ぬい活カフェおもち

ナシノ

第1話 オーナー

私はカフェを経営している。自慢ではないがカフェにはいろんな人がやってくる。サラリーマンが商談に使ったり学生たちの憩いの場としたり、年配の人たちの安否確認の場になったり、いろいろである。とても便利なことにあまり人が来ないので使いやすいようだ。

 それにしても新規の人はよくこのカフェを見つけてきてくれるもの。というのもカフェはとても奥深くにあり、人通りも少ないへんぴなところにある。地図や看板などもない。もちろんカフェ前にはあるが、案内図などもない。

なんせ私はきっと日本1ヤル気のないカフェのオーナーである。オーナーの私が本当にヤル気がなく、ただのボケ防止と趣味のカフェ。

1人暮らしの年寄りの経営、ゆっくりノンビリやっている。私にとっても安否確認のためにもなっている。そんなカフェの名前は【ぬい活カフェおもち】である。おもちは私というより亡き夫がとても可愛いがっていた。とてもキュートなうさぎのぬいぐるみ。看板娘。

 カフェはぬい活にも利用してもらうために飾り物や私のぬいぐるみたちも店内に置いている。

 流行り事には鈍いので、SNSなどはやっていない。来てくれる若い子たちはやっているみたいなのだが、場所や他の方々を載せないことを条件に許可はしている。

サラリーマンはこんなカフェで商談は大丈夫なのだろうか???

 レジ横には看板娘のおもちが毎日、鎮座して私と一緒に接客をしてくれる。店前の看板には自作のおもちも描かれている。ちょっと恥ずかしい。

コーヒーは格別に美味しい訳ではない。いちおお客様のリクエストは叶えれるだけ叶えてはいる。私のこだわりは、サイフォンで淹れて豆から挽かせてもらっている。常連客たちは

「それがいいんだよ」と言ってもらっている。そうなのかしら?若い子は、可愛い子(ぬいぐるみたち)がいる穴場スポットだと言ってくれている。

 軽食もあるので小腹がすくと注文してくれる。

とても静かで人が少ないため、恋ばなやらドラマ、アニメの話ができると言う。私も聴いていて楽しかった。

 来てくれた新規の方に…カフェをどのように見つけたのか聞いてみた。ほとんどの人は『たまたま見つけた』とか『歩いてたら見つけた』と似たような返答。ごく少数ではあるが、SNSで見て探してきたと言う方もいた。私はやっていないので、お客様が載せたものだろう。それにしても写真とコメントとかで探せるものなのだろうか?

そんなに探してまでも来る所なのだろうか。珍しいことは確かではあるけど、そんなお客様もぬいぐるみたちを撮ったり語りかけたりいろいろして帰っていく。私としては喜んでよいのかと複雑な心境。ヤル気のないオーナーなのだから…なので値段も合っていない。開店時から変わらない。常連客には値上げしてくれと言われている潰れたら困るからとのこと。しかし変えられない計算するのが大変だし、趣味でやっているので値段は据え置き、長居をしてもらい一杯といわず何杯も頼んでくれればいいことだしね(笑)

 カフェはテラス席も併設している。ペットを連れた方のため。残念ながら、店内には入れない。ぬいぐるみたちの保護のため。ペットたちはダメだが飼い主はOKである。滅多に来ないのだトラブルゼロではあるけど(笑)

カフェ内のことを話していたらドアが開く

「お疲れ様です。お荷物お届けに来ました。」

元気よく話す彼女は長い間この周辺の担当をしているナシノちゃん、彼女は配達の時は必ず『おもち』に『今日も可愛いね』と話してくれる。なぜかおもちも『そうでしょ』と言ってるよう。

配達に余裕のあるときはコーヒーをぬるめに頼んで飲んで行ってくれる。

はじめは急いでいてぬるめなのかと思ったら猫舌なのだと言う(笑)おもちとの会話を楽しんで配達に戻って行く。おもちに一目ボレしてしまったとのこと。なんと罪なうさぎである。

もちろんコーヒーの香りにもひかれたとも言ってもらえて嬉しい限り、サイフォンを前に飲めるのもいいと言ってくれた。配達先で缶コーヒーを貰うのだけど、飲めなくて父が代わりに飲んでくれてるらしい。断ることもできないので父に頑張ってもらっている(笑)ナシノちゃんは時間を作ってはコーヒーを飲んで行ってくれる。おもちパワーすばらしい。家への配達を最後にしてゆっくりして行ってくれたりもする。おもち以外の子とも戯れたり、楽しい時間を過ごしてくれている。

サイフォンの上部で挽いた豆たちが踊っている。しばらくすると茶色の液体が下へと落ちてコーヒーができる。少し濃い色をしているが、カップにうつして氷を1ついれる、ナシノちゃんの特別なコーヒーの出来上がり。ナシノちゃんは必ず1口目はブラックでその後はミルクを淹れて飲む。顔は苦いと言っている。

「ムリにブラックで飲まなくても遠慮しないで砂糖淹れて飲んでいいんだよ」と声をかけたが

「大丈夫です。おもちちゃんとブラック…ミルクを淹れて飲みきると約束したので飲みます。」とおもちを持ち上げて私は「な…なんと罪なうさぎなのあなたは」とつっこみをいれた。ナシノちゃんはおもちをかばうかのように

「缶コーヒーとは違って飲みやすくてブラックでも全然飲めるので大丈夫ですよ。」優しい子におもちはなんていうことをしているのかしらと、笑ってしまった。

ぬいぐるみたちに挨拶をしてナシノちゃんはカフェを後にした。そんなことを繰り返す日々を送った後、急にナシノちゃんが来なくなってしまった。担当変えだったのか?新しい人が配達に来てくれた時に聞いてみたら、退職したと聞教えてもらい、何かやりたいことが見つかったとかで退職してしまった。なんだか寂しいことでおもちもいくらか寂しげな様子だった。他の子たちも暗くなんか悲しみでいっぱいになっていた時にカフェのドアがこれまた元気よく開く入ってきたのは、常連学生の樹ちゃん。第一声が

「なにこの暗くてドヨーンとした空気、訃報でもあったの?それともぬいぐるたちになにか起きた?」その声はハッとして気を取り直した。常連さんに気を使わせてしまった。情けない、しかし樹ちゃんはこちらの話はそっちのけにして話しはじめた。

「ここに配達に来ていたお姉さんがキリッとした服着て歩いてて運ちゃん辞めちゃったのかな?」と少し古い言い方をしてくるので、少し明るくなっていた。私は本当に!!とおもちを持って樹ちゃんに近づいた。ビックリした顔をした樹ちゃんが

「え…あっ…うん。違ったらごめんね。」と、私はハッとして「あっ!ごめんね。注文はいつものでいいかな?」と言って、おもちを定位置に置きコーヒーを淹れながら、よかった。引っ越しで遠くへ行ってしまったのでなくて、と思いながら皆の顔を見たら、嬉しそうに安堵の顔をしているように見えた。樹ちゃんは自分の話しをたっぷりしていった。(ぬいぐるみ一同しっかり聞きました。)ぬい撮りをして帰っていった。

 常連さんには、みな推しがいるみたいでそれぞれ席に着く前に連れて行っては話しをしたり、ぬい撮りしたりしている。恒例行事のよう(笑)持ち主の私としては嬉しい限り、そんなふうに過ごして欲しいのでこのぬい活カフェを作ったのよ(笑)

 ぬい活生活になったのは亡き夫の存在。彼に出会う前からぬいぐるみが好きだったが、ぬい活するまでではなかった。好きになったきっかけは私が2歳の頃から大事にしていた犬の『ゴロ』。夫に会った時にはボロボロで触ったら壊れてしまうのではないかというくらいボロボロでケースに入れて大事にしていた、なんとか治せないものかと考えていた時に知り合ったのが夫だった。ネットのない時代で2人で探して電話を沢山かけたり、購入した店舗に行ったが閉店していたり、製造店舗に問い合わせたりしたが、修理までは行っていないと言われた。諦めて夫の手作りケースに入れ直して、飾ることにして、たまに日陰干ししたり、洋服を変えたりした。『ガンバレ!?ゴロ』と思いながら過ごした。

 カフェを開業したのは、2人でのんびりやれたらいいという考えから夫にオーナー、私は店長として、せっかくなのでぬいぐるみたちも店員としていてもらおうと計画をたてた矢先に、、、夫が亡くなってしまい、どうしよかとも思ったのだが、開業する事にした。おもちは夫のお気に入りの子だったので、ゴロでなくて、おもちを店名にした。もちろんケースに入ったままだけど、ゴロも店員というかカフェの守り神のように鎮座させている。常連さんたちはいつもゴロにも挨拶をしてくれる。みな良い人たちここでカフェ経営できてよかった。

 ぬいぐるみは私の私物がほとんどで、夫のは2個くらい。すべてに名前が付いていて、プレートに書いてあるのだが、年数が経っていて今では頑張ればなんとか見える程度には残っている。夫の手作りでなかなか変えることができないでいる。新規のお客さんに聞かれて、一瞬忘れてしまい答えに悩むと常連さんが代わりに答えてくれる(笑)この子たちもリフッレシュが必要と思い少ない休みには旅に一緒に出掛ける。きちんと順番に(笑)ぬい撮りをして(笑)帰ったらアルバムも作り保存している。今では私も年を取ってしまい遠くへは出掛けられなくなってしまったが、近くに散歩に連れて行くだけで、申し訳なく感じている。そんな時考えてしまうのが、自分が亡くなってしまった時、この子たちとカフェはどうなるのだろうか…子供たちは興味もなにもないから捨てられたり、売りとばすだろう。そういう子たちなのだ。カフェにもこず、夫の葬儀もほとんどおらず…なので子供たちには財産は残さず、カフェをまるごと引き継いでくれる人に渡すのが、、、

一番はあの子が継いでくれたらいいのだけど、あの子にも夢があるから邪魔はしたくない。遺書は用意して弁護士に預けてある。条件はカフェとぬいぐるみたちの安全を前提にしてある。子供たちには渡さない。文句はないと思う。なので私の元気な時に継いでくれる信用できる人に出会いたい。ダメなら残念だけど、私と一緒に燃やして欲しい。

 終活を考える年になってしまった。

 考えるにふけっていると、樹ちゃんの登場。あっという間に社会人になってしまったが、うちには通ってくれていた。いつも元気で羨ましい限り、今日はいつもより元気が良くニコニコ。

「オーナー。今日は朗報を持って参上したよ。オーナーのために頑張ったよ。」ニコニコ笑顔で続けた。

「カフェ継ぎたいって人を見つけたよ。今日は朗報だけで明日連れてくるから楽しみにしていてね。オーナーも知ってる人だから安心してね。それだけ伝えたかっただけ仕事あるから行くね。また明日ゆっくり来るね。それでは…」と言って帰っていった。嵐のような子である。私の知ってる人かぁー?一体誰なんだろう?物好きな人もいるもんだ。明日か…弁護士に連絡して来てもらわないと…。時間がないからすべての手続きができる準備はしておかないと...子供たちの邪魔が入れないように…どんな子がきてくれるんだろう???私の知ってる子で…樹ちゃんが推してる子なら間違いないと思うんだけど...今日は眠れないかもしれない。

 結局一睡もできずに朝がきてしまった。樹ちゃんはいつくるのだろう?開店準備しなくては開店準備が終わって一息ついてたら、樹ちゃん登場(笑)

「おはよう。オーナー連れてきたよ。」と元気な声が響いたその後ろから姿を現したのは...なんと…ナシノちゃんだった。

「ナシノちゃん?!」私は声を上げてしまった。ナシノちゃんは

「オーナーお久しぶりです。それから皆さん」と目には涙を溜めながら、ぬいぐるみたちに一礼、私にも...

 話しを聞いたら、配達員をする前からカフェに興味があって、勉強をしていたのだけど、なかなかうまくいかず、止めて配達員をしていたところに私やぬいぐみたちとふれ合うたびにその気持ちが高まってきた。また勉強しようかと考えてぁたところに、私が後継者を探していることを聞いて、継ぎたいオーナーの意思を継ぎたいと思って会社を辞めてカフェの勉強を再開したのだと言う。

「樹ちゃんからオーナーが施設に入ると聞いた時に丁度、卒業できたので飛んできました。私に継がせて頂けますか?」なんとも嬉しい言葉が聞けた。ナシノちゃんなら心配いらない。安心してこの子たちを任せられる。おもちたちとも、相談をした。みなナシノちゃんならきっとカフェも私たちも大切にしてくれる。という声が聞こえてくる。早速、弁護士にいろんな手続きをお願いして。樹ちゃんにはお礼を言って、ナシノちゃんには明日から働いてもらうようにした。実家住みなので、通うには大変とのことなので、しばらくは家でと言ってもカフェの2階だけど一緒に暮らすことになった。

 弁護士に子供たちの相続権廃止の手続きや連絡などいろいろ頼んでしまったが、弁護士はうちの常連さんでしかもゴロ推しという変わった人。だけど敏腕みたい。有難い。お金関係で揉めると覚悟していたのだけど…意外に揉めずにすんなり手続きが完了した。子供たちは負の遺産が残らなくてよかったと言っていたらしい。あの子たちならあり得る。子育て間違えたのかしら?とにかく無事終わってよかった。私もしばらくはナシノちゃんと2人暮らしで施設に行くまでの間、楽しくいられそう。

それからは、ぬいぐるみたち1人1人に『今までありがとう。そしてナシノちゃんをよろしくね。長生きしてね。』と言いながらキレイにしていく。日時とは早く流れすぐに刻々とやってくる。ついに入所日前日、私は閉店したカフェの中にいる…ここともついにお別れが来たのね。夫の写真を握りながら、いろんなことがあった。いろんな人たちに出会えた。かけがえのない宝物。本当はゴロや何人かは施設に連れていこうかとも考えた。しかし、この子たちの推し活をしに来る人もいるだろう。その人たちのためにも置いていくことに決めた。ナシノちゃんは気を利かせてくれているのだろう。コーヒーを淹れてくれ立ち去って行った。1人の時間を作ってくれてありがとう。そして継いでくれてありがとう。今日は店内で皆に囲まれながら眠った。

 ナシノちゃんの声で目が覚め、そして大きな車がカフェの前に停まる。そして知らない間に常連さんたちがそれぞれの推しの子を持って見送りに来てくれた。それを見ながら車に乗り込む。みな推しを持ちながら手を振ってくれる。最後尾にナシノちゃんとおもち、そしてゴロを手に…みんなお世話になりました。元気でね。後は頼みましたよ。と心の中で言いながらカフェを後にした。

 施設に入り初めは馴染めるのか心配だったけど、常連さんの何人かがいてすぐに馴染めた。友達もできた。ぬいぐるみ関係で仲良くなり、彼女の娘さん手作りのクマくんにも知り合えた、いい娘さん。私は彼女にカフェを営んでいたことも話した、入所前に知りたかったと言ってくれた。

たまに推しをつれた常連さんが話しをしに来てくれる。カフェの様子の写真を持って…はて?現像できるの?と思っていたら、どうやらナシノちゃんがやってくれたことがわかった。コーヒーまで持ってきてくれる。テイクアウトを始めたと聞かされる。可愛いイラストと共に届けられるコーヒー。ナシノちゃんも休みの日におもち、ゴロと日替わりで連れてきてくれる。もうひとつ驚いたことは皆それぞれ洋服を着ていた。ナシノちゃん器用なんだなと関心したら、ナシノ母の手作りだと言う。有難い。そして施設に月毎に写真付きのハガキが届く、これもナシノちゃんのサプライズ(笑)私はそれが楽しみで友達や常連さんにも見せていた。人生最後ににこんなに良い縁に恵まれて、きっと夫が 巡り会わせてくれたのだろう。いつか夫の所に逝くときはたくさん話そうお礼もこめて...皆にも感謝を伝えないとね……私の最後は静かに刻々と近づいてきていた。

 最近は目を開けている時間が短くなる。最後に目を開けたら涙たっぷりのナシノちゃんの顔とゴロとおもちが見えた。ありがとう。皆。そして後は頼みましたよ。ナシノちゃん。

さようなら…

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