第4話 反逆



 葵に連れられて訪れたのは、街の外れにある廃工場だった。


「ここに同じような人たちが集まってる」


 重い扉を開けると、中には二十人ほどの人々がいた。年齢も性別もバラバラ。でも、共通点がある。


「みんな、新しい仲間だよ」


 葵の紹介に、人々が静かに頷いた。


「ここにいるのは、スコア60以下。でも、まだ諦めてない人たち」


 中心にいた中年の男性が前に出てきた。


「私は桐生。元システムエンジニアです……今はもう、ほとんど誰にも認識されてないけどね」


 桐生さんのスコアは「38.2」危険なラインだ。


「みんなに説明しよう。このスコアシステムの正体と、私たちの計画を」


 巨大なホワイトボードに、複雑な図が描かれていく。


「スコアシステムの中核は『コンセンサス・エンジン』と呼ばれるAI。これが、全人類のオンライン活動を監視し、スコアを算出している」


「でも、それだけじゃない」

 葵が続けた。


「このシステムは、人々の認識自体を操作してる。低スコアの人間を、物理的に消すんじゃない。周囲の人々の記憶と認識から消すの」


「そして、スコアが一定以下になると、実際に……」


 桐生さんが重い口調で続けた。

「消滅する。量子レベルで、存在が書き換えられる」


 室内がざわついた。


「そんなこと、可能なの?」


「可能かどうかじゃない。実際に起きてる」


 桐生さんは別の図を示した。


「このシステムは、量子コンピューティングと神経科学、そして集団意識の研究を統合した究極の支配装置だ」


「じゃあ、どうやって対抗するの?」


 私は尋ねた。


「システムの弱点を突く」


 葵が答える。


「コンセンサス・エンジンは、人々の集団意識に依存してる。もし、大勢の人が同時にシステムを拒絶したら……」


「システムが崩壊する」


 桐生さんが続けた。


「でも、そのためには、高スコアの人々を目覚めさせる必要がある。解放する……。洗脳から」


 計画は簡単ではなかった。


 まず、システムの監視を回避する必要がある。私たちは、特殊な電磁シールドで囲まれた空間でのみ活動できる。


 次に、真実を広める方法。でも、SNSに投稿すれば即座に削除される。


「だから、アナログで行く」


 桐生さんは古い印刷機を指差した。


「ビラを作って、直接配る」


「でも、低スコアの私たちが配っても誰も見てくれないんじゃ……」


「だから、君たちの役割が重要なんだ」


 桐生さんが指差したのは、私と、もう一人の女の子。


「柏木遥。スコア72.3。ギリギリ社会に認識されるライン」


 遥は小さく会釈した。


「君たちは、まだ完全には消えていない。だから、高スコアの人々に接触してビラを渡せる」


「でも……捕まったら」


「捕まるも何も、もう失うものなんてないだろう?」


 桐生さんの言葉は厳しいが、真実だった。


 深夜、私と遥は街に出た。


 手には、真実を記したビラが入ったバッグ。


「緊張する?」

 遥が聞いた。


「死ぬほど」


 私たちは笑った。こんな状況でも、笑えることが不思議だった。



 深夜営業のカフェ。高スコアの大学生たちが集まる場所。


 私たちは、さりげなくビラをテーブルに置いていく。


「何これ」


 一人が拾い上げた。


 ビラには、こう書かれていた

 「あなたは洗脳されています」

 「スコアシステムは支配の道具です」

 「消えた人々を思い出してください」


「何これ、陰謀論?」


 笑う声。でも、一人だけ——真剣な顔でビラを読んでいる男子学生がいた。


「ちょっと待って……確かに、最近変だと思ってたんだ。友達が一人、急にいなくなって。でも、誰もそのことを覚えてない」


「まさか……」


 ざわめきが広がる。


 その時、カフェの大画面に警告が表示された。


 「テロリスト警報:低スコア破壊活動分子が検知されました」


 私と遥の顔写真が映し出される。


「走って!」

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