胡蝶の夢
文屋治
壱ノ章
此れは夢である。
私は一人、海岸に佇んでいた。朧月が天に浮かび、周囲は夜に呑まれ、
靴は履いていなかった。素足には細かく、柔い、砂の感触があった。足の指を動かすとサラサラと乾いた砂が纏わり、離れて征く。
艶やかな絵画の一点に滲んでいた黒が次第に全てを染め上げた。
此処に於ける黒とは、其れ即ち闇である。周囲に広がる真っ暗な闇。
此の闇の暗さには
闇夜へと溶けて、私が無くなって了わぬ様、私は一歩、歩み始めた。
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