イラスト趣味で漫画家夢見る女子高生の私が異世界では芸術家と評され、自由気ままに絵を描きながらサブカル文化を広めます

明石竜 

第一話 学校からの帰り道、公園の落とし穴に落っこちちゃったと思ったら異世界に飛ばされたんだけど

漫画家、ラノベ作家、声優、イラストレーター、アニメーター、ゲームクリエイター、プロゲーマー、ユーチューバー、Vチューバー……etc.将来はこういった職業に就いてエンタメ業界で活躍したいっ! 

        ↓

そうだ、夢が叶えられる! プロになれる技術を学べる学校に進学しよう!

こんな風に志した中高生の多くにとって、それを実現させるうえでの最難関は親への説得である。家庭環境によっては東大合格よりも遥かに難しいことかもしれない。

 

「あかんに決まっとるやろっ! アホかあんたはっ! そんな変なとこはお金持ちの道楽やっ! だいたいあんたマンガなんか描いたことないやろ」

「だから描けるようになれるように描き方を学びに行くんだって!」

「そんな甘い心構えの子ぉが漫画家なんかになれるわけないやろっ! 漫画家なれる子ぉはそんなんわざわざ他人から教わらんでも独学でやるんよ。小学生の時から」

「それはまあ、そうかもだけど………………」

ってな感じで阪神間とある文教地区に住む押部桜子(おしべ さくらこ)も母に私立高校芸術科マンガ・アニメコースへの進学を猛反対され、中学の頃仕方なく勉学に励んでやって、東大・京大・医学部合格者を毎年コンスタントに輩出する、県立伝統進学校普通科に不本意入学してあげたわけだ。


           ※


将来に向けて、高校生のうちから手に職をつけようと地道に技能を磨くことは、立派な行為だろうけど時と場合によっては感心されないのは当然である。

四月下旬のある日、桜子は改めてそのことを痛感させられた。

「押部さん、今授業中だから、お絵描きはやめましょうね」

二時限目古文の授業中、教科を受け持つ三十代後半の女性教師、衣笠先生にやんわり注意されてしまったのだ。愛用のB5判大学ノートには、かわいい動物や女の子達の自作イラストがたくさん描かれていた。

他にも授業に関係ないことしてる子何人かいたのに、なんでワタシだけ? 後ろの方だし窓際だし、教卓からは見えにくいはずなのになぁ。っていうかなんで真ん中の列の前の方でマンガ読んでた子がバレてないんよ?

 心の中で理不尽さを嘆いた桜子はお昼休みには、

「……うちの高校から、この大学へ進む子はここ数年一人も出てないよ。押部さんは成績良い方なんだから、勿体ないよ。継続して勉強頑張れば、神大や阪大にも行けると思うよ」

 面談で進路希望調査について、クラス担任で地歴・公民科の鯛先生(二十九歳、♀)からやんわりと苦言を呈され、ややしょんぼり気分に。

難関国公立大への進学指導に力入れてるだけあって、やっぱあまりいい顔されなかったかぁー。

桜子は第一志望から第三志望まで私立大の芸術系学部にしていたのだ。         

いつもより良くないこと続きだった桜子は放課後、不愉快な気分で独りで自宅への帰り道を歩き進んでいくのだった。

そんな桜子は、背丈は一五一センチくらい。丸っこいお顔、くりくりした目、ほんのり栗色なおかっぱ頭をいつもいちごやクマさんなどのチャーム付きダブルリボンで飾り、小学生に間違えられても、いやむしろ女子高生に見られる方がもっと不思議なくらいあどけない風貌だ。


……甲ノ夢高の芸術科入れてたら、同じ趣味のお友達がいっぱい出来てもっと楽しい高校生活送れてたはずだよね。制服もかわいいし校則も緩いみたいだし。あの時ママにもっと強く反発してたら良かったよ。学校のつまらない課題に追われずに、自由気ままに絵を描いていたいよ。

 俯き加減でこんな不平不満願望を心の中で呟いていたら、

 ミャァ♪

 すぐ側の公園で猫を発見。

 かわいい猫さん。黒猫だ。ボンベイかな? せっかくだし、気晴らしにあの子のイラストでも描こうっと。

 公園内に入り、猫に近づこうとしたら、

「ひゃぁっ!」

 落とし穴に落っこちてしまった。


      ※


「……こっ、ここは、どこ?」

桜子は目覚めると、すぐに起き上がって周囲をきょろきょろ見渡した。

小高い丘の上にいるようだった。

手荷物も無事なようだ。

「ここって、日本じゃないような……」

眼下には、今まで見たことのない風景が広がっていた。

中世ヨーロッパ風の木組み建築や煉瓦建築などが建ち並ぶ街並みだったのだ。

桜子のいるすぐ間近には、翼のようなものが生えたうさぎやリスっぽい動物の姿もまみえた。

宝石のようにキラキラ煌く木の実がなっている木もあった。

「変な、生き物もいるし……」

桜子が呆然と立ち尽くしていると、

「うっ、うわわわっ!」

突如、全長五メートル以上は優にある緑色のドラゴンが目の前に現れ、グォォッと吠えかかって来た。

「なにこの大きなドラゴンみたいなの」

 グォアアアアッ!

「にっ、逃げないと、食べられちゃう!」

桜子、あまりの迫力に一目散に走り丘を下っていく。 


          ☆


もっ、もう、追って、来ないよね? こっ、これは、絶対、夢だよね。異世界もののアニメに出て来そうな街並みしてるよ。ん? なんかさっき、ケット・シーみたいな感じの猫さんが横切ったような。気のせいかな?

商店や家々が立ち並ぶ街に入ると、桜子は石畳の道を歩き進む。

看板も見たことない文字だったし、ここ絶対日本じゃないよね。GPSも繋がらないよぉ。スマホの充電ももうすぐ無くなりそう。あっ、人だ。えっ! 耳の形、エルフみたいじゃない? さっきの変な生き物やドラゴンみたいなのといい、ここはひょっとして、本当に異世界なの! 異世界に来ちゃったの? 私。

唖然とする桜子。

「ねえねえ、そこの可愛らしい女の子。ちょっといいかな?」

とりあえず、ここに来て最初に見かけた幼げでエルフ耳な女の人? だと思う子に背後から恐る恐る声をかけてみた。

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