サマースタディ

天音 花香

家庭教師がやってきた


 家庭教師としてやってきたのは、化粧っ気の全くない、大学生には見えない女性ひとだった。


「藤井智子です。夏の間だけになりますが、一緒に頑張りましょうね」


 笑ったらさらに若く見えた。


 私も普段は化粧しないけれど、学校に行くときはしてる。化粧したら、私の方が大人っぽく見えるかもしれないなんて思った。


 ちょろそう。


 私は心でほくそ笑んだ。


「古文が苦手で、この宿題のテキストをしてほしいんです」


 早速部屋に案内された先生に、私は言った。


「このテキストをするんだね。じゃあ、まず、解いてみようか」

「先生、そうじゃなくて、先生が解いてくれればいいんです。そしたら、宿題終わるんで」


 私がにっこり笑って言うと、先生は、


「え?」


 と目を泳がせた。


「だって、そしたら先生だって夏休み中、毎日ここまで来なくていいし、遊べるでしょ?」


 先生は私の言葉に眉をひそめた。


「それじゃあ、宿題の意味がないし、私も家庭教師になってないよね」


 真面目に言い返されて、私はふっと息を吐いて自分の前髪を浮かび上がらせた。


「なんだ、いい提案だと思ったのに」

「ズルはだめだよ。なんでも真面目にやらなくなるからね」

「先生真面目すぎ」

「普通だよ。それじゃ、今日は最初のページからね」


 有無を言わさずにテキストに向かわされた。


 古文苦手だって言ったのに。


 ちょろそうでちょろくなかった先生との一日目は、普通にテキストを解くだけで終わった。


 家庭教師なんて頼まなければよかった。




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