魂食いの僕と、温もりの村
ヨムヨム
第1話 命を拾った朝
僕の名前はソウル。今、八歳だ。
ガルドルフ村は、小さな場所だ。木々の緑と、時折吹く風が運んでくるパンと鉄の匂い。そのすべてが、僕の知る世界だった。
この村に捨てられてから、もう八年が経つらしい。僕には、それより前の記憶がほとんどない。遠い場所の冷たい光を見たような気がすること。それから、「ソウル」という名前だけが、なぜか頭に残っていた。
そして、僕だけが持っている、あの能力。
「ソウル、あんまり一人でぼーっとしてちゃだめだよ。お腹空かない?」
食堂のカウンター越しに、ユーノお姉さんが顔を覗かせる。十八歳のユーノお姉さんは、太陽みたいに明るくて、僕の母親代わりだ。
「大丈夫だよ、ユーノお姉さん。まだお腹減ってない」
そう答えると、ユーノお姉さんは少し困ったように笑った。
「もうすぐパンが焼き上がるんだから。ダリアナおばちゃんの新作だよ?ソウルに教えてもらった『ふんわり』パン、すっごく評判なんだからね」
僕は笑い返す。もちろん、空腹なんて感じない。僕は、食事なんか必要ないのだ。
僕の生きる糧は、僕の近くで何かが命を失ったときに、体内に流れ込んでくる「魂」のエネルギーだ。
ユーノお姉さんの幼馴染でニートのガルドが、発明のために切り出した木材の枝を、昨日、山に返しに行った。その切り口から、微かな、本当に微かな力が僕の体に入り込むのを感じる。虫を潰した時もちょびっとだ。それは、まるで静かな吐息のようなもの。僕は、この微細な魂だけで生きていける。だから食事は、村人を心配させないための「ふり」だ。
「ねぇ、ソウル。今日のパンには、この前君が言ってた『二酸化炭素』ってやつがいっぱい詰まってるのかい?」
パンを運んできたのは、ガルドだ。十八歳の彼は、僕の知識を面白がり、鍛冶屋のゾッドおじさんを巻き込んで、様々な「発明」を試している。
「二酸化炭素だけじゃないよ、ガルド兄さん。水蒸気も大事なんだ」
「ふむ、水と蒸気か!ソウル、その『水と蒸気で動く機械』とやら、本当に作れるのか?それがあれば、ゾッドのおっさんから、リーザおばちゃんの説教から逃れられるんだが!」
ガルドは目を輝かせた。その度に、ユーノお姉さんは「ガルド!ソウルにいたずらしないの!」と叱り、ゾッドのおじさんの鍛冶場からは、その話を聞いたリーザおばちゃんの怒鳴り声が響き渡る。村長であるガルドルフ爺さんは、そんな騒動をいつも「のほほん」と笑って見ている。
僕の能力は、この平和な村で、主に「隠密」に使われた。
狩りから帰ったカリブ兄さんが足を挫いた時。ベジー爺さんが咳き込んだ時。
僕は静かに魂を溜め、能力を発動する。
治れ。
そう願えば、魂の消費量に応じて、病気もケガも、こっそりと治ってしまう。この力は、村のみんなを助けている。僕がこの村にいる意味だ。
この温かくて、穏やかで、何もかもが満たされている日常が、このまま永遠に続くのだと、八歳の僕は心の底から信じていた。
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