第26章 SE、再会を果たす。
ジョーの叫びを聞きつけ、
外にいた村人たちが一斉に駆け込んでくる。
「どうした! 何があった!」
「おい、ジョー!? お前ら、ジョーになにをした!!」
「――あれ? ジョー、起きてる!? 本当に起きてるぞ!!」
狭い部屋の中は、たちまち混乱の渦と化した。
床板が軋み、壁に掛けられたランプが揺れる。
外から吹き込む風が、干し草を舞い上げる。
ルナが村人に突き飛ばされてよろめく。
「ちょっ、落ち着けって!」
レオがすぐに間に入り、両手を広げて制止する。
「待て! 俺たちは何もしてねぇ! むしろ助けたんだ!」
その横で、リオンが慌てて杖を構える。
「くそ、治癒が先だ!」
淡い光がジョーの身体を包む。
回復魔法の粒子が、夏の夕陽の中でほのかにきらめいた。
混乱の渦の中――
ジョーは、ゆっくりと上体を起こした。
荒い息を整えながら、
俺の顔を見つめる。
しばらくの沈黙。
やがて、ジョーの頬を一筋の涙が伝った。
その瞳が、確かに“俺”を見ている。
何も言わずに、ただ俺の手を握った。
震える手だった。
俺も、言葉にならなかった。
ただ、その手を強く握り返す。
再会の喜びも、安堵も、
すべての感情が涙に溶けていく。
二つの世界を越えて、
ようやく、再び出会えたのだ。
その日、ジョーが意識を取り戻したことは、
あっという間に村中に広まった。
夕方にはもう「ジョー全快祝いの宴」が開かれていた。
樽を抱えた村人たちが次々と集まり、
焚き火のまわりには、笑い声と乾杯の音が鳴り止まなかった。
「ジョーの復活に乾杯だ!」と誰かが叫ぶたびに、
女房達が眉を吊り上げて怒鳴り散らしていた。
「ちょっと! 病み上がりの人にお酒飲ませないで!」
その剣幕に、
屈強な男たちが一斉に背筋を伸ばしたのは言うまでもない。
もっとも、ジョーの体調が万全であろうことは、
俺にはわかっていたが。
焚き火の炎が静かに揺れていた。
赤い火の粉が夜風に舞い、星の瞬きと混ざり合う。
ジョーは丸太に腰を下ろし、
久しぶりのエールを手にしていた。
「……うまいな。」
彼は笑いながら、泡を指で拭い、もう一口飲んだ。
その表情には、確かな“生”の色が戻っていた。
やがてジョーは、ゆっくりと語り始めた。
あの日、突然、俺が目の前から消えたこと。
森の中で、どれだけ探しても見つからなかったこと。
夜になっても戻らず、朝が来てもその気配がなかったこと。
どうしても埋まらない“空白”に、何度も心が折れそうになったこと。
そして――
俺と再び出会えた瞬間、
言葉より先に、直感で「迎えに来てくれた」とわかったという。
「……ありがとうな、マイト。」
ジョーは小さくつぶやいた。
それだけで、焚き火の音が少し遠くに聞こえた。
宴が続く中、
村人たちは、興奮気味にジョーを取り囲み、
この二年間に何があったのかを口々に伝えた。
ジョーが倒れたあと、村人たちは交代で看病を続けたこと。
毎朝、火を絶やさぬように小屋を温め、
毎晩、彼の手を握って祈りを捧げたこと。
二度の冬を越えても、誰ひとり諦めなかったこと。
ジョーは、その話を聞いて目を見開いた。
「……二年も、俺は……眠ってたのか。」
その声は震えていた。
俺は、静かに頷いた。
「詳しい理屈は、今は話せない。
でも……俺が“向こうの世界”から戻ったあと、
お前を呼び戻す方法を見つけたんだ。」
ジョーはしばらく黙っていたが、
やがてゆっくりと笑い、頭を下げた。
「そうか。……ありがとうな、マイト。」
何度も、何度も、礼を言った。
夜が更ける。
焚き火の火が小さくなっていく。
夜の風が吹き抜け、
灰が舞い、静寂が戻った。
俺は、火の残り香を見つめながら思った。
俺の仮説は、正しかった――。
夢と現実の層は連動している。
強い刺激が、眠る意識を階層の上へ押し戻す。
それを、いま、俺は自分の手で証明したのだ。
だが――
それは同時に、ひとつの問いを突きつける。
俺は、これから、この世界にどう向き合うべきなのか。
翌朝。
俺は、ジョーとの名残を惜しみつつ、村を後にした。
「なあに、同じ世界で生きてるんだ。
また、いつでも会えるさ。」
そう呟きながら、振り返ると、
朝の光の中で、ジョーが小さく手を振っていた。
――ジョーの森で過ごした三日間を、
俺は、生涯、忘れることはないだろう。
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