勇者パーティー御一行サマ!

横隔膜

序章

序章「勇者パーティーってなんだっけ?」




5つの国で構成されるとある世界。

この世界の大体中央に位置するのがアルデガルド王国。通称「中央国家」である。

5つの国で最も発展しており、強い影響力を持っている。


そんな中央国家の王家付属占い師が、「数年後、魔王が復活する」と微妙に曖昧な予言をしたことにより、王家に仕える魔法使いたちによる勇者召喚の儀が行われた。


しかしことごとく失敗し、予言から約1年後にやっと成功した。


これはそんな勇者召喚から3年後のおはなし。







ふと3年前を思い出す。しかしあまりいい思い出ではないので再度記憶の引き出しにしまい込んだ。


相も変わらず占い師は「数年後に魔王が復活する」と言い続けている。あいつ、ヤブだろと心の中で吐き捨てながら、街道沿いのカフェで紅茶を嗜む。

すこーし嫌な予感がするが、まぁ予感は予感。きっと大丈夫だろう。


そう思いつつぼーっとしていると、遠くから自分の名前を叫びながら走ってくる長髪の女性が見えた。それにより、自身の嫌な予感は的中したということが明確になった。


「はぁ……はぁ……わ、ワタヌキ様!!あ、アスター!アスターが!!」


なるほど。アスターが。


「ギルドの……受付嬢を突然怒鳴り出して……!!」


なるほどね。


ほんっとうにまずい。これだから「えぇ……?あれが勇者パーティーなの……?」とか言われるんだよ!全くアスターときたら。何度目だこれ。


「わかった。今から行く。とりあえずユーリは周辺の人たちをどうにかして」


「わ、わかりました……」


お茶を一気飲みし準備をして歩き始める。

最高最悪の情報を伝えに来てくれたのは勇者パーティの魔法使い、ユーリ・シュタインベルク。

綺麗な銀色に水色のグラデーションが入った長髪をもつ、魔法の名家であるシュタインベルク家の末娘である。

めぐりめぐって勇者パーティーに加入しただけであり、普通こんな苦労者になっていいはずがないのだが。


そんなことをしてる間に目の前には冒険者ギルド。そして人だかり。

人だかりをかき分けて中心に向かう。周囲がざわついている。そりゃあ勇者が来たらな。


近づいていくにつれて、受付嬢らしき人の声と男の声、さらに女の声が聞こえる。


「アスター様!もういいでしょ!!ほらいーきーまーすーよー!!!」


「ダメだ!!おかしいだろ!俺らは勇者パーティーなんだぞ!!」


いや勇者パーティーだからって騒ぎを起こしていいわけではないのだが。


「ほらほらアスター。何で揉めてるんだ?」


とりあえず優しく聞く。こういうガキみたいなのには一旦優しくするのがいい。こう見えて俺はこういうのの扱いが得意な方だからな。


「ワタヌキ様!!こいつがケチってんだよ!報奨金!!」


ケチっている?本当だとしたらかなり大問題だが、そう簡単にブチギレる案件でもない気がするが……。まぁこいつはそういうやつだから仕方ない。


「またまた。アスターは短気なんだから。依頼書は?」


「あ、はい!こちらです……」


「ありがとう、ヘイル。」


依頼書にはそこそこの金額が書かれてあるし、受付嬢が用意したと見られる綺麗に積まれた金貨、銀貨たちを数えてみても、依頼書の通りに見える。


「……はぁ。依頼書の通りだな。どう見ても。」


「ですよね!!ほら行きますよアスター様!」


そうヘイルが言うと、アスターはずるずる引きずられて行った。

とりあえず、騒動を起こした詫びとして賞金の3分の1を返却した。申し訳ない。


騒動の発端である男、アスター・オラトリアム。銀髪の長い三つ編みに、赤と黒を基調とした曲芸師のような服が目を引く男。しかし過去の事故のせいで少々短気になっている。


アスターを引きずって行った女はヘイル・スノードロップ。中央国家の東にある「霞瀬かせ」という、通称「東方国家」からやってきていいとこの長女。どうやら中央国家の魔法学院の元教師らしい。黒髪がよく目立つ。


「あ、お疲れ様です、ワタヌキ様!周辺への説明等々は終わらせてあります!」


「ありがとうユーリ。ヘイルもお疲れ。」


「いえいえ……当然のことをしたまでです。」


「アスターはちゃんと反省すること。」


「…………わかった。」


こうして今日も勇者パーティーは旅を続ける。


この世界が言う異世界__日本から召喚された勇者。「四月一日 翔汰」ことワタヌキと勇者パーティーの冒険は続く。



…………こんなのが勇者パーティーでいいのだろうか。




「ところで、次はどこに?」


そうユーリが言った。たしかに今のとこ依頼も受けていないし行くあてもない。このままではただのニートと一緒である。


さっきとは別のギルドに入り、なにかいい依頼がないか物色する。今のところ、別の国には行きたくない。というか遠出をしたくない。もう少し中央国家でダラダラしていたいのが本音だが。しかしそうしていてはいつか世界は滅んでしまうので、移動するなら遠くも近くもない、微妙の場所がいい。


「…………お、これは……」


そう呟きながら掲示板から紙をとる。後ろから3人がひょこひょこ覗いてきている。

その紙を持ってカウンターに行く。そこで正式に依頼を受注するのである。


受注証明書を貰った後、新しく目にする土地への好奇心と仲間達がやらかさないかの不安を胸に、ギルドを後にした。

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