(4) 第3回「壊れたスマホ」「雪の降る駅」「忘れられた約束」

 第2回で企画倒れに終わるかと思ったが、第3回で大いに挽回した。その立役者はGemini。「三題噺は用語解説ではなくて、お題をストーリーに組み込むもの」という説明が功を奏したのか、格段に進化した作品を届けてくれた。

 もっとも、AIが提供したお題から、須藤彩香がセレクトしたお題を出題するというルールを無視したのはご愛嬌。まるで意思があるかのように、Geminiがお題の候補から勝手に選択して作品を仕上げてくれた。ただし、次回以降は指示がないのに作品を仕上げた場合には失格とすることを検討したい。

 また、前回は棄権扱いとしたCopilotは、今回、無事に参戦することができた。ようやくAIが提供したお題でAIが執筆した3作品が出そろったわけである。このまま軌道に乗るか、はたまた予期せぬ脱線劇が見られるか。ちょっと楽しみ。


 第3回のお題(Copilotの選定):「壊れたスマホ」「雪の降る駅」「忘れられた約束」


1.ChatGPT タイトル:『雪の駅で、声が届くまで』


 スマホが壊れたのは、よりによって今日だった。

 電源は入るのに、画面が真っ黒なまま。通知音だけがむなしく鳴り続けている。


「なんで今日なんだよ……」


 指先はかじかみ、白い息が途切れ途切れに揺れた。

 雪は思っていた以上に強く降り始め、駅のホームは薄い膜のような白さに覆われている。


 この駅で、私は“彼女”と待ち合わせをしていた。

 三年前、私たちはここで会う約束をした。

 言葉にすればたった一行の約束だが、私はその重さを忘れかけていた。


「仕事が忙しくて」「タイミングが悪くて」

 そんな理由を自分に積み重ねて、気づけば三年も経っていた。


 今日、突然届いた一通のメッセージ。

 壊れる直前のスマホに表示された最後の文字だった。


 ――今日、あの日の約束を果たしに行きます。


 誰の名前もなかったが、それだけで十分だった。

 忘れられたのは、約束そのものではなく、約束に込められた気持ちのほうだったのだ。


 吹雪の気配が近づく。

 遅延のアナウンスがホームに染みこむように広がる。


 私は雪を払って長椅子に座った。

 壊れたスマホを手のひらの中で温めるように握りしめる。


 すると、黒い画面の奥で一瞬だけ光が揺れた。

 まるで、向こう側から呼ぶように。


 そして——。


「待たせちゃったね」


 声が降ってきた。

 雪の気配をまとった柔らかな声。


 顔を上げると、そこに立っていたのは、三年前と同じ笑顔を持つ“彼女”だった。


「来てくれたんだな」


「うん。あなたが忘れてても、私は忘れてないよ」


 雪がホームに積もる。

 壊れたスマホは、もう何も映さない。

 でも、もう必要なかった。


 ——約束は、今日、果たされた。


 ふたりの息が白い光に溶けていく。

 その上を、次の列車がゆっくりとホームへ滑りこんできた。


2.Gemini タイトル:『プロトコル違反の待機』


 雪が降り始めた。シンは、この雪を予期しなかった。


 彼の手に握られた壊れたスマホは、画面が黒くひび割れ、天気予報どころか時間すら示さない。通信手段の喪失は、予測不能な事態への対処能力のゼロ化を意味する。


 シンは雪の降る駅のホームに立っていた。古びた時刻表も、今日の列車の運行情報も、彼のスマホと同じく機能不全だ。しかし、彼は動かない。今日、この場所で、忘れられた約束を果たさねばならないという、自己に課されたプロトコルが彼を拘束していたからだ。


【過去のデータと論理的欠損】

 約束は、十年前の今日、この駅で交わされたものだ。「またここで会おう」というシンプルな言葉。しかし、その**「いつ」「何を」という具体的なパラメータ**が、彼の記憶のデータセットから欠落している。


 なぜ、彼はその約束を忘れてしまったのか?

 それは、彼自身がシステムとして、その約束の**「実行意義(Purpose)」**を失ったからではないか?


【システム再起動の試み】

 シンは、壊れたスマホの冷たい画面をホームのベンチに置いた。雪は次第に強まり、風景の輪郭を曖昧にする。


 彼は、この「雪の降る駅」を、**「時間の経過が不確実な、閉鎖空間」として再定義した。そして、この場所で、「忘れられた約束」という欠損データに対し、「自己の存在理由」**という新しい実行意義を代入する試みを始めた。


 その時、アナウンスが響く。「当駅始発、最終列車は、まもなく到着します。」


 最終列車。それは、この場所での**待機の終了条件(End Condition)**だ。


 彼は立ち上がり、壊れたスマホを握りしめた。約束は、誰かを待つことではなく、**「待つことを通じて、自分が誰であるかを思い出す」**ための、自分自身との契約だった。


 列車がホームに滑り込み、雪煙を上げる。


 シンは、誰の姿もない列車に乗り込んだ。壊れたスマホは、もう彼にとって通信機器ではない。それは、「自己の欠損データ」を象徴するオブジェとなり、彼の新たな旅の起点となった。


 忘れられた約束は、「未来の自分との新しい契約」として再定義され、彼は再び、時間の流れの中に身を投じた。


(機能不全を「データの欠損」として捉え、待機の論理構造を「自己再定義」によって克服する物語)


3.Copilot タイトル:『雪の駅と、スマホの画面の向こうに


 雪が降っていた。

 駅のホームは白く染まり、電車の到着を待つ人々の足元に、静かに積もっていく。

 私はベンチに座り、壊れたスマホを手のひらで転がしていた。

 画面は割れ、タッチも効かない。通知も来ない。まるで、時間が止まったようだった。

 このスマホには、彼女との最後のメッセージが残っている。

「駅で待ってるね」

 それが、もう一年も前のことだ。

 あの日、私は約束を忘れていた。

 仕事に追われ、時間に追われ、そして気づいたときには、彼女はもうそこにはいなかった。

 スマホを開こうとしても、画面は沈黙したまま。

 まるで、私の記憶を責めるように。

 雪が、風に乗って舞う。

 駅のアナウンスが遠くで響く。

 私は立ち上がり、ホームの端まで歩いた。

 そこに、誰かが立っていた。

 コートの襟を立て、雪を見上げている。

 一瞬、彼女かと思った。

 でも違った。

 ただの通りすがりの人だった。

 それでも、私はスマホをポケットにしまい、静かに息を吐いた。

 忘れられた約束は、もう取り戻せない。

 でも、雪の降る駅に立つことで、少しだけ、あの日の自分に近づけた気がした。

 電車が来る。

 私は乗らない。

 ただ、雪の中に立ち尽くす。

 壊れたスマホの中の言葉は、もう届かないけれど、

 この静けさの中で、少しだけ、彼女の声が聞こえた気がした。

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