おいそがシンデレラ〜ジャンルごちゃまぜ短編集〜
もんごん
第1話 シンデレライオン・ハート
昔々あるところに、シンデレラという名の孤児がいました。
シンデレラは引き取られた親戚の家の子たちにいじめられていました。
その上料理や洗濯、掃除などの家事を全部押し付けられていました。
ひいひい言いながらお屋敷の床を磨くシンデレラを見下ろしながら、意地悪な継母は、使用人を雇う費用が浮いて助かったわ、と言っておーっほっほっほと高笑いをするのでした。
「ちっ。今に見てろよ」
シンデレラはこの程度のことでくじける女ではありませんでした。
シンデレラは真剣に体を鍛え始めました。
腹筋、腕立て伏せ、スクワット。
器具なんてないので自重だけでできるトレーニングをひたすら繰り返しました。
初めのうちは数回動かすだけで大変でしたが、必死で頑張るうちにだんだんと回数がこなせるようになっていきました。
ある日シンデレラは、戯れにリンゴを握りつぶしてみました。
ぐしゃ
「えっ、うそ、こんな大きなりんごが粉々に?これが、私の力…」
シンデレラは喜びに震えながらこぶしを握りしめてニヤリと笑いました。
「ふ、ふふふふふ…」
シンデレラは己が進んだ道が間違っていなかったことを確信しました。
そして五年後。
継母と娘たちは、見上げるように大きく成長したシンデレラを前に悲鳴を上げたのでした。
分厚い胸板、鋭い眼光、振り乱した黄金に輝く長い髪…
そう。それはまさしく一頭のライオン。
どんなに厳しく扱われても決して気高い誇りを失わなかった誠の勇者がそこに立っていたのです。
ばーん。
「今まで世話になったな。だがもう十分に恩は返せたと思う。私はこれから旅に出ます。それではみなさん、お元気で」
「は、はい。お世話になりました…」
震えながら腰を抜かす親戚家族を尻目に、シンデレライオン・ハートは意気揚々とお屋敷を出て行ったのでした。
「おお。これが世界か。何もかもが、素晴らしい。花も草木も、なんと美しいのだ。旅に出ることにして、本当に良かった」
シンデレライオン・ハートは長く見られなかった美しい景色を存分に楽しみました。
と、そこへ…
「まてまて〜、ガラスの靴の人〜」
川を挟んだ遠くの小道で、身分の高そうな若者が平民の娘を追いかけ回しているのが目に入りました。
「む。これはいかん」
シンデレライオン・ハートは目にも留まらぬ速さで走り出し、幅5メートルはあろうかという川をひらりと飛び越えました。
そして、堂々と娘と若者の間に立ち塞がったのです。
ああ。
威風堂々としたその姿。
まさしくライオン。
シンデレライオン・ハートここにあり。
ばーん。
「ひ、ひいい…」
若者は驚いて腰を抜かしました。
「さあ、お嬢さん。この隙にお逃げなさい」
「は、はい。あの、よろしければぜひお名前を…」
「シンデレライオン・ハート」
「シンデレライオン・ハート…。素敵なお名前…。このご恩は、決して忘れません!」
娘は名残惜しそうに何度も振り返りながら去っていきました。
「さて。そこの若いお方。ちょいとおいたが過ぎたようですな」
「な、何だと!?ば、ぼくを誰だと心得る!この国の、王子なんだぞ!」
「なに、王子ですとな!?」
シンデレライオン・ハートはショックを受けました。
「一国の王子ともあろうお方がこのような戯れ事にうつつを抜かしておってはいけませんぞ。いずれお世継ぎとなられる大事な身。そうですな。やはりまずは何と言っても体を鍛えることをお勧め致します。健全な精神は健全な肉体に宿ると言いますからな。他のことはその後すればよろしい。さあ。このシンデレライオン・ハートとともに爽やかな汗を流しましょう。己の筋肉と極限まで向き合い、その声に耳を澄ますのです。さあ。一、二、一、二」
「うわ〜ん、嫌だよお〜」
「む。鬼ごっこですかな。私は負けませんぞ」
そう言って、シンデレライオン・ハートは逃げる王子様を追いかけて幸せそうに走っていくのでした。
その時王子様にはお付きの者も何人かいたのですが、シンデレライオン・ハートなる不思議な女性が王子様の根性を叩き直してくれるならそれもいいかなと思ってあははと笑いながら見送ったのでした。
…そうです。
忘れかけていましたが、シンデレライオン・ハートも年頃の女性だったのです。
今はまだ想像もつきませんが、彼女は将来あの王子様と結ばれることになります。
その上二人の子供に恵まれ、王家の一員として幸せな一生を過ごすことになるのです。
もちろん、彼らを描いた家族の肖像画はライオンのようなたくましい姿の人物で埋め尽くされることになるでしょう。
めでたしめでたし。
がおー。
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