第3話

 その後も二人で雑談をしながら食べていき、いつの間にか鍋もほぼカラになっていた。

 スープのみが残った鍋を、ヴェルナーがじっと見つめている。


「ヴェルナー、もうちょっと食べたい?」

「あ、うーん、実は、そう……。まだ少し余裕あって……」

「わかった。じゃあシメで雑炊準備するから待ってて。いや、この場合はリゾットかな」

「うん」


 やはり鍋の後と言えばシメだろう。この前は麺を入れたが、今回は冷ご飯を使う。

 冷蔵庫で保存している冷ご飯を一旦ザルに入れて、粘り気を取るために流水で軽く洗う。続けて、鍋に残ったスープを煮立てて、顆粒ブイヨンと水を加えて沸騰させ、ご飯を入れていく。

 暫く温めていると、少しずつ煮立ってきたため、器で溶いた卵をゆっくり鍋に流し入れる。少しして卵がある程度固まってきたら火を止め、ミックスチーズと自家製のドライパセリを載せたら完成だ。

 具はあまり残っていないが、シンプルで良いだろう。


「お待たせ。シメの雑炊だよ」

「おお、チーズ載ってるのいいね! 美味しそう!」

「熱いから気をつけて」

「うん、ありがと」


 シンプルな雑炊にも目を輝かせるヴェルナーを見ていると、なんだか本当に心があったかくなるし、好きだなぁと実感する。十真は料理を作るのも好きだが、食べてもらうのも好きなのだと再認識した。

 器に雑炊を盛って、箸で少しずつ食べていく。トマトの味わいとチーズが絡んでちょうどいい。バジルの香りもいいアクセントになっている。

 向かいでは、ヴェルナーが『美味しいねぇ』と言いながらゆっくり雑炊を食べており、ふと口にした。


「いやぁしかしこうして作ってもらってばっかで悪いなあ。大変だろうに」

「別にいいよ。僕、ご飯作るの好きだし、日本にいた時は甥っ子姪っ子のご飯とか作ってたし」

「あぁ言ってたね。人数も多いんだっけ」


 思い出すような素振りをしつつ言葉を返したヴェルナーに、うんと短く頷く。


「そうそう。特に一番近い距離にいた子達なんて、六人きょうだいだったからね。しかも男の子五人で、女の子も含めてみんな運動部。みんなよく食べる子達だったよ」

「それは……大変そうだね」

「うん。でも、なんでも食べてくれるから楽しかったな。ストレス発散で考え無しに作った揚げ物とかも、みんな食べてくれるから」

「それは……そりゃ、みんな食べるよねぇ」


 そう、それこそ肉や魚をひたすら揚げまくっても、六人に渡せば一気に食べてくれた。あれはあれで非常に嬉しいものだった。


「今とは違って、あれもあれで良かったよ。……まぁ、今はこうしてヴェルナーに食べて貰えるし、週末パーティもあるし、楽しんでるけどさ」

「そっか、それなら良かったな」


 ふと微笑んだヴェルナーを見て、今のほんのりとした静かな幸せもいいものだと実感した十真だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふうふの晩ご飯 不知火白夜 @bykyks25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ