第7話感想

切望していた”2度目のセンターカラー”。

表紙一面に大きく描かれたくらげは、

”歓喜”の中にいる俺たち読者を出迎えてくれるかのようだった。

月ミドの放送が流れているスマートフォン。

大喜利コーナーの採用で貰えるストラップ。

それらが置かれた机の上に、彼女はうつ伏せになりながら、こちらを眺めている。


──これは良い・・・

俺は電子版ジャンプを定期購読していて、

普段はノートPCのブラウザから全画面表示にしてこの漫画を読んでいるのだが、

この構図だと、まるで机の先の向かい側にくらげが「実際にいる」かのようだ。

俺も彼女に合わせて、机でで両腕を組み、その上に顎を乗せる。

そうして、2人の目線を合わせれば、気分はさながら「付き合い始めたミメイ」だ。

シンプルながらも工夫が凝らされたその”ギミック”に、

俺はしばしの間、そのページにとどまっていた。


さて、本編は、くらげが女友達と机をくっつけて昼食をとるシーンから始まる。

大きなパンを両手に持つ彼女。

野田に「弟譲りの」プニプニほっぺを引っ張られている彼女。

──冒頭から、くらげの”愛らしさ”が爆発している。


そんな中、いきなり投下された”爆弾”。

「梟森君と付き合ってるから?」などという、村上のド直球な質問だ。

それに対し、顔色一つ変えずに「付き合ってない」と切り捨てるくらげ。

相変わらず我が強く、キャラクターに一切ブレがない。


くらげの色話に盛り上がる女子たちの後ろで、”背景の一部”としてさりげなく登場するミメイ。

俺はそんな彼を見て、「フュー※1!!!お前の知らない所で話題にされてるぞ!!!」と、

茶化すような気持ちになっていた。

──ところが次のページを開くと、村上の声が大きすぎたせいで、

一連のやり取りがクラス中に”筒抜け”になっていたことが判明する。

序盤から”コメディ”らしい見どころが用意されていて、非常に面白い。


その場に居づらくなって教室を出るミメイを、間髪入れずに追うくらげ。

他のクラスメイトから見れば、これはもはや”答え合わせ”にしか見えないだろう。

──これは「そう思われてもいい」ということなのか?

やはり、ミメイに対する彼女の”執着”は強い。

そして、かましたボケをミメイに拾ってもらうだけで満足し、あっけなく去っていくくらげ。

俺は、彼女が喜ぶときに片方の口角を極端に吊り上げる、あの”得意げな笑み”が好きだ。


ミメイはそんなくらげに困惑しつつも、胸に”ざわめき”を感じているという。

「フュー※1!!!これは”恋”だろ!!!」と、俺はまたしても茶々を入れたが──違った。

これは単に、月ミドとコンビニによるコラボグッズが発売されるという事実を、

忘れていたことによるものだった。


こうして”予想を裏切る展開”を連発し、きちんと”盛り上がり所”を用意する構成は見事だ。

俺はその”作り込み”に感心していたが、

この後、”さらなる感動”が待っているとは思わなかった・・・


どこを回っても売り切れでコラボグッズを入手できず、意気消沈してコンビニを出るミメイ。

すると──先週に引き続きの「なんかいたな」案件だ。

二人のやり取りで少し残念だったのが、ミメイが「食べれる?」と”ら抜き言葉”を使ったことだ。

くらげはともかく、ミメイは”文武両道”で”真面目”という設定である。

だからこそ、”正しい日本語”に対しても”真摯”であってほしかった・・・

”ラブコメディ”とは「キャラクター」で勝負する漫画である以上、

その描写にはいくら気を使っても使いすぎることはないだろう。


だが、ここから先の展開は”文句無し”だった。

元気のないミメイに対し、くらげはいつもの調子で、

コンビニで好きなものを二つ買って”お菓子パーティ”をしようと言い出す。

お菓子選びにもラジオ愛を炸裂させる二人。

公園でお菓子を口にしながら漫才じみた平常運転のやり取りを繰り広げる二人。

その楽しさが、読者にもまっすぐ伝わってくる。


そしてパーティは終わり、いよいよ帰ろうという段階で、くらげが一言。

「月ミドのこと、嫌いになったりしてない?」

そういえば、くらげはミメイがグッズを買えなかったことを知らないのだ。

ゆえに、そこまで彼の様子を”深刻”に受け止めていたのか。

ミメイから事の真相を聞いたときの、

くらげの”拍子抜け”と”安堵”が入り混じった表情を見て、俺はぐっと来た。


思えば第1話でも、彼女はミメイの投稿が採用されるかどうかを、彼の視界の外で心配していた。

くらげは、”ミメイの喜び”を誰よりも願う、”熱い心”の持ち主だ。

俺はその部分に惹かれて、この漫画を応援し始めたわけなので、

その一面を久々に見ることができて嬉しかった。


ミメイは、そんなくらげに対して

「一通もメールを読まれなくても、ラジオを嫌いにならなかった」と話す。

これは、読み切り版でもミメイが最終的に辿り着いた”結論”だった。

作者が伝えたい”主題”を再びここに据えたのは、

この第7話が単行本1巻の最終エピソードにあたることを意識してのことだろう。


そして、これは「区切り」であると同時に、「橋渡し」でもある。

月ミドを聞くシーンに移り、ミメイは窓を開けて※2

「ライバルだから」、「同じ景色が見える」と、くらげに通話する。

それは、彼女と「リスナー甲子園」で戦うという”決意表明”だ。


ミメイが退場した後、彼の発言を受けた上なのか外を眺めるくらげ。

「自分より面白くないと好きになれない」と嘯いている彼女は、

ミメイの大喜利投稿が採用されると、村上の「好きな人はいるのか」という問いを思い出し、

静かに「好きになれそうな人はいる」とぽつり。

これからの”ドラマ”への期待を高める、まさに”圧巻”のラスト2ページだった。


描かれた深夜のビル群の姿には、大貫妙子のような”シティ・ポップ”がよく似合う。

音楽を背景に、第1話から改めて”二人の積み重ね”を振り返れば、

そこに漂う”余韻”も、きっとひと味違って感じられるはずだ。

”単行本発売”は来年1月──また一つ、楽しみが増えた。

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