第4話

武器の購入から約1ヶ月。


買った木刀を使い、協会支部の地下にある訓練場で薙刀の使い方を必死に練習した。


学校?行っても不審者扱いされることわかってるのに行くわけがないだろ。


学籍もなくなってるかもしれない。学校が生活に必須かと言われたら微妙だし、電話も特に来てないからな。


多分大丈夫だろ…多分


 まだできるのは基礎的なことだけだが、練習ばかりでは俺の家にできたダンジョンで『スタンピード』が起こってしまう。


起こるまでは平均半年だと言われているし、できて1ヶ月で起こるわけはないだろうが...早めに攻略するに越したことはない。


 よし、そうと決まったら、早速探索を始めるか。


家にあるダンジョンは、この一ヶ月のうちに、場所だけ確認して放置していた。


確かクローゼットに出現してたっけな。


扉を開くと、一見は真っ黒な壁になっており、表面に触れると、水面のように波打つ。


水だと俺の部屋に流れてくるはずだから、水ではないんだが。


これも不思議物質ということか。


そこから手を押し込むと、ズブズブと俺の体が真っ暗な壁に入り込んでいく。


顔まで入ると、レンガで覆われた少し大きめの部屋が見える。


大体8畳くらいかな?


このレンガの部屋は、ゲームで言うホーム画面。


ダンジョンには数階層ごとにセーブ地点が存在し、ここからすべてのセーブ地点へと移動できる。


世間では『第0階層』とも呼ばれている場所だ。


この次からが第1階層となる。


一応、ゲートの横にある宝玉の数字を変えれば、別の階層から開始するというのも可能だ。


今回が最初の探索だからこの仕様が特に関係あるって訳じゃないけど。


さらに、0階層にはモンスターも居ないし、入る人数によって拡張する仕組みだから、広さに際限がない。


まぁ、この部屋に俺以外の誰かが入ることは無いだろうけど。


「それじゃあ、早速潜るか」


そう呟いて、眼の前の真っ黒なゲートからダンジョンの第1階層へと入る。


そして視界に映るのは、0階層と同じ雰囲気をした、レンガ製の通路。


「…迷宮型だな。一番難易度が高い型なんだっけか?」


ダンジョンには様々な型がある。


森林型、洞窟型、平原型、塔型、神殿型――俺が知っているのはこのくらいか。


それぞれにいろいろな特色があり、迷宮型は、途中から罠が設置され、敵も他の型にくらべて強め。


バランスがよく、すべてが標準以上に高いとされている。


まぁ、良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏というものだな。


人に使う表現だから、合ってるかは知らん。


「お、モンスターだ」


入口から約5分歩いて、見つけたのはスライム1体。


浅い階層でよく出る、かなり弱いモンスターだ。ランクはF。


ステータスを持っていない子供ですら倒せる弱さだ。


最初が弱いからと言って、このダンジョンのランクが低いわけではない。


市役所の方も言っていたが、どのダンジョンでも同じ感じだ。


どんな型でも、どんなランクでも、最初の敵は子どもでも倒せる。


その後の難易度はどんどんと変わっていくが。


 持っていた薙刀を、中心にある丸いコアに向かって一振り。


振るった刃は周りにある水のようなものをスッと通り抜け、コアを砕く。


スライムは消え、あとには何も残らずに消滅する。


ドロップ品はなし。


魔石でもあるコアを破壊しているのだから、当たり前っちゃ当たり前なのだが。


他のモンスターと同じで、コア以外を削っていけば、いずれ倒せはする。


だが、コアを破壊するより、遥かに時間がかかるんだよな。


この方法でやると、だいたい2分ぐらいかかる。


レベルを上げれば同じくらいの時間で行けるけどね。


今の時点じゃものすごく遅い。


〈モンスターの初討伐を確認。ステータスを獲得しました〉


「よし、ステータスゲット。早速確認するか」


どんな感じになっているかな〜?


できれば、薙刀に適したステータスであればいいけど…


―――――――――――――――――――――――――――

月城柊羽:18歳

種族:人間 Lv1

性別:男

職業:《取得可能なものから選んでください▼》

ランキング:圏外


魔力:11/11

攻撃:7(+5)

知力:6

防御:5(+4)

精神:5

速度:8

器用:4


スキル:『風魔法:F』、『料理:E』

SP:2《取得可能なスキル一覧▼》

―――――――――――――――――――――――――――


「風魔法……よし、当たりだな」


魔法は風、水、土、雷、氷、火、光、闇の8種類。


この中でも、風、水、光がソロだと当たりだ。


水と光は回復ができて、風は自身の周りに移動可能なシールドみたいなものを張ることができる。


土とか氷にも、壁を作る魔法はあるんだけど…位置が固定だから、あまり戦闘には向かないんだよな。


基本は休息の時だけしか使えない。


余談だが、魔法の発現割合は約5%と言われている。


一説では探索者になっていない人を合わせれば確率は変わるだろうとも言われている。


根拠がないために、まともに聞き入れられてはいないが。


案外、有り得そうな話だけど、俺がどうこう言っても仕方がないことだし、気にしなくてもいいだろう。


ステータスに関しても、正直当たりであると言っても良い。


速度が8、攻撃が7、知力が6と高めの数値。


その代わりに防御を捨てた、良い配分だ。


速度特化の魔法戦士みたいな感じの配分に見えるな。


まぁ、ここから結構変わることもあるらしいし、まだわからんな。


攻撃よりも知力が高かったのに、レベルを上げてみたら攻撃のほうが高くなった〜みたいな事例は珍しくない。


んで、正直一番気になっている部分が一つ。


スキル欄の料理って何?どゆこと?なんで初期からEなの?


確かに、両親が亡くなってからは完全自炊だったけどさ。それだけで?


もしかしてそれだけで料理Eになった?


…とりあえず今は後回しだ。先に適当な職業でも選ぼう。


選択可能な職業のリストは…この三角矢印から開けるのか。


―――――――――――――――――――――――――――

取得可能な職業一覧

 ・探索者  ・訓練生  ・市民  ・ニート

―――――――――――――――――――――――――――


なんか、訓練生とニートって少し矛盾してない?


というか、俺全然ニートじゃないんだけど?何でそういう判定に?


…あー、でもよく考えりゃあ、今の俺って、学生の身分も無くなって、本当にニートみたいな感じなのか。


今のところ、親が遺してくれた遺産を食いつぶしてる状態だし。


なんなら、家だと家事以外のことはゲームか筋トレしかしてない。


まぁ、無難に探索者って職業でいいや。


この中で一番戦闘職っぽいのなんて、これしかないだろうし。


特にニートなんか、嫌な予感しかしない。


〈職業が探索者に設定されました〉


職業の決定が終わり、俺は再び歩き始める。


一つ一つの階層はそこまで広くもないはずだし、5階層ぐらいならすぐに終わる。


ササッと行ってしまおう―――



―――結局、ほぼ何事もなく、順調に5階層まで進んでいった。


モンスターは全く変わらず、ずっとスライム。


数は増えたが、相変わらず弱いままだ。


一応2レベルだけ上がっている。


先程軽く確認をしたのだが…速度に何があったのかと問いたい。


レベル3だよ?20って何?いくらなんでも高すぎじゃない?平均って10とかじゃないっけ?


…とりあえず、SPはしばらく使う予定もないので、温存することにした。


ボス戦の前にやればいいだろうと考えているが、実際どうするのが正解なんだろうか。


入手してすぐに使うのか、温存して欲しいスキルを取っていくのか……


 まぁいいや、当面はみんなの記憶を戻すことが目標だし、頑張って探索でもしますか。


え?記憶を使って戻す手段もあるだろって?全員は無理だ。


一応…一番可能性が高いのは紫苑だな。


15年以上一緒にいるし、ある程度は思い出があるだろう。


というか、もし無かったら流石に悲しい。15年も一緒で思い出ゼロは普通に泣ける。


まぁ、紫苑が全て思い出すほどの強烈なものはない気もするけど。


なんかあったっけな――



――翌日。


今日は上がったステータスに体を慣らすために、修練場で俺が思いつく限りの訓練をやる。


一応、レベルが上がったときに、そのへんの感覚も調整してくれるそうなのだが…やって損はないだろう。


少しの間動きの練習や素振りをしたら、仮想敵と戦う。


この施設には、それぞれの武器を持った人形の仮想敵と、モンスターを再現した仮想敵を出せる機械が置いてある。


「そろそろ人形以外の仮想敵を相手にして戦ってみるか」


 今までは、人形の仮想敵を相手にしていたが、対人戦が強くなってもあまり意味がない。


探索者である以上、モンスター相手に戦うのが仕事だしな。


 その後、休憩も挟みつつ訓練をやり続けて、約8時間。


かなり慣れてきたところで、今日は帰宅だ。


修練場の使用料は1時間1000円。


これを1日おきにやるから、1ヶ月で12万。


装備や生活費も合わせたら、


 稼ぐためにも、頻繁にダンジョンへ潜らないとならない。探索と訓練を交互にやればいいかな。最低でも、1日で2日分の生活費は稼がないといけない。けれども、今のままじゃ、生活費には全く足りない……


 親から受け継いだお金の節約方法を考えつつも、俺は家までの道中を歩んだ。



後書き プチ解説 〜天賦〜

超簡単に言えば、才能の度合い。最大値は100、最低値は-100。


最大値に近いほど、それに関する才能があり、最低値に近いほど才能が乏しい。0が常人くらい。


100あれば最初からそのスキルを持っています。-100だと入手が絶望的と言っても過言ではないです。

 参考までに柊羽の天賦を一部だけ。


〈武器〉

片手剣-80

大剣-90

斧-80

弓0

薙刀90

槍60

斧槍80

短剣30

銃40

〈魔法〉

風100

水0

氷30

雷70

火0

光-100

闇-100

〈その他〉

料理100


だいたいこんな感じです。ブレがすごい感じですね。


もちろん、バランス型みたいな人だったりもいます。マジで人それぞれです。


ちなみに、柊羽に剣や斧を使わせたら今の戦闘力の半分を余裕で下回ります。


以上、意外と重要な天賦でした。

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