナが背後の気配に気がついて振り向き、二人の視線が交錯した瞬間、時が止まったような静寂が流れた。ヘレナの表情に、驚愕と絶望が同時に浮かぶ。そして——
「来ないで!」
その叫び声が、小屋の中に響いた。ヘレナの瞳が、完全に紅玉色に変わる。恐怖と愛情、そして拒絶が入り混じった、痛ましい叫びだった。
オクトゥスは立ち尽くしていた。そして剣の柄に触れていた手を離した。
オクトゥスは、約束通り、騎士になってヘレナと再会できたものの、それは拒絶の言葉と共に始まったのだった。
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