3. なんだと麒麟谷くん
今週も火曜日の2限がやってきた。
本当に麒麟谷くんが来る確証なんてなかったけど、少なくとも彼が来るのを楽しみしている自分がいる。いや、違うな。正しくは彼によって昼食がもたらされるのを、楽しみにしている。だからもちろん朝ごはんは食べていない。
少し早めに教室に到着すると、麒麟谷くんがいた。ただし、今日は椅子の上に。
「…本当にいるんだ」
私は彼の横の席に荷物を置く。しかし、私に気がつく気配はない。
「お、おーい」
…声をかけるが、彼は机に顔を伏したまま動かない。
「麒麟谷くーん…?」
私はそっと肩を叩く。
…動かない。
本当に微動だにしない。呼吸してるのかすら怪しい。
「ちょっ…ねぇ、生きてる??」
麒麟谷くんの両肩を掴んで強引に揺さぶると、小さな呻き声と共に、彼は目を開けた。
「んん…あぁ、君か…」
どうやら眠っていたらしく、彼は伸びをする。
「…死んだのかと思った」
はぁ、とため息が出る。呆れた顔で麒麟谷くんを見つめると、彼は瞼を擦りながら答える
「気がついたら寝てしまっていたみたいだ…40分か…よく寝たな。それにしても今日はお早い到着だね。まだ授業まで20分もある。」
麒麟谷くんは右手の腕時計をチラッと見る。
「そんなにお腹が空いたのかい?」
続けて私の顔を、にやっとみる。
「別に!早くついただけだし!!」
私が麒麟谷くんを睨みつけると、彼はくすくすと笑った。
「…いいもん。今日のお昼は鯖の味噌煮って決めてるから。あと海老カツと茄子の甘酢炒めとお味噌汁と五目ご飯と…」
「わかったわかった。好きなのを好きなだけ食べればいいよ」
「ところで、」
麒麟谷くんは私の方を向き、人差し指を立てて続ける
「僕は考えたんだ、机の下に100分間もいるのはナンセンスなんじゃないかと。幸い記憶力はいい方なので、君のように授業中狂ったように筆を走らせる必要はないが…やっぱりメモを取りたい時はあるし、授業中に伸びをしたい時もある。机の下で講義を受けるのは、いささか非効率的だとね。」
どうやら麒麟谷くんの辞書には失礼という言葉は存在しないらしい。
「うん。私も麒麟谷くんみたいに狂ったように机の下でじっと動かず、耳を立てるのはナンセンスだと思う。」
「そうだろう!だから僕は考えた!どうしたらもっと快適に講義を受けることができるのか、と。」
「そんなの椅子の上に座って受ければいいじゃん」
「その通りだ!僕もその結論に辿り着いた。椅子に座り、適切な姿勢でノートをとり、適切な視界で講義をうける。これこそ最も快適であると」
そうして彼は人差し指で机に規則的なリズムを刻む。
「最初からそうすりゃいいじゃん!麒麟谷君、小谷先生に目ぇつけられてるからそれが無理なんでしょ。一体どうするの?変装でもするつもり?」
麒麟谷君は私の言葉を聞いて、悪そうな笑顔を浮かべた。
「そう。僕は変装をする。」
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