第15章 SE、女子高生に嫌われる。
隣町で、身元不明の人物が保護されたらしい。
そして、
その面倒を俺に見てほしいから、迎えに来いとのことだった。
あたたかな春の日の朝。
俺は町のギルドに呼び出され、その旨を通達された。
聞くところによると、保護されたのは若い女性。
春のお花畑に放心状態で座り込み、
手には「俺の持つ魔道具によく似た魔道具」を握っていたという。
ここ最近、
珍しい魔道具を扱う俺の存在は、近隣の街にも知れ渡っていたらしい。
「なら、世話は同類に任せるのがいい」
との結論で、
俺に白羽の矢が立ったようだ。
レオ曰く、
身元不明者が突然現れるのは、
この世界では半ば“日常”として起きる出来事らしい。
彼らは基本的に、
街やギルドが面倒を見るのが常となっているとのこと。
なるほど。
日本人が落ちている財布を見つけたら、
誰に言われるでもなく交番に届ける――
その感覚に近いのかもしれない、
と俺はひとり納得した。
今回は若い女性ということで、レオたちはやけに乗り気だった。
その日のうちに馬車を借り、朝のうちに隣町へ向けて出発した。
夕方、日が傾きかけたころ、隣町のギルドに到着。
そして、その女性と面会した。
俺の妹と同じくらいの年。
どこかの高校の制服を着ている。
スカートは短く、髪は金色、メイクは完璧。
――ギャルだ。
そして、手にはスマホを握りしめていた。
ぱっと見た感じ、たぶんiPhoneの最新のやつだ。
女子高生に名前を聞くと、彼女は気怠そうに言った。
「ミカっす。十八歳、高校三年っす。」
「てか、ここどこ? おじさんたち、だれ?」
……おじさん。
俺はこの世界で久しぶりに、その単語を聞いた気がした。
相手を警戒させないため、
俺は異世界に来たとき着ていたビジネススーツをそのまま着ていたのだが、
どうやらそれが逆効果だったらしい。
彼女は俺を、なにか怪しい宗教勧誘か詐欺師でも見るような目で見ていた。
ここに来た経緯は、彼女自身もよく覚えていないという。
「学校の帰りに横断歩道を渡っていたところまでは覚えてるけど、
気づいたら、原っぱの真ん中に座ってた」
とのこと。
俺が保護のために来たと伝えると、
「え、警察の人?」「……まあ、そんなところだ」
そんなやりとりをした。
彼女はその他の記憶もあいまいで、
元の世界のこともぼんやりしているようだった。
何か手がかりにならないかと、俺はスマホを取り出し、
カメラ機能で彼女を撮影してみた。
その瞬間。
「は? なに勝手に撮ってんの!?」
ミカは椅子を蹴るように立ち上がり、露骨に睨んできた。
……そうだった。
しばらくこの世界で暮らしていたせいで、
感覚がおかしくなっていた。
元の世界では、知らない女性――しかも若い子を――
いきなり撮るなんて、下手をすれば通報、いや、逮捕案件だ。
「悪い。悪気はなかった。ただ、確認のために――」
「知らねーし! マジでキモいんだけど!」
……完全にアウトだ。
こうして、彼女の俺に対する第一印象は、最悪なものとなった。
その場は、レオたちになだめられ、なんとかおさまった。
レオ曰く、
「この街は治安が悪い。女の子を保護するには向かない。
なるべく早く出発したほうがいいだろう」
とのことだった。
俺も同感だった。
翌朝早くに出発することに決め、
俺たちはミカを伴って宿屋へ向かった。
俺たち三人は同室。
ミカは、別の部屋に一人で泊まることになった。
不安な様子もなく、むしろ清々したといった様子であった。
――しかし、その夜。
深夜、俺たちの部屋のドアが激しく叩かれた。
扉を開けると、宿の店主が頭から血を流して立っていた。
「族が……押し入って……! あの女の子を……連れていかれた!」
血の気が引いた。
まさか、もう狙われたのか。
若い女性が保護されたという情報が、
どこかから悪党どもに漏れたのだろう。
完全に油断していた。
「どっちの方角に逃げた?」
「そ、それが……わからん。街の外へ向かったようだが……!」
行き先も掴めないまま、俺たちはすぐに装備を整えた。
だが、探す手がかりがない。
そのとき、ふと――
俺は昼間、ミカを撮影したことを思い出した。
スマホを起動し、ステータスを確認する。
#ミカ {
職業: 女学生;
性別: 女;
戦闘力: 1;
:
:
位置: https://www.google.co.jp/maps/place/mika/@34.5182676,136.15…
}
予感的中だ。
いつかのオオカミ狩りのときと同じ。
位置情報が表示されている。
「見つけた。行くぞ。」
俺たちは厩舎へ駆け込み、馬にまたがった。
月明かりに浮かぶ石畳を蹴り、夜の街を駆け抜ける。
スマホが示す方角を頼りに、闇の中を疾走する。
蹄が土を叩くたびに、胸の鼓動も速くなる。
冷たい風が頬を裂き、視界が涙でにじむ。
「レオ、右の道を行け!」
「了解!」
森へ続く細い街道へ入り、さらに速度を上げた。
木々の影が流れ、馬の息づかいが荒くなる。
しばらく走ったのち、遠くにかすかな灯りが見えた。
鬱蒼とした森の奥――
スマホの示す目的地に到着した俺たちは、
廃屋のような建物を見つけた。
「アジト……か。」
レオが剣の柄に手をかける。
様子を見る?
そんな余裕はなかった。
中から、かすかに聞こえた。
――女の子の泣き声。
考えるより先に、俺たちは突入していた。
扉を蹴破り、中に飛び込む。
そこには、猿轡をはめられ、手足を縛られたミカ。
そして、今にも彼女に襲いかからんとする、五人の族。
「離れろ!!」
俺の声が響くと同時に、レオが剣を抜き、リオンが呪文を詠唱する。
火花と怒号が交錯し、戦闘が始まった。
一人、二人と斬り伏せる中、
ルナがミカの縄を解こうとミカに近づく。
だが、その瞬間。
族の一人が、隙を突いてルナたちに刃を振り下ろした。
ルナはとっさに身をひねり、ミカをかばうようにしてその刃を背中で受けた。
猿轡をはめられたミカが、声にならない悲鳴を上げる。
ルナは、ミカをかばうように、敵に背を向けたまま。
二撃目、三撃目が飛ぶ。
その瞬間、俺の“戦闘力マシマシパンチ”が、
ルナたちに気を取られていた族の顔面に炸裂した。
族は吹っ飛び、壁を突き破って、動かなくなった。
数分後、そこに立っていたのは、俺たちだけだった。
リオンがすぐにルナのもとへ駆け寄り、回復呪文を唱える。
青白い光がルナの身体を包み、深い傷口がゆっくりと閉じていく。
ルナは意識を失っていたが、脈はしっかりしていた。
リオンがうなずく。
「一命は取り留めた。」
ミカは涙でぐしゃぐしゃの顔をしていた。
それでも、しっかりとルナの手を握っていた。
族を成敗してからの帰り道。
まだ傷がうずくルナをレオの馬に乗せ、
ミカは俺の馬に乗せて、宿屋へ戻った。
ようやく泣き止んだミカは、すっかりしおらしくなっていた。
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