双子英才教育実験
ちびまるフォイ
社長適正:サイコパス
とある大企業の社長は悩んでいた。
悩みのタネは自分の双子だった。
「はあ、この仕事を継がせたいと思っていたのに
いったいどこで育て方を間違ったのか……」
双子の片方は悪い仲間とツルんで毎日暴走。
もう片方は日がな一日ゲームで引きこもり。
まるで自分の後席をになえるような人材に育たなかった。
そこで社長はある闇医者に声をかけた。
「自分の子供があんまりにもポンコツで、
私の会社の二代目を任せられないんです。
なんかめっちゃ頭よくなる薬とかないですか?」
「そんなものあるわけないでしょ」
「ですよね……」
「でも赤ちゃんに戻す薬はありますよ?
それで育て直してみては?」
「薬を飲んで子供に戻せるの、アニメだけじゃないんですね!!」
社長は大喜びで自分の双子に薬を飲ませた。
みるみる小さくなって、自我すらもたない赤ちゃんへと遡行した。
「おお、これで子育てリトライできる!!」
社長は大喜び。
しかし問題は自分の過去の教育どこがミスっていたのか。
それがわからない点にあった。
そのうえ、赤ちゃんに戻せる薬は1人体で1回まで。
失敗したからと何度もリトライできるわけじゃない。
闇医者ですら念押ししていた。
「前回と同じ育て方をしても同じ結果になるだろう。
別々の育て方を実践してみて、より良い成長した方へ
私の社長の座をゆずるようにしてみよう!」
社長は使い切れないだけのお金をぶっこんで、
それぞれにとっての完璧な環境を作り上げることにした。
ひとりめの子供は、徹底した英才教育環境を作り上げた。
バカで無能な他人とのつながりを一切遮断。
自分とモニターしか無い場所での隔離生活。
そのうえで、徹底した教育と教材を整え
AIによる先進的なIQ向上教育を行うことにした。
「もう世間にあふれるアホに感化されず、
完璧で完全な知識を得られるぞ!
よし、もう一方は……」
片方は対象的な教育を行うことにした。
もう片方は隔離ではなくオープンな環境。
多くの人間、多くのコミュニティに参加させ
一般人が一生で関わる人間関係を大きく上回るほどの
コミュニケーションの環境へと放り込んだ。
その代わり、勉強だの教育だのの一切は与えない。
とにかく人とのつながりを無尽蔵に与えるようにした。
「これで人の扱い方がきっとわかるはずだ。
いったいどっちの双子がより社長に向いてるのかな」
社長は子供の成長は部下やAIにお任せして、
ひたすらに会社を大きくして子どもたちに任せたくなるように努力した。
やがて双子たちが成人を迎える頃、
社長はその成長を久方ぶりに確かめようと戻った。
まずは多くの人間に触れ合わせたほうの双子。
「さて、経過はどんな感じかな……?」
子供は戦国でも活躍できそうな人たらしへと成長。
他人の才能を見抜いて、それを引き出す能力に長けていた。
口からつむがれる言葉は多くの人を魅了し、
高いリーダーシップとコミュニケーション力を持っていた。
「これは社長にぴったりかもしれん!
教育はまちがってなかったんだ!」
しょっぱなから大成功を収めたと大喜び。
しかし一方で算数テストの結果を見るや社長の顔色がくもった。
「……え、こんな簡単な計算もできないの?」
他人を扱う能力には優れていても、
本人の基礎能力は著しく低い結果になった。
「これじゃ社長は任せられない……。
社長はたくさんの経済判断や利益計算を考えなくちゃなのに。
もう片方の双子にかけよう……」
社長はあきらめて、別の育て方をしたもう片方の様子を見に行く。
もう片方の子供はあきらかに様子が違った。
テストの結果を確かめるとすべて満点。
そのうえIQも一般人を遥かに超えており、
パズルやボードゲームで世界王者を凌駕するほど。
「こ、これはすごい……!
やっぱりこっちの育て方のがよかったんじゃないか!」
驚異的な知能を持つ子供が爆誕し、
社長は大喜びで実際の子供をたしかめた。
子供の顔を見ると、社長の顔はふたたび藍色に曇った。
「なにあれ……」
人との交流を絶ち、教育漬けで育った子供は
常になんかブツブツ言いながら落ち着かない様子だった。
誰が見ても挙動不審でつねに不安そうな姿をしている。
社長はがっくりと肩を落とした。
「社長は常にドシンと構えてなくちゃいけないのに。
いくら頭が良くってもあれじゃなぁ……」
もう自分の子供というよりも、
単に優れたスーパーコンピューターに等しかった。
問題の解決能力は高そうだが、
他人というノイズ入り乱れるカオス環境で
そのたぐいまれな頭脳が発揮できるとは思えない。
社長はまた頭をかかえてしまった。
「ああ、結局どっちもダメじゃないか!
英才教育しても人じゃなくなるし、
他人とかかわらせたらバカになる。どうすればいいんだ!!」
外部の得体のしれない人間に
社長の座をゆずったりするのは絶対嫌だ。
どういう人間なのかを誰よりも知っている人間。
すなわち子供に会社はつがせたい。
なのにどうして優れた一世の後には、ポンコツの二世しかできないのか。
悩んだ社長はふたたび闇医者の元へと訪れた。
「おや、久しぶりですね社長」
「まあ……」
「浮かない顔ですね。その後子供は?」
「どっちも大失敗だよ。ひとりは賢い不審者。
もうひとりはカリスマ性のあるバカになったよ」
「なんとまあ……。でももう1回服用はできませんよ?
あの薬は何度も巻き戻せるわけじゃないんです」
「それは知ってる」
「で、どうするんです? 次期社長は?」
「……実はそれで話があるから呼んだんだ」
「なるほど。次期社長になるべき人材を見分ける力の薬?
それとも社長のセンスを高める薬?
そんなものならいくらでも処方できますよ」
息巻く闇医者に対し、社長は別の答えを出した。
「双子を溶かして合体させ1人の人間にさせる薬。持ってるだろう?」
数日後、社長の家系図には双子のくだりが消える。
非常に頭がキレて、人の扱いに長ける生物が次期社長となった。
双子英才教育実験 ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます