第37章 — 世界を裂いた衝撃

最後のカーブが、宣告のように迫る。

狭い弧。

落書きされた壁。

死にかけた目のように点滅する街灯。

リョクはハンドルが震えるのを感じる。

まるで車全体が真っ二つに裂けようとしているかのように。


影が迫る。

速く。

静かに。

致命的に。


もう“走って”はいない。

滑っている。

刃のように空気を切る闇の腕を伴った黒い蛇。


内側の存在が囁く。


「今だ。ここで仕留めなければ――お前は置き換えられる。」


リョクは深く息を吸う。

胸の痛みが、不良エンジンのように脈打つ。

目が焼けるほど熱く、喉は砂漠のように乾いている。


それでも、

減速しない。


彼はアクセルを踏み込んだ。


影が車の横に張りつく。

煙のようでいて、固体のような指が金属を掴む。

爪が車体を削り、黒い焦げ跡を残す。

車が大きく揺れる。

失速。

転倒寸前。


リョクは歯を食いしばり、

暴れるハンドルを力で押さえ込む。


車はヨレながらも——

前へ進む。


存在が吠える。


「すべてをくれてやれ!

 残りの自分を燃やし尽くし、奴を倒せ!!」


リョクは叫び返す。


「お前にまで俺を渡すつもりはない!!」


影が歯のない口を開き、

砕け散るガラスのような咆哮を上げた。

近くの窓が割れ、

警報が次々と鳴り響く。


影はボンネットへ飛び乗る。

車体が沈み、

タイヤが悲鳴を上げ、

地面が震える。


それでもリョクは加速する。


速度計が限界を突破。

エンジンが悲鳴を上げる。

車全体が「死なせろ」と言わんばかりに震える。


影が腕を振り上げる。

それは、

リョクが失ってきたものすべてでできた大鎌の一撃。


彼はハンドルを切る。


車がスリップする。

軌道から外れる。


そして壁へ――

凶暴なほどの暴力で叩きつけられた。


BOOOOM。


世界が白い閃光で爆ぜる。

火。

ガラス。

金属。


街が黙り込む。


衝撃音が、終末の雷鳴のようにビル群へ反響する。

影は吹き飛ばされ、

コンクリートに叩きつけられ、

煙へと分解しながら、

千の声で絶叫した。


車は三度転がった。

一回転ごとに別の死。

一撃ごとに別の懺悔。


やっと止まったとき、

車は逆さ。

炎がボンネットを舐め、

黒煙が魂のように空へ登っていく。


リョクは体を動かそうとする。

何も応えない。


存在が息を切らした声で囁く。


「立て……まだ終わっていない……」


だがリョクはほとんど呼吸できない。

額から温かい血が流れ、

指先は氷のように冷え、

世界が崩壊していく。


道路の反対側で、

粉々になった影が集まり始める。

嵐に吸われる砂塵のように。


這い寄り、

揺れ、

再び形を成そうとしている。


だが弱い。

ひどく……弱い。


存在が怒鳴る。


「とどめを刺せ!」


リョクは頭を持ち上げることもできない。


それでも彼は笑った。

小さく、

壊れ、

――だが確かに人間の笑みで。


「あいつが俺になりたいなら……

 俺と同じ苦しみを味わえ。」


道路全体が震える。

瀕死の影が、それでも立ち上がる。

残った力を寄せ集め、

破壊のために。


そして——


ガソリンタンクが破裂した。


街全体を一瞬だけ照らすほどの閃光。

腐敗した夜明けのような爆発。


影は光に飲まれた。


煙が晴れるとき――

ミクロの転換点が訪れる。


リョクは、焼け焦げ、

砕かれ、

血を流しながら……


まだ生きていた。

まだ息をしていた。


そして影は――


消えていない。


ただし、

形を変えていただけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る