第25話門司港日帰りドタバタ紀行。

博多駅から門司港レトロへ向かうはずだった6人は、うきうき気分でホームに立っていた。双子ちゃんは駅弁やお菓子を抱えて、すっかり小旅行気分。


「今日はレトロな街並み楽しむっちゃね!」

「ソフトクリームも絶対食べるけん!」


 そんな声を上げながら、やってきた列車に飛び乗った。


 しかし、しばらくして——。


 窓の外を眺めていた光子が首を傾げる。

「優ちゃん……なんかこの電車、いつもより短くない?」


 優子も眉をひそめる。

「ほんとやん。しかも、いつも見よる景色と違うごたぁよ……」


 吉塚駅を過ぎたあたりで、異変に気づいたのは優馬だった。

「……あれ?ちょっと待って、これ鹿児島本線やなかろう?うそ、間違えた……」


「えーー!?またお父さんやろ!?」

 双子ちゃんの声が車内に響き渡る。


 美香が額に手を当てて苦笑い。

「もう……どんだけ迷子になると?」


 美鈴も呆れ半分、笑い半分で肩をすくめる。

「優馬、また“迷い大人”になっとるやん」


 優馬は頭をかきながら、申し訳なさそうに言った。

「す、すまん!福北ゆたか線に乗ってしもうた……」


 双子ちゃんは顔を見合わせて、同時に叫んだ。

「「お父さん、また伝説作ったーー!!」」


 車内は一気に爆笑ムードに包まれた。




 結局、「ここまで来たらもう珍道中ば楽しもうや!」と誰からともなく声が上がり、一行は直方で降りることになった。乗り換えの待ち時間に駅の売店で肉まんやお茶を買い込み、ちょっとしたピクニック気分。


 優子が地図を見ながら言う。

「次は黒崎でまた乗り換えやって!」


 電車に揺られて黒崎駅に着くと、光子がパッと顔を輝かせた。

「ねぇ優ちゃん!ここ、お母さんの旧姓と一緒やん!」


「ほんとやん!“黒崎美鈴”やったっちゃろ?」


 双子ちゃんの声に、美鈴は一瞬照れくさそうに笑った。

「そうそう、懐かしかねぇ……。あんたたち、よう覚えとったねぇ」


 美香がすかさず茶化す。

「お母さん、黒崎美鈴って、なんか芸能人みたいな響きやね」


 アキラも頷きながら笑う。

「確かに。アイドルグループにいそうっすよね」


 その場の空気がどっと和んで、優馬は少し胸を張って言った。

「でもな、“黒崎美鈴”やった人が、今は俺の奥さんやけん!」


 すると双子ちゃんは同時に突っ込む。

「「はいはい!のろけタイムきた〜!」」


 車内は再び爆笑に包まれ、乗り換えの珍道中さえも、家族の大事な思い出になっていった。



 黒崎駅に降り立つと、ホームの柱に掲げられた「黒崎駅」の駅名標が目に飛び込んできた。


「お母さんの旧姓と一緒やん!」と双子ちゃんが声を揃えると、美鈴は恥ずかしそうに笑いながら、思わず駅名標の前にしゃがみ込んだ。


「じゃあ、せっかくだけん、記念写真ば撮ろうか」優馬が提案する。


 すぐに双子ちゃんが美鈴の左にちょこんと並び、にこにことピースサイン。右側には優馬とアキラが腰をかがめて肩を寄せ合う。美香も「私も!」と笑顔で美鈴の隣にしゃがみこみ、ピースを決める。


 シャッターを切った瞬間、みんなの笑顔がひとつの額縁に収まった。

「はいチーズ!」


 カメラの画面に映ったのは、どこか照れくさそうにしながらも、最高に幸せそうな家族の笑顔だった。


「お母さん、なんか駅の名前と並んだら、自分の名前の看板みたいやね!」と光子が言うと、優子も続ける。

「ほんとやん!“黒崎美鈴”って、ここが本拠地みたいやん!」


 美鈴は苦笑しながらも、どこか嬉しそうにその写真を眺めていた。




 門司港レトロの街並みを歩いていると、レンガ造りの建物や、港に浮かぶ船の景色に思わず目を奪われる一行。だが、光子と優子の頭の中は、すでに「焼きカレー」でいっぱいだった。


「ねぇねぇ、まだ?焼きカレーまだ?」と光子が腕を引っ張れば、

「お腹すいて歩けんごとなる〜」と優子がオーバーにお腹をさすって見せる。


 美香が笑って「そんな急がんでも逃げんけん」とツッコミを入れるが、双子ちゃんは待ちきれない。


 そこで優子がふと思いついて言った。

「よし、じゃあここで“焼きカレー謎かけ大会”ばしようや!」


 光子もノリノリで手を叩く。

「いいね〜!うちが最初にいくばい!」


 光子:

「焼きカレーとかけまして、夏の宿題とときます。その心は――」

 みんなが一斉に顔をのぞきこむ。

「どっちも“あとであとで”言いながら結局アツアツで泣きます!」


「うまい!」と拍手がわき起こる。


 続いて優子:

「焼きカレーとかけまして、うちのお父さんのドライブとときます。その心は――」

「その心は?」と全員。

「いつも道を“カレー”して(カレて)迷子になるでしょう!」


「ぶはははは!」一同大爆笑。

 優馬は「おいおい!」と苦笑いしながらも否定できず、耳まで赤くなる。


 ここで美香も参戦。

「じゃあ私も。焼きカレーとかけまして、恋愛相談とときます。その心は――」

「その心は?」

「時間をかけた方が、じっくり味が出ます!」


「おぉ〜!」「さすがお姉ちゃん!」と双子ちゃんも感心。


 最後に美鈴が静かに言った。

「焼きカレーとかけまして、子育てとときます。その心は――」

「その心は?」

「手間ひまかけんと、美味しくならんとよ」


 その一言に、全員一瞬シンとした後、「なるほど〜!」と拍手喝采。


 こうして“焼きカレー謎かけ大会”でひとしきり盛り上がった一行は、笑いながら門司港のレストランへと足を運ぶのだった。




 ついに双子ちゃんの願いが叶い、一行は門司港名物「焼きカレー」の店に入った。

 運ばれてきた大きなお皿には、香ばしいチーズの焦げ目、スパイシーな香り、そして真ん中にはとろりとした卵。


「きゃー!見て見て!めっちゃおいしそう!」

 光子はスプーンを握りしめ、目をキラキラさせる。


「うち、写真撮っとこ!インスタ映え間違いなしやん!」

 優子はスマホを構えながら、思わずヨダレをゴクリ。


 ひとくち食べると、ふたり同時に「うまっ!!」と叫び、店内の空気を揺らす。

 熱々のご飯にカレーが染み込み、チーズと卵がとろけて、口いっぱいに広がる。


「これ、毎日食べたい〜!」

「給食に出てほしい〜!」


 テンションMAXで焼きカレーを完食した双子ちゃん。お腹も心も満たされて、大満足の笑顔を浮かべる。


 その後は、海沿いの古い街並みをのんびり散策。赤煉瓦の倉庫や洋風建築が並び、どこか懐かしい雰囲気に包まれる。双子ちゃんは「ここでまた漫才ライブできそう!」と騒ぎながら、美香と美鈴は「あんたら、どこでもステージにするんやね」と苦笑。


 そして、次のお楽しみは「観光トロッコ列車」。

 昔の貨物線を活用したレトロな列車に乗り込み、ガタゴトと揺られながら海沿いの景色を堪能する。


「見て見て!海がキラキラしとる!」

「わぁ〜!あの灯台かわいい〜!」


 双子ちゃんは窓に張り付いて、次々と景色を指さす。潮風が車内に吹き込んで、ほんのりカレーの余韻と混じり合う。


 優馬はそんな娘たちの姿を見ながら、

「こんなふうに家族で笑いながら旅できるのが、何よりの幸せやな」と心の中でつぶやいた。


 アキラと美香も寄り添いながら窓の外を眺め、

「将来、うちらもこんなふうに家族で旅したいね」と微笑み合う。


 レトロなトロッコ列車は、家族の笑い声を乗せて、青い海の横をゆっくりと進んでいった。




 門司港レトロをたっぷり楽しんだあと、一行は関門海峡と関門橋が一望できるスポットへと足を運んだ。青空の下、潮の香りが漂い、遠くには行き交う船の姿。


「よし、せっかくやけん、ここで記念写真ば撮ろうか!」

 優馬がカメラを構え、美鈴や美香、アキラも並び始める。


 光子と優子は真ん中に立ち、にっこり笑顔でピースを決めた――その瞬間。


 ビュウッ!!!


 突然、関門海峡から吹き上げる強い風が、双子ちゃんのスカートをふわっと持ち上げる。


「きゃあーーっ!見んでーーっ!」

「ちょ、やばいやばいっ!」


 慌てて両手でスカートを押さえながら、必死でしゃがみ込む光子と優子。顔は真っ赤、半泣きで大騒ぎ。


「ははは!おまえら、完全にマリリン・モンローやん!」

 アキラが腹を抱えて笑うと、


「もう!にいちゃん、笑いよる場合やなかとよ!」

「写真も撮ったらいかんけんね!ぜったい!」


 双子ちゃんはぷりぷり怒りながらも、周囲の爆笑を誘う。


 美香は「いや〜、今日イチのハプニングやね」とお腹を抱えて笑い転げ、美鈴も「思い出になる写真が撮れたばい」と優しく微笑む。


 結局、そのときの写真には、焦ってしゃがみ込む双子ちゃんと、それを大笑いで見守る家族の姿がばっちり残されることになった。




 翌日。

 日帰りの門司港の旅から戻って一夜明け、優馬が撮った門司港旅行の写真はすでにパソコンに取り込まれていた。光子と優子は、翼と拓実が遊びに来るのを楽しみに待っていた。


「ほら、昨日の門司港のやつ、見せちゃろ!」

 優子が胸を張ってノートパソコンを開く。


 画面には、焼きカレーを前に満面の笑みを浮かべる双子ちゃんや、関門海峡をバックにした集合写真が次々と映し出される。翼も拓実も「うわぁ、いい景色!」「楽しそうやん!」と身を乗り出す。


 だが――その時だった。


「おお?これ、なんや?」

 拓実がマウスをカチリとクリック。


 次の瞬間、画面いっぱいに映し出されたのは――スカートが風に煽られ、慌ててしゃがみ込む光子と優子の赤面ハプニングショット。


「きゃーーっ!それは見らんでーーっ!!!」

「やめてやめて削除削除ぉぉぉっ!」


 光子と優子が同時に飛びかかり、パソコンを閉じようと必死。だが翼と拓実は、目を丸くしたあと――


「ぶはっ!こ、これ完全にモンローやんかぁ!」

「ぎゃははっ!風の芸術作品ばい!」


 腹を抱えて笑い転げる。


「もー!2人とも笑いすぎやけん!」

「そうよ!こげな写真、永久封印やけんね!」


 真っ赤になって抗議する双子ちゃん。けれども翼は涙を拭いながら、


「いやいや、これはな、俺らの心の宝にしとくけん」

 拓実も「うん、門司港の風に感謝せないかんね!」と茶化す。


 光子と優子は「もぉーーっ!」と顔を覆い、両手をぶんぶん振って抗議。

 その様子がまた可笑しくて、リビングには笑い声がいつまでも響いていた。




 それから数日後。

 学校の帰り道、光子と優子は翼と拓実に並んで歩いていた。すると、拓実がニヤリと笑って、耳元で囁く。


「なぁ優子…風吹いたら気をつけろよ。門司港ん時みたいに“モンロー優子”になるけんねぇ」


「ちょっ!あんた、またその話ばする!?忘れてって言いよろうが!」

 真っ赤になって手を振り回す優子。


 光子も「ほんと拓実、しつこかぁ!翼まで笑いよるし!」と抗議。

 けれど翼もおかしそうに笑って肩をすくめる。


「いやぁ、あれはほんと伝説やけん。写真集にしたらプレミアつくレベルやろ?」


「誰がそんな恥ずかしか写真集にするかーっ!!!」

 光子と優子が同時に叫び、通学路に響き渡る。


 周りのクラスメイトが「なに?なにがあったと?」と振り返るが、4人の中だけの秘密。


 その夜。

 自宅でスマホを見ていた光子は、翼から届いたメッセージに目を丸くする。


【今日の風、門司港レベルやったな。光子、大丈夫やった?(笑)】


「……あいつ、まだ言いよる…!」

 スマホをぎゅっと握りしめ、床にごろーんと転がる光子。


 一方の優子のもとにも拓実からメッセージ。


【優子、次のデートは風吹かんとこにしよっか(笑)】


「むきーーーっ!!拓実のバカぁぁ!」

 クッションに顔を埋めてジタバタ暴れる。


 ――結局、門司港の一件は「伝説の門司港写真」として、4人の間で長いことネタにされ続けることになるのだった。




 放課後。

 校門を出て、四人並んで歩く帰り道。夕焼けに染まった街並みを、光子と優子、そして翼と拓実が笑いながら下っていた。


「今日の部活きつかったね〜」

「ほんと!腕まだぷるぷるしよるもん」


 そんな何気ない会話の途中――

 突然、ビュウッと強い風が吹き抜けた。


「きゃーーっ!!!」

「わっ、ちょ、ちょっとぉー!!」


 光子と優子のスカートがふわりと持ち上がり、二人は慌てて両手で押さえる。

 顔は真っ赤、心臓はバクバク。


 その瞬間、翼と拓実は顔を真っ赤にしながらも、吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。


「…み、見てないっ!見てないけん!」

 翼は手をひらひらさせて視線を逸らす。


 拓実も「俺も俺も!誓って見とらん!」と大慌てで言い張るが、口元は笑いがこらえきれずピクピクしている。


「ぜったい見たやろー!!!」

 光子と優子が同時に叫び、かばんで二人をポカッと小突く。


「いってぇーーっ!!」

「こらぁ!暴力反対ぃー!」


 でも結局、四人とも笑い出してしまい、夕暮れの帰り道に大きな笑い声が響いた。


 こうして“門司港事件”に続き、“学校帰りのスカート事件”もまた、新たな伝説として加わることになったのであった。




「どんだけ風にいたずらされとんねん!」

 翼が呆れたように叫ぶと、光子と優子は同時に「そんなん知らんし!」と声をそろえた。


「絶対わざとやろ?風の神様が双子ば狙っとるっちゃ」

 拓実が肩を揺らして笑いながら言うと、光子はかばんを振り上げる。


「ほら、拓実までそんなこと言うけん!」

「ぎゃー!冗談やって!」


 逃げようとする拓実の背中を光子が追いかけ、優子は翼にじっと睨みをきかせた。

「翼も見とったろ?」

「見とらん見とらん!神に誓って!……いやでもちょっと風圧は感じたかも?」


「このぉーーっ!」

 パシッ!と優子の手が翼の腕を小突く。


「痛っ!お前らほんま暴力姉妹やな!」

「うちらは正義の鉄拳制裁や!」

「鉄拳どころかカバンで殴ってきたやん!」


 四人のバトルは、夕暮れの帰り道でエスカレートしていく。通りすがりの犬の散歩中のおばちゃんが、呆れ顔でつぶやいた。


「元気のよか子たちやねぇ…」


 笑いと追いかけっこの末、バトルの勝敗は決まらぬまま、四人は笑い転げながら家路についた。

 それはまるで、風にからかわれながらも絆を深めていく、青春の一コマのようだった。





 次の日、博多南中学校の帰り道。双子ちゃんと翼、拓実は、昨日の風のイタズラ事件の話でまだ盛り上がっていた。


「昨日の風、ほんま最悪やったね〜」

 優子がため息まじりに言うと、光子も頷く。


「でも、なんか面白かったっちゃけどね」

「うん、笑いすぎてお腹痛かったもん」


 そこへクラスメイトの女子たちがやってきて、にやにやしながら言った。


「またスカート事件やったと?写真見たよ〜!」

「うそー!?翼と拓実に見られたん?」

「見た見た、めっちゃ焦っとったやん!」


 光子と優子は顔を赤らめつつも、思わず笑いがこぼれた。


「もう、みんなにバレとるやん…」

「でも、これが伝説になっとるっちゃろ?」

「伝説も伝説、次から次へとネタになるな〜」


 翼と拓実も苦笑しながら、二人の騒がしさにすっかり慣れた様子だった。


「ほんと、双子ちゃんは笑いの神様やな」

「いや、神様っていうより、災害クラスの爆笑やろ」

「災害級に笑わせてくれるから、逆にありがたいっちゃ」


 こうして、昨日の風のイタズラ事件は、学校中に語り継がれる伝説となった。

 双子ちゃんは相変わらず、笑いとトラブルを巻き起こしながら、仲間たちと日々を楽しんでいくのであった。


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