第5話感想

水尾くらげは”ふざけた女”だ。

誰に対してもギャグを連発し、”自分のペース”を崩さない。

相手が真面目に向き合おうとしても、「暖簾に腕押し」のごとく取り合おうとしない。

だが、”短所”と”長所”は”表裏一体”である。

嫌われることを恐れて”八方美人”に振る舞えば、結果として”誰の心にも残らない”。

今回はくらげの持つ”読者への求心力の高さ”を思い知らされた一話だった。


話は前回のラスト直後から始まる。

バイト代が入ったので、今度の日曜にラジオを買いに行こう──

相変わらず、くらげは我を通す。

休日に二人でお買い物。これは、もしかしなくても”デート”だ。

その”お誘い”に応じて、30分早く待ち合わせ場所に現れるミメイの姿は、

まさしくラブコメディの”あるある”である。


そして、待ち合わせ場所に現れたくらげ。

いつもの制服姿とは異なる”私服姿”に、

前回の”ウェイトレス姿”のときと同じく、俺の視線は一点に集まる。

コマをぶち抜くその出で立ちは、髪型から履物まで余すことなく”洒脱”であった。

やはり、かわいい子には”旅”ではなく”粧し”をさせるべきだな。

「美少女※」を描くことから逃げないヤマノエイの姿勢に、改めて頭が下がる。


ミメイも俺と同じく感動したことだろう。

目の前の姿に「水尾さんの服、オシャレだね」とでも言うのかと思ったが、

くらげが”会話の主導権”を握ってしまったので、

その隙は与えられないまま、二人は目的地へと向かうことになった。

ミメイの感想を聞いてしまえば、”いつもの調子ではいられなくなる”からなのか?

そんな考えが、ふと俺の頭を擡げる。

この漫画を読んでいると、”くらげの本心”というものを探りたくなってしまうな。


店に入り、くらげはミメイにラジオについて”助言”を始めた。

「ラジオアプリは、実際のラジオ放送より少しだけ遅れている」、

「夜中に聴くので、イヤホンを繋げるタイプにしたほうがいい」、

さすがは”歴戦”の”有力投稿者”だ。心強い。

と、感心したのも束の間、やっぱりくらげはボケに走り、まともには教えてくれない。困ったものだ。

そんな中でも、ミメイは目に入ったレトロ風のラジオを気に入り、それに決めた。

このデザインは、連載開始時に週刊少年ジャンプの表紙を飾った黄色いラジオではないか。

よし、「伏線回収」も済んで、これで”一件落着”だな!!!


ところが、くらげはこのままでは済ませてはくれなかった。

「私も同じやつ買おー」──

なんと、彼女は”ラジオを持っていない”と言い張るではないか。

いやいや、そんなわけねーだろ!!!さっきのラジオ知識はどこで知ったんだ!

この女には、「前科」がある。

第1話でもミメイを家から出すために、自分はもう外にいると電話で”嘘”を吐いていた。

何食わぬ顔で「お揃い増えたね」と言い放つその姿。目的もあからさまな、”故意犯”ぶり。

こいつは99%「クロ」だ。

俺はそこから、「重要参考人・水尾海月」に目を光らせることになったのだった。


当初の目的を果たし、あとは帰るだけ――。だが、くらげは”遠回り”がしたいと言い出した。

”ミメイとの時間”が終わるのを、惜しんでいるのだろうか。

歩いていると、くらげは”履きなれない靴”で”靴擦れ”したと立ち止まった。

実は彼女の”瀟洒なファッション”は、平生から身にしているものではなく、

この日のためにわざわざ”コーディネート”してきたものだったのだ。


そんな手間をかけるほどに、ミメイのことを想っているのか――。

「もっとミメイ君と話したかったから」、直後に発せられたその珍しく”ストレート”な言葉は、

日頃の”のらりくらり”とした立ち回りとも相まって、実に”強い火力”だ。

この日の朝、ミメイに会うのを楽しみに、”出かける準備”をしていたくらげ。

描かれなかったそんなシーンを想像してみると、この話はいっそう味わい深くなる。


さて、月曜深夜。いよいよ購入したラジオの「初仕事」。

初めて使う機器に”あたふた”するミメイに対して、

「ラジオに触れると電波が良くなってノイズが減る」と、”冷静”なくらげ。

俺が彼女にかけた「容疑」の”証拠”が、また一つ見つかった。


・・・まあ、それはひとまず置いておこう。それより、その”Tips”が事実なのか気になった。

調べてみると、ラジオはアンテナで電気の波を受信しており、

電流を逃がす出口があるほうが流れがよくなるという。

そして、人間の体は電気を通すため、触れることで一時的にその役割を果たすらしい。

なるほど、これは”勉強”になった。

何もなければ、こんなことを自分から知ろうとは思わなかっただろう。

――俺が”漫画”や”小説”を読む理由の一つが、ここにある。

たとえ1ミリ程度であろうと、”自分の世界”を広げてくれたことに感謝だ。


無事にラジオから放送が流れ出すと、ここからはミメイの方に”フォーカス”が当てられる。

自分の笑い声を、くらげが気持ち悪がらないかと気にしたり、

大喜利が採用されないからと、オカルトめいた奇行に走ったり――

”真面目さ”ゆえにこぼれ出るその”人となり”が描写されていた。

ヤマノエイが、ミメイの方も読者に好きになってほしいという思いが表れている。

特筆すべきは、自分の投稿が採用されないまま次でラストとなり、

観念した時の”泣き顔の可愛らしさ”。


――作者の思いは、俺にしっかり伝わった。

ミメイに入れ込むように”誘導”されたことにより、

「うなぎポテト」を差し置いて、「森にふくろう」の投稿が採用された感動は”増幅”されている。

「ラスボス・くらげ」への”初勝利”。物語の”縦軸”が確かに進んだことに”満足度”が高い。


そして、その感情を上回る”山場”が最後に待っていた。

くらげの部屋には、ラジオが2台。

――俺の”疑念”に対する、「答え合わせ」だ。

”物語の根幹”となる自分の発言を意識する、くらげの”本当の姿”。

これは間違いなく、”作品を代表する名シーン”になるだろう。

今回は間違いなく”ベストエピソード”だ。


ただ一つ残念なのは、前回の第4話で大喜利の出題シーンが”ミス”であると確定した点。

担当編集が頼りにならないのは、今後の”懸念材料”だ。

ヤマノエイは、”厳しい戦い”を強いられている。

この状況を前にして俺にできることはただ一つ。そういうわけで今週もアンケートは1位だ!!!



※ 「素直な愛らしさを持つ少女」という意図で

この言葉を選んだのだが、今にして思えば、盛大に間違えてしまった・・・

「絶妙に美少女じゃないけどかわいい造形」という、

『背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜』の作者・横田卓馬の評のほうが正確だろう。

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