第34話 吐露
「……美樹の言う通り、保健委員というのは嘘だ……。手当てをする保健委員を演じて、本当は毒を盛っていたんだ……」
毒――。ぞっとした悠希は、机上のコップを見つめる。薬を飲むための水が入っているが、そこに何が混ぜられているのか……。
永山は暗い表情で、睫毛を伏せたまま言った。
「……シアン化カリウムだ。……青酸カリ、と言った方が分かりやすいか」
その名は、医学の知識がない悠希でも知っている。ドラマや小説の中に出てくるような、猛毒の代名詞みたいなやつだ。
それがこのコップの水に仕込まれていた――。もう少しで口にするところだった悠希は、永山に毒殺されかけたのだとはっきり理解して震えた。
「……なんで、そんな毒が学校にあるんだ……」
手当ての場であるこの保健室に、本来そんな危険な物が置いてあるはずがない。いや、保健室以外の部屋や教室にだって、普通中学校にはどこにも保管されてなどいないに決まっているだろう。
永山はゲーム開始直後に取った自分の行動を思い出していた。
「……理科準備室から取ってきた。あそこは……星野のプライベートルームみたいなところだからな……」
通常であれば理科準備室にもシアン化カリウムはラインナップされていない薬品だったが、部屋の管理を任されていた星野正視が、個人的に仕入れていたのだ。
理科の教師である星野の趣味は、昆虫標本を自作すること。殺処理の際に、ハチやハエなど一部の虫には、薬剤としてシアン化カリウムを使う場合があった。
教え子たちに向けて星野がそう話すのを、永山は聞いて覚えていたのだ。この殺し合いゲームが始まった時、殺人に利用できると考えた。
「……ほかの参加者を減らすことが出来る……。薬を飲ませる際に、コップの水に混ぜておくことで、毒殺していくことを思いついたんだ……」
理科準備室を出た永山は、シアン化カリウムのボトルを手に、この保健室へといの一番に入る。保健委員に成りすまして、怪我人の介抱に当たった。
委員という役職に安心しきった参加者は、傷の痛みを和らげるためだと、手当ての最後に鎮痛剤を渡される。コップの水を用意しておくのは、もちろん永山だ。
隙を見て水に猛毒を溶かし、何食わぬ顔でコップを差し出す。受け取った怪我人は、まさか毒が仕込んであるとは考えも及びつかないまま、疑うことなく経口摂取してしまうという流れだった。
「……そうやって僕は、田中と加勢を殺した……。実際に青酸カリで人が死ぬところは、初めて見た。……もの凄い威力だったよ」
深町慎太郎に銃で撃たれていた田中と加勢は、別々のタイミングで保健室に入っており、順番に殺されていった。
二人とも永山の保健委員であるという言葉に疑問を抱かず、処置技術の高さにすっかり警戒心を解いていた。早く銃によって受けた傷の傷みから解放されたいと、薬を水で飲んだところで、猛烈に苦しみ出したのだ。
摂取後すぐに喉元を押さえるようにして、異常だと感じ呻き声を漏らす。急速に神経を冒されたことで、絶叫を上げることさえままならなかった。
口から泡を吹き、血走った目で無茶苦茶に悶える。そのまま床へと倒れ込み……強烈な死相で息を引き取った。
「……そんな……」
永山から具体的な犯行の手順、そして田中と加勢の死に際を聞いて、悠希は多大な精神的ダメージを受けた。しばらく立ち尽くしたままで茫然としてしまっていたが、しだいに永山への怒りを募らせていく……。
「……二人は、お前のことを信用して、手当てを任せたんだ。それを、お前は……」
クラスメイトの寄せる信頼の心を踏みにじった。負傷して弱ったところを、保健委員だなどと嘘の言葉で騙して、巧みなやり方で意図的に殺したのだ。
そんな永山の狡猾さ、卑怯な戦術が、悠希には我慢がならないものであったが……。永山には永山で、反論があるのだった。
「僕だって……殺したくて殺しているわけじゃない。でも、仕方ないだろう。こんなゲームに、僕たちは巻き込まれてしまったんだ」
殺せる時に殺しておくしかない――。それがこの、一方的に強要された殺人ゲームの、確かな真理であった。少なくとも、永山はそう捉えたからこそ、このように参加者を毒殺するというアイディアに
運営に言われた通りに人を殺してしまった永山に対して、悠希はそうじゃないと首を振った。
「お前は間違ってるよ永山……。そんな風に殺し合うんじゃなくて、みんなで協力して手を取り合えば、きっと……」
しかし、悠希の説得は遮られてしまう。永山はきっとした目つきで立ち上がると、何をのんきなことをとばかり、悠希に食ってかかった。
「そんな甘いことを言っていたら! 美樹が……」
美樹? 奏が何だというのだろう。永山が唐突に出した奏の名字に、悠希はわけが分からず戸惑っていた。
そこで悠希は、はっと気づく。傍らに立っていた奏が、何やらおかしな行動を取ろうとしていることに。
悠希と永山が互いの価値観をぶつけ合い、ヒートアップしている中で、それは密かに実行されようとしていた。二人とも意見を戦わせるのに夢中になっていて、奏の動きを察知することが出来なかったのだ。
悠希や永山のすぐそばで、奏は――。こともあろうか、さっき悠希が飲まされそうになっていた毒入りの水を、コップを手にして飲もうとしているところだった。
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