46.その卵の中はいかに
ソラは弓矢を構えた。遠くで土をいじっているイノシシを狙っているのだ。目標を定めて弓矢を放った。
しかしそれは予想外の方向に飛んでいく。ソラに弓の才能はないようだ。
「ソラにも苦手なことがあるんだね」
アーチェはソラから弓矢を取り上げると、イノシシに弓矢を放つ。それは喉元に当たり、イノシシは絶命して倒れ込んだ。見事な腕前だ。
「だって、これ難しいんだよ。大体初めてだし……」
弓矢などやったことがない。あまり難しい印象はなかったが、これがやってみると難しいのだ。アーチェはイノシシを木の棒に縛り付けるとそのまま持ち上げた。
ソラ達は旅の途中、狩りをしていた。それはもちろん、食料集めだ。
「アーチェはその弓をどこで習ったの?」
「習ったことはないけど……」
「へぇー、それであの一撃……」
ソラは少し悔しかった。アーチェが照れ臭そうに笑った。
「僕なんて、全然。ソラも必ずできるよ」
「そうかな?」
弓が使えたらさぞかし、戦闘に幅が広がる。剣を背中に携えた状態でどうやって持つのかはそのときに、考えればいいだろう。焚き火のために選んだ場所に戻ると、ロロとエドワードが口喧嘩をしていた。
「こんなに呑気でいいのか? 何を考えているんだ」
「腹が減っては戦ができないっていうだろ? お前、戦えんのか? どうせ、ラーフラに守ってもらってるんだろ?」
「悪いか、私は王子だ」
「あぁ、そうか」
どうにも二人は折り合いが合わないらしい。あまり一緒にはしない方が良さそうだ。ラーフラはそんな二人のやり取りを笑顔で眺めていた。喧嘩を止める気はないらしい。
エドワードと口喧嘩をすることが多いため、ロロはアーチェと口喧嘩をする機会が減った。単純に対象が変わったのだろうが、少しばかり二人のあのろくでもない会話を聞けないと思うと気分が沈む。
「あの、肉を取ってきたんだけど」
「あ、アーチェ! 貸して!」
ラーフラが駆け寄ってきて肉をアーチェから奪い取った。そしてそれにそのままかぶりつく。その光景にソラは言葉を失った。肉をそのまま食べる――そんな習慣が鳥人にはあるのだろうか。しかし、アーチェがポカーンとしているところを見ると、そんなことはないようだ。
「何してんの! そんなことしたら、病気になるよ!」
「大丈夫、大丈夫! 病気になるのは新鮮じゃないからだよ。だから、すぐに食べればオッケー!」
「え、でも一回は火を通した方が……」
確かにラーフラの言う通り、新鮮な肉の方が安全だろう。しかし、それは絶対とは言えない。肉に火を通すというのは常識だ。ソラはラーフラを止めようとしたが、もうすっかり食べてしまっていた。もう、肉の部分はあまり残っていない。
「あ、ラーフラ! 何やってんだよ! 俺達の分は?」
ロロが喧嘩を中断して、ラーフラを咎めた。しかし彼は何も気にした様子はなく、寝転がった。その図太い神経が羨ましい。彼はどこでもやって行けるだろう。
お陰でもう一度、食料を探すことになってしまった。ロロは今度は自分が行きたいと言っていたが断った。くじ引きの結果だし、アーチェの弓の技術をもっと見ていたい。
アーチェは弓矢を構えると、川の中を泳いでいる魚でさえ射止めた。そのため夕飯はかなり豪勢になった。魚の刺身など初めて食べたが、なかなか美味しい。これは塩をつけて食べるのだという。
ロロは初めて食べたわけではないようで黙って食べていた。エドワードはあまり好きではないようで、ラーフラが二人分を食べていた。
食べる時間はすぐに終了して、休憩は幕を閉じた。全員でただただ北へと歩き続ける。ソラは集中力を張り巡らせた。木の上からこちらをうかがっている目を大量に持つムカデを一刀両断した。
ロロは足に食らいつこうとした、くちばしのあるウサギを撃退した。
エドワードにモンスターの攻撃が向かえば、すぐにラーフラが相手を引き裂いた。彼は翼で相手の体を引き裂いているみたいだ。どうりで武器を持っていないはずだ。その羽さばきは見事なものだ。
なぜ、彼等は一緒に行動してるのか。そもそも、王子などうしてここにいるなど、色々な疑問を湧くが深くは考えないでおく。
北。そこは紅竜が寝床にしていたであろう場所があった。巣が綺麗に作られており、藁のようなものが崖の前にまとめられていた。
やむを得ずその藁の上を通ると、不思議な感覚だった。
崖の中央には穴が空いている。象でも入れるぐらいの大きな空洞だ。紅竜はそこを塞いでいたのだ。辺りには切り立った崖。確かにここを塞がれたら北に行くことはできない。
歩いていると、ロロがその場に座り込んだのを感じた。ソラが振り返ると、ロロが何やら大きなものを布をかけて持っている。
それは何やら丸いものに思える。ロロはそれを嬉々として持ち上げていた。他のメンバーはもう先に進んでしまっている。
「ロロ、それは何?」
「これか、ちょっと見てみろ」
「これは卵……!」
布を少しだけ持ち上げると、それは紛うことなき卵だった。それにしても随分と大きい。その卵には金色の紋章が刻まれている。中で何かが動いている不思議な感覚がある。
「これあの紅竜の卵だろ。この藁の中にあったんだよ」
「それ持ってくの?」
「当たり前だろ? 俺はこれを卵焼きにする」
その言葉にソラは瞬時に卵を取り上げていた。こんなに貴重な卵を卵焼きにするなど宝の持ち腐れだ。絶対にそんなことをさせるわけにはいかない。
「ロロ! これは私が持つよ」
「ソラは目玉焼き派だったか?」
「もう、どっちでもいいよ」
ソラが卵焼き派か目玉焼き派かなどどうでもいい。食べてしまえばどんな食べ物も同じだ。ただ、食感が違うだけ。ソラは卵を抱きしめた。
中から微かな波動を感じる。生まれる前の生命体でも波動を感じさせるのだ。これはきっと竜の卵だ。孵化させれば凄いことになるだろう。
「まさか、それ孵す気か?」
「そのつもり。面白そうでしょ」
ソラはニヤリと笑った。危険な判断かもしれない。けれど、こんな機会は滅多にない。
「ソラがそれでいいのなら、別に文句ないけど。俺が持つよ」
ロロがソラの手から卵を取り上げる。ロロの持ち方は危なかっしくてヒヤヒヤするが、彼は卵を布で綺麗に包むと肩に乗せた。
「これで大丈夫だろ」
「ソラ、ロロ! 何やってんの? 置いてっちゃうよ!」
遠くから声が聞こえる。アーチェがこちらに手を振ってソラたちを招いていた。
「行こうぜ」
ロロがソラの手を引っ張った。北の大地は目の前だ。長きにわたる旅がこれから始まろうとしていた。
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