朝起きたら、拾った猫が神様を名乗る超絶可愛いツンデレ美少女になっていた件
五月雨前線
第1話 出会い
「ねえ、そろそろ起きてよ」
声が聞こえた、気がする。
そんなはずはない、とすぐに理性が否定する。俺は一人暮らしの大学一年生。
同棲していて、朝に声をかけてくれる彼女なんていない。というか彼女ができる気配はない。
じゃあ、今の声は何だ。気のせいか?
「ねえ、起きてってば」
いや、違う。気のせいじゃない。声が聞こえる。まるで声優のように綺麗で、透き通った声が。閉じていた瞼をゆっくりと開く。徐々に意識が覚醒していく。
「ううん……」
「あ、やっと起きた?」
俺が発した声に、反応する謎の声。俺は上体を起こし、顔をゆっくりと声のする方向に向けた。
そして、叫んだ。
「え……あ……えええええええええええええええ!?」
「ちょっと、何? 朝から大きな声出さないでよ」
そこには、金髪の全裸の美少女がぺたんと座り込んでいた。
「え、ちょ、は!? ちょ、ちょっと待ってよ!」
謎の美少女から視線を逸らし、俺は叫ぶ。
何だ、何なんだこれは一体? 夢か?
「どうしたの? 待ってって何?」
美少女の声が聞こえる。
胸を右手で抑える。どくんどくんと心臓が脈打っている。
見てしまった。一瞬とはいえ、美少女の裸を。今まで漫画やアニメ、映画や大人向けの動画の中でしか見てこなかったそれを、至近距離で見てしまった。
大きかった。胸は大きくて、そして綺麗だった。って、そんなことを考えてる場合じゃない。
「ま、待ってくれ! ちょっと、あの、何なんだ君は! ふ、不法侵入か! 警察を呼ぶぞ!」
「何なんだ、って、昨日君に拾ってもらった猫だけど」
「はああああ!?」
たしかに俺は、昨日猫を拾った。夜、バイトが終わり、アパートに帰宅している途中、一匹の野良猫に遭遇した。一目で三毛猫と分かるその猫は、俺を見て悲しげに鳴いた。
可哀想だ、と思った。きっとこの猫は、今まで何人もの人間に同じように鳴き、そして無視されてきたのだろう。ここで俺が無視すれば、この猫はこれからも変わらず一人、いや一匹で孤独に生きていくのだろう。
「俺の家に来るか?」
自然とその言葉が口から出た。この猫は、俺と同じように、孤独だ。もしこの猫を連れ帰り、一緒に生活を共にすれば、俺の孤独は少しでも解消されるかもしれない。そう思った。
俺の言葉に反応するように、にゃあああ、と猫は鳴いた。心なしか嬉しそうにしているように見えた。たしかうちのアパートはペット禁止じゃなかったから大丈夫だろう、と判断し、俺は猫を抱き抱えて帰宅した。
風呂で体を洗ってやり、水を飲ませた。まさか猫を拾うなんて思ってなかったので、猫用の餌なんて当然ない。明日、大学終わりに買おうかなと思った。
そして寝る時間になり、俺がベッドに向かうと猫は俺の足に体を擦り付けた。
「一緒に寝るか?」
にゃあああ、と猫は鳴いた。嬉しそうだった。俺は猫と一緒に毛布を被り、眠りについた。一緒に眠るのが猫とはいえ、孤独じゃないことが何よりも嬉しかった。
そして、今。起きたら、拾った猫は消え失せ、代わりに全裸の美少女が一人。
ありえない。意味が分からない。
「ねえ、何でさっきからそっぽ向いてるの? こっち向いてよ」
美少女の声が聞こえる。不満げだ。
「ま、待ってくれよ! たしかに俺は昨日猫を拾ったけど、まさかその猫が君だと言いたいのか? 猫が君に変身したと、本気で言ってるのか?」
「本気も何も、事実なんだからしょうがないじゃん。私は君に拾ってもらった猫。君に体を洗ってもらって、一緒に寝た猫だよ。そろそろこっち向いてくれない?」
「待て待て! えっと、とにかく毛布で体を覆ってくれ! 裸を見せつけられると困るから!」
「何で? どうして困るの? 人間の男は、女の裸が好きって、知り合いの神様が言ってたけど」
「いや、その、好きっていうか、それはそうなんだけど、とにかく、裸を見せるのは駄目だ! 毛布で体を覆わない限り、俺は君を見ないからな!」
「しょうがないなぁ。はい、体を覆ったよ」
俺は恐る恐る視線を美少女に向けた。言葉通り美少女は両手で毛布を掴み、体を覆っていた。はああ、と俺は溜め息をつく。
「やっとこっち見てくれた。えっと、おはようございます、でいいんだっけ? 人間の世界の朝の挨拶ってたしかこうだったよね?」
「挨拶なんてどうでもいいから、さっきの話の続きをしよう。猫が君に変身したというのは事実なのか?」
混乱しつつも俺は言葉をぶつける。
「うん、そうだよ」
「信じられない。そんなフィクションの世界でしか起きないような出来事が、まさか目の前で起きるなんて、本当に信じられないよ」
「信じてよ。昨日拾った猫がいなくなっていて、代わりに私がここにいるんだから、そういうことじゃん」
俺は右手で髪を掻き、「ううん……」と声を絞り出す。
「何? その釈然としない表情は」
「やっぱり信じられないよ、そんなこと」
「信じてもらわないと困る。あ、そうだ、一つ大事なお願いがあるんだけど」
「何?」
「これから私を、この家に泊めてもらえないかな?」
「は?」
目を丸くする俺に、「お願い!」と美少女は言葉を重ねる。
「私、他に行く当てがないんだよ! 君の家に泊めてもらえなかったら、一人寂しくこの世界を彷徨うことになっちゃう! そんなのもうやだ! ねえ、お願い! 私をこの家に泊めて!」
突然現れた謎の美少女にされた、唐突すぎるお願い。
了承するなんて間違っている。そもそも、この美少女の正体が不明だ。怪しすぎる。警察を呼んで、不法侵入した不届き者だと突き出すのが自然だろう。
しかし俺は、首を縦に振っていた。この孤独を、解消出来るなら。その期待が俺の中でどんどん膨らんでいた。
「え? え、え、え? いいの? 本当にいいの?」
願いが叶ったはずの美少女は何故か、とても驚いていた。
「うん、いいよ」
「何で? どうして受け入れてくれるの?」
「俺、ずっと1人で寂しかったんだよね。君のことはとても怪しいと思ってるし、今の状況は全く理解出来てないけど、君がこの家にいてくれるなら、孤独が解消出来るんじゃないかなって思って。あと……君は、すごくかわいいから、そんな君と一緒にいられるなんて、嬉しくないと言ったら嘘になるからさ」
美少女は大きく息を呑み、そして「……ありがとう」と声を絞り出した。ぱっちりとした大きな目から涙が一筋こぼれ、また一筋、また一筋、と止まらなくなった。
「泣くほど嬉しいの?」
「あ、いや、べ、別に嬉しくなんてないから! 勘違いしないでよね! これは、そう、ほら、人間って欠伸をした時に涙が出るでしょ、それだから!」
「欠伸なんてしてたっけ?」
「うるさいうるさい! じゃあ、これから君のお世話になるから! よろしくね!」
美少女はにこっと笑った。その笑顔があまりにも眩しくて、かわいくて、美しくて、思わず見惚れてしまった。
意味が分からない。本当に意味不明だ。拾った猫が朝起きたら美少女になっていて、しかもその美少女と同棲することになるなんて。
そんな意味不明な状況なのに、何故か俺の心は踊っていた。どんな形であれ、抱いていた孤独が解消されることが本当に嬉しかった。
「涙、拭いたら?」
「あ、うん、そうだね」
美少女は両手で涙を拭った。つまりそれは、今まで掴んでいた毛布を離すことになるわけで、毛布によって隠されていた裸が俺の目に飛び込んでくるわけで……。
「わあああああああ! だ、だから胸を見せるなああああああああああ!」
早朝のアパートに、俺の叫び声が響き渡った。
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※本日より毎日21時17分に更新します! 頑張って書いていきます!
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