人生の手札事故
地崎守 晶
人生の手札事故
嗚呼、どうしよう。事態はどんどん悪化していって、なすがままにされるしかない。
過呼吸、肩でする息がうるさい。汗がシャツに染み、喉の奥はとっくに干上がって飲み込む唾も出てこない。
突き付けられたのはジョーカーだけ。
十分準備して臨んだはずの大口案件。それが蓋を開けてみれば一番肝心な箇所のミスが発覚し、見事なほど崩壊していく。お客様の声が鋭く、同僚上司の目線が冷たい。
半ば無駄と分かっていながら、挽回する手段がないか、手元の資料と会社人生のノウハウというデッキを必死に手繰る。まっさきに縋りつきたいAさんは昨日からコロナで病欠。これで一気に選択肢が狭まる。今一度お時間を下さい、と宣言――ただの遅延戦術。僅かばかりの時間を稼いだところで、奇跡は起きないのだ。
あの時もそうだ。無邪気な夢でエントリーした大会の決勝戦、最後の一押しというところでドローした一枚。用意したコンボが成り立たなくなり、あまりにも無様な敗退を晒して折れた心のままに破いたカードの、これは報いか。
ここまでくるともはや嘆くよりも笑うしかない。煮るなり焼くなり好きにしてくれ!
捲り続けていた資料を放り投げた。あの敗北の時の手札のように。
人生の手札事故 地崎守 晶 @kararu11
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