『TRINITY RAGE ―三極の咆哮―』
冬野トモ
第一章:香港、血の出会い
2050年6月、香港。
「日本のパスポートか。珍しいな」
バーテンダーが皮肉っぽく言った。
「日本じゃ居場所がねぇんでな」
龍司は短く答えた。
三ヶ月前、妹が消えた。人身売買組織に
日本は地獄だった。独裁政権が五年前に誕生し、隣国への憎悪を煽ることで支持率を保っていた。経済は崩壊。若者に未来はない。
それは〝隣国〟とて状況は同じなのだが。
——くだらねぇ。
龍司が四杯目を注文しようとした時、カジノのフロアが騒がしくなった。
「おい、中国人が来たぞ!」
「しかもデカい! 二メートルはある!」
龍司が振り返ると、確かに巨漢の男が入ってきた。
筋肉の塊のような体、短髪、凶暴な目つき。ジャケットの下に複数の銃を隠しているのが、龍司の目には見えた。
男はカウンターの反対側に座り、中国語でバーテンダーに何か言った。
「
バーテンダーが英語で答えた。
「前回、お前はディーラーを半殺しにした」
「あのクソ野郎がイカサマしてたからだ」
「俺は公平なゲームがしたいだけだ」
「帰れ。でなければ、警備を呼ぶ」
「警備? あの三流どもか?」
その瞬間、カジノの入口から十人ほどの男たちが入ってきた。全員がスーツを着て、腰に銃を下げている。
先頭の男が叫んだ。
「動くな! ここは我々が接収する! 大人しくしていれば命は取らない!」
カジノの客たちが悲鳴を上げる。
(警備?)
——違う。人身売買組織だ、と龍司は直感した。こういう場所に来る金持ちの中には、〝特別な商品〟を買いたがる外道がいる。
龍司は静かにカウンターから立ち上がった。
同時に、
「おい、中国人! 座ってろ!」
組織の男が
「中国人で悪かったな」
そのまま男の顔面に
カジノが一気に戦場と化した。
龍司は最も近くにいた男の銃を奪い、その男の
男が崩れ落ちる。
別の男が発砲。龍司はテーブルを蹴り倒して盾にし、低い姿勢で接近。男の
五秒。
「日本人! そっちだ!」
龍司が振り向くと、組織の男たちが奥の部屋から子供たちを引きずり出していた。
十人ほど。五歳から十歳くらい。全員が怯えた顔で泣いている。
「
龍司の視界が赤く染まった。
妹の顔が浮かんだ。
「……テメェら」
龍司は走り出した。
組織のリーダーらしき男が、龍司に向けて発砲。龍司は体を捻って弾を避け、そのまま男に肉薄。
顔面に
腹に
崩れた男の顔を掴んで、床に叩きつける。
「ガキに手ぇ出す外道は、死んでも許さねぇ!」
「使えるか!」
「誰にモノ言ってやがる!」
龍司は空中で刀を掴み、
二人は背中合わせになり、迫りくる組織の男たちと対峙する。
「何人いる?」と
「二十……いや、三十は超えてるな」と龍司。
「ハッ、ちょうどいい運動だ」
二人は同時に動いた。
龍司の刀が閃き、三人の男の武器を弾き飛ばす。
息が合っていた。
初めて組む相手なのに、まるで何年も一緒に戦ってきた相棒のように。
だが、敵の数は多すぎた。
五分後、龍司と
二人とも複数の
それでも、子供たちは守り切っていた。二人の背後で、子供たちが怯えて固まっている。
「クソ……まだ来やがる」
龍司が呟いた。
カジノの入口から、さらに増援が入ってきた。十人以上。全員が自動小銃を持っている。
「本隊か……」
「悪ぃな、日本人。道連れにしちまう」
「謝るな。俺が勝手に突っ込んだんだ」
龍司は刀を回転させ、構え直した。
「それに、ガキは絶対に渡さねぇ。指くわえてる
「ハッ、気に入ったぜ、お前」
二人は最後の突撃を覚悟した。
その瞬間——
カジノの天井が割れた。
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