雨の日もキャッチボールをしたね
あ〜ちゃん
第一話 玄一郎side
「悔しい…クソっ」
熱海玄一郎は野球初心者だが中学の野球部に入った。
周りは坊主頭の経験者ばかり。
野球部に入ったとき長髪(しかも金髪)だったのは玄一郎だけ。
野球部は暗黙の了解で坊主にしないといけないということを入部して初めて気付いた。
そして野球部初日の練習後、案の定先輩に詰められた。
「お前なんで坊主やないねん」
「知らなかったんです」
「知らんで済んだら警察要らんでな、草抜きでもしとけ、アホンダラー」
「わかりました!」
やはり初心者がいきなり野球部は難しかったか。
いや、しかし玄一郎は自分の限界に挑戦し一皮むけたいと決めた。
野球がうまくなって女の子にモテたい。
そして特待生で名門野球校に入って人生に箔をつけたい。
しかしそんな玄一郎の思いも虚しく、練習後、4人のマネージャーたちと玄一郎で和気あいあいと草抜きに勤しんでいたのである。
「よく金髪で来たねー」
「ドラマROOKIESじゃないで」
「社会性がマイナス100点」
3年生の3人のマネージャーにはボロクソ言われたが、嫌悪感を示されたようには感じなかった。むしろ「はいはい」みたいな感じだった。
「社会性がマイナス100点だったら、俺の法則では、もしスーパーヒーローになったらプラス100点ですね」
「アホやなあんた」3人の先輩のマネさんたちは小さく笑った。
「あらうちの野球部に珍しいの現れたな」
「熱海玄一郎といいます」
「あんたなかなかおもろいな」
すると、4人のマネージャーのうち、1人の今まで黙っていた俺と同じく新入生の一年生のマネージャーがこちらをじっと見ていた。
そのぱっちりとした目は大きく、「私を見て」と言わんばかりの主張の強そうな顔をしたお姫様顔だ。
「俺と同じ1年の、、マネさん?」
「せや、アホ」
「アホ言うな、名前は何ていうん?」
「姫野麗奈やアホ」
3人の三年のマネさんがもうこの辺でいいやろと言って作業を終え、俺たちは部室棟へ帰った。マネさんと俺以外の、部員はもう帰っていた。
校門を出ようとすると、門のところで姫野さんがいた。
春のそよ風が姫野さんの黒髪を凪いだ。
「もう先に帰ったと思っとったわ。」
玄一郎は野球帽を反対にかぶり直した。
「アホ、別にあんたのこと待ってたわけちゃうで」
「はいはい」
「ほんまに待ってないからな、門の前にいたらたまたまあんたが来ただけやからな」
姫野さんは何かを握り締めるようにブレザーのポケットに手を入れていた。
「じゃあ俺帰るから」
「………」姫野さんは黙ったままだ。「……じゃあね……ぁほ」
玄一郎は姫野さんに背を向け歩き出した。
姫野さんの目に涙が溜まっていることに気づきもしないで。
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