第27章 — 支配の計画

街は、

光に照らされた巨大な“死骸”のように

リョクの目の前へと広がっていた。


丘の上に車を停めると、

大通りは脈打ち、

サイレンは飢えた虫のように踊り、

ヘリは空を切り裂いていた。


だがリョクは、

もう恐怖を感じなかった。


感じたのは――

“縄張り” という感覚。


助手席には、影が“座っていた”。


そう、座っていた。

確かな重みを持つかのように。


輪郭はほとんど実体を持ち、

その鼓動はエンジンの振動と同期していた。


「受け入れた今――」

存在は柔らかく、

まるで誇らしげに言った。

「取り戻すべきものを支配する時だ。

 お前の正当な領域……

 すなわち“闇のレース界”を。」


リョクはハンドルを握りしめた。


「どうやって。」


「首領を潰す。

 弱者を震え上がらせる。

 そして全てをお前の走路に並ばせる。」


影は顔のない頭を傾けた。

だが意志は濃厚に伝わってくる。


「レースを支配すれば……

 街そのものを支配できる。」


リョクは拳を握りしめた。


その手は黒ずみ、

皮膚の下で影のような細い線が脈打っていた。

まるで“生きた墨”が流れているかのように。


「もっと勝てばいいのか。」


「勝つだけでは足りん。

 壊せ。

 恐怖を、お前の速度より速く走らせろ。

 この街には“リョクのない道はない”と教えるのだ。」


胸の奥から、

かすかな罪悪感が浮かぶ。

だがそれは薄く、遠く、

遠い昔の誰かの記憶のようだった。


リョクは頭の中で

“死区”の支配者たちを思い浮かべる。


――カイゼン。

 今や彼は恐れている。


――クレ兄弟。

 地下レースの王。


――“墓掘り人(グレイヴディガー)”。

 生死を賭ける狂気の走り屋。


――ヒカロ。

 違法車隊を仕切る影の組織者。


こいつらを落とせば、

残りは自動的に崩れ落ちる。


ラジオが独りでに点いた。


ノイズが走り、

歪んだ低い声が浮かび上がる。


「特別レース――午前零時――何でもありだ。」


リョクは笑った。


歪んだ、黒い笑み。

だが――

ルームミラーの中の“反射”は、

彼より一瞬早く笑っていた。


「まずは奴らからだ。」

影が囁く。

「道は……お前の血に従う。」


リョクはエンジンをかけた。


振動が体を駆け抜け、

液体の雷のように血管を走った。


車は坂を下り、

ヘッドライトが闇を切り裂く。


影は天井、ダッシュボード、ペダルへと流れ、

もはや分離不可能な存在となる。


その瞬間、リョクは悟った。


これは逃走ではない。


“狩り”だ。


そして“微細な変化”がやって来る。


ポケットで携帯が震えた。


画面には、

匿名のメッセージが一つ。


「今夜のレースに来たら、

 お前が愛した誰かが死ぬ。」


送信者は不明。


そしてリョクは気づく。


彼にはもう失う者など――

いないはずだった。


……

なのに胸の奥で、何かが微かに疼いた。

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