第15話 永遠、今日と同じ温度
【朝 → 甘やかし】
朝が来る。
いつものように、リリアの意識は、みるくの腕の中で、みるくの体温に包まれて浮上した。
もう、どちらの体温か、わからない。
二人の熱は、一晩かけて完全に混ざり合い、一つの「安心」という温度になっていた。
「ん…」
リリアが身じろぎすると、待ってましたとばかりに、頭上で、くすくす、と笑う声がした。
「おはよう、リリアちゃん。今日も、私の可愛い人」
「(むぅ)…おはようございます、みるくさん。わたくしが起きるのを、待ってましたわね…」
「当たり前だよ。リリアちゃんの寝顔を撫でながら、リリアちゃんが甘えて起きてくるのを待つのが、私の一番の幸せなんだから」
リリアは、言われるがままに、みるくの胸に顔をうずめ、充電するように、ぎゅっと抱きつく。
みるくは、その小さな体を、優しく、優しく、撫で続ける。
第7回で確立された「撫でながら起こす」ルーティン。
それは、もはや「行動」ではなく、二人の呼吸そのものだった。
「みるくさん、お腹が空きましたわ」
「はいはい。じゃあ、起きないとね」
「みるくさんが、運んでください」
「しょうがないなぁ、甘えん坊さん」
みるくは、リリアをまるでコアラのように抱きかかえたまま、器用にベッドを抜け出し、リビングのソファまで運ぶ。
キッチンからは、完璧な朝食の匂いが漂い始める。
第8回で確立された「甘やかしキッチン」。
その湯気は、二人の生活が滞りなく循環していることの、何よりの証拠だった。
***
【昼 → 共生】
学校。
二人は、手を繋いで登校し、教室の隣り合った席に座る。
授業中、リリアは、時折、みるくの手に、自分の小指をそっと絡める。
みるくは、ノートを取りながら、その指を、優しく握り返す。
それだけで、二人の共鳴は完了する。
言葉は、いらない。
昼休み。
みるくが広げた、完璧なお弁当(二つ)。
リリアが、当然のように「あーん」と口を開ける。
みるくが、当然のように、一番美味しい卵焼きを、その口に運ぶ。
第9回で確立された「完全シンクロ」。
周囲のクラスメイトたちは、もはや、その光景を「尊い壁画」か何かのように、静かに見守っている。
二人の世界は、外界(やわらかい風)と共存しながら、完璧に「二人だけの世界」として、そこに在り続けた。
***
【夜 → 寄り添って眠る】
「「ただいま」」
第9回で確立された、完璧な同時帰宅。
手を洗い、パジャマに着替え、ソファに座る。
リリアは、宣言するまでもなく、みるくの膝の上に、するり、と頭を乗せた。
みるくは、息をするように、リリアの髪を梳き始めた。
第10回で確立された「膝の上の天国」。
二人は、今日あった、他愛もない話をする。
「今日の数学、少し難しかったですわ」
「あ、あの問題? 私もわかんなかった。今度、ミユちゃんに聞いてみようか」
「ミユさんは、わたくしたちの聖域を乱すので、却下ですわ」
「あはは、聖域って…」
第12回のように、ベランダに出るまでもなく、リビングのソファの上で、二人の幸福な一体感は、夜の静けさと共に、どこまでも深まっていく。
やがて、眠気が訪れる。
二人は、どちらからともなく、寝室の、あのキングサイズのベッドへと向かう。
「おやすみなさい、みるくさん」
「おやすみ、リリアちゃん」
みるくの腕の中。リリアの定位置。
第6回で確立された「安心の形」。
リリアは、みるくの胸に顔をうずめ、今日という一日が、昨日と、一昨日と、そして、明日と、明後日と、何も変わらない幸福で満たされていることを、確信していた。
不安も、葛藤も、不足も、嫉妬も、何もない。
ただ、完璧な「甘やかし」と「甘え」の円環が、ここにあるだけ。
「(うとうとしながら)…みるくさん」
「んー?」
「…今日も幸せ、でしたわ…」
みるくは、リリアの背中を、ゆっくりと、あやすように叩きながら、ささやいた。
「うん。…明日も幸せだよ、リリアちゃん」
リリアは、その言葉にもう、何の疑いも持たなかった。
ただ、絶対的な信頼の中で、とろけるような眠りに落ちていく。
その、意識が途切れる、最後の瞬間に。
リリアは、夢と現の境界で、小さな、しかし、世界で一番幸福な声で、こう答えた。
リリア:「はい…。その次の日も、ずっとね…」
永続幸福。
二人の物語は、一旦ここで終わる。
だが、二人の「生活」は、終わらない。
明日も、明後日も、一年後も、十年後も。
きっと二人は、今日とまったく同じ温度で、互いを甘やかし、互いに甘え続けていくのだろう。
この、永遠に続く、甘い循環の中で。
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