天国へ

SS野郎

天国へ

私は天使の導きにより、天国へと向かっている。


「ところで天国ってどんな所なんですか?」

「はい、あなたが行く天国は最高に美味しいリンゴの木が生えていて、食べ放題な場所ですね」


割とよくある天国のイメージに近かった。


「他にも天国はあるんですか?」

「生前の行いによって行く場所が決まる感じですね。あなたの場合は大勢の人の命を救ったという事でリンゴの天国になります。ランクとしては最高クラスの天国です」


確かに、私の発明した薬で大勢の人の命が助かったのは事実だ。


「ところで私は70で死んだはずですが、何でこんな若い姿してるんですか?」

「天国へ行く時は、生きていた頃に一番精神的に充実してた頃の姿になるんですよ。お望みとあれば調整しますが…」

「いや、40前後っぽいしこれでいいですよ。あと、天国へ来れる人って多いんですか?」

「重大な罪を犯した人とかはダメですけど、ほとんどの人は生前の行為に応じた場所へ行くようになってますね」

「となると、天国に行けない人というのは、かなり少ないんですか?」

「そうですね。よほどでない限り、どこかの天国に行くことになっています。あなたの場合は生前の行いが非常によかったために、最高ランクのいい場所に決定したという感じです」

「なるほど。ところで私が行く天国にはどれぐらいの方が来られてます?」

「えーと、確か500人ぐらいだったと思います」


いろいろ知りたい事があったので、天使に質問を続けた。

天使の答えによると、天国だけあって配慮も行き届いており、まさに「天国」という感じだった。

そのような会話を続けながら、天国への門へと近づいて行った。

よく見ると遠くの方にも似たような門が見える。

先ほど天使が言っていた、別の天国の入り口なんだろう。


「門の中に入れるのは死者だけですので、私はここまでです。それではよい死後の暮らしを」


こうして天使に見送られながら門を開き、私は天国へと到達した。

そこはまさに天国としか言いようのない光景だった。

リンゴの木が多く生えている美しい景色、そこで暮らす人々…


しばらく眺めていると、ゆったりした服を着た人がこちらに気が付いたようで、他の人たちに合図を送りながらこちらへと走ってきた。

この天国へ来ていた先輩らしい。


「おい新入り、お前はどこの国から来た!?」


この先輩はどう見ても日本人ではないが、言葉が日本語として頭に入ってきた。

神様の住人へのサービスなのか、自動翻訳のような事が起こっているらしい。


「日本からですが…」

「おお、日本からか!日本のどこ生まれだ?」


突然の質問攻めに戸惑いながら出身地を答えた。

集まってきた他の人達をよく見ると、なぜかものすごく期待に満ちたような目をしていた。


「おい、日本から来たやつ居たか?この人と出身は違うのか?」

「ああ、私も日本から来たけど、彼は私とは違う地方の出身だよ」

「僕とも違いますね」


数名の日本人の先輩がそう言うと、大歓声が起こった。

一体何事なのかと戸惑っていると、一人がこう聞いてきた。


「では君の出身地の独特な料理があったら教えてくれないか」


詳しく話を聞いたところ、どうもこの天国でまともに食える物は、塩などの基本的な調味料と水以外はリンゴの実しかないようだ。

味は非常によく、最初のうちはそれでもよかった。

だが、ここで長く暮らしていると同じ味に飽きてしまい、色々な調理法を試したそうだ。

それこそ数百年間発酵させてみたり、といった事など…

とはいえ、長い年月の間、500人で考えられるアイデアも限界があって尽きてしまった。

そのため、新入りが入ってくると、このように新しい調理法が無いか根掘り葉掘り聞くようになったらしい…



…どうやらここを作った神様は、人間が飽きるという事を念頭に入れていなかったらしい。

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