第5章 世界が壊れた日

 真司と徹と登校し、放課後も一緒に遊んで晩ご飯も一緒に食べていた。

しだいに美月といる時間も減っていった。学校では美月がサッカー部のエースと付き合っているという噂が広がっていた。

肩の荷が1つ降りた。俺と一緒にいたらいけない。美月と話すこともなくなった。


 ボーリングやカラオケ、ゲームやサッカー、バスケ、勉強、毎日夜遅くまで遊んだ。

「今週の土曜部活の大会だから遊べない。すまん」

真司が手を合わせて言った。

「何言ってんだよ、今回も優勝しろよぉお、くそ!」

ゲームをしながら言った。

「弱すぎだろ。」腹を抱えて笑う徹。

「スポーツでは全敗のくせに」

真司がお菓子を片手に持って笑う。ここ1か月で徹とも親友になった。毎日誰かの家に行って遊んでいる。


 週が明けて学校に登校した。

いつもより学校が騒がしかった。教室に入るといつもはみんなと話している真司が机を見つめていた。

それを横目に真司の肩に飛びついた。

「おはよ」

真司は机を見つめていた。

そこに書かれていた言葉は、黒の油性ペンで深く、強く、まるで机を傷つけるみたいに刻まれていた。

ーードーピング野郎。

喉が詰まる。

真司は何も言わない。

離れたところで話していた徹がスマホを差し出してきた。

拡散された動画。

編集された切り取り。

再生数は、友情よりも速く伸びていた。

「お前も関わるな。」

その一言は、正論みたいな顔をしていた。

「真司はそんなことする奴じゃない。」

そう言った声は、教室の差喚きに簡単に飲み込まれた。

俺が気づいてないだけでネットでは大騒ぎだった。

真司は次の日から学校に来なくなった。


 それでも毎日真司の家に行って遊んだ。この騒ぎもすぐに収まる、そしたらまた遊べる、そう自分に言い聞かせながら。

「しんじー、今日も遊びに来たぞ」

いつの通り真司の家に遊びに行く。

いつもなら徹もいたがこの騒ぎがあって真司を避けるようになった。

真司は日に日に痩せていった。目の下の影が濃くなり、笑うたびに、その笑顔がどこか遅れて動く。

感情がワンテンポずれているみたいに。


テレビが流れていた。

「世界でもっとも珍しい病気」特集。

テレビの光だけ自分たち2人を照らす。

「2位は早老…。5000万人に…です。」

ただ静かにテレビを見ていた。テレビの音はいつもより大きく聞こえた。

「1位は、…病。特徴は感……が失われていく…」

そこで真司が話しかけてきた。

「何?」一瞬迷っているそぶりを見せたが口を開いて話し始めた。

「なんで、りくは一緒にいてくれるの?」

テレビを見ながら答えた。

「何でって、親友だからに決まってるだろ。世界に1人だけの大親友だから。」

でもその時の真司の目に浮かんだ色は、感謝でも、安堵でもなかった。

真っ黒で目の奥が濁っているように見えた。この時の真司の目は今までで一番怖かった。

「ありがと」

この日はテレビだけ見て帰った。


 ネットは止まらない。

言葉は時に刃物にだってなる。事実よりも疑惑の方が甘くて、人はそれを舐めたがる。

廊下ですれ違う視線。小さな笑い声。無責任な断定。それが人の心を閉ざす。

真司は自分とはゲームをしてくれる。

勝っても負けても、表情は同じ。喜びも、悔しさも、どこか薄い。

「世界って、綺麗だと思うか」

ある日、突然聞かれた。

「当たり前だろ」

俺は咄嗟にそう答えてしまった。その答えが、真司にとってどれほど遠かったのかも知らずに。

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