第7話 秘密兵器
「 止めて下さい。男性が女性の身体の点検だなんて、セクハラで通報しますよ 」
優しい方の女性がスマホを握り締めて叫んだ。
「 なんだとぉ 」
ヤクザみたいな言い様。私はその隙に片桐刑事に電話。
女性を黙らせ、男らが再び私の目の前に立つ。
にらみ合いが続く。
……
―― もう限界 ―― と思いしゃがみこむ。
ドカドカと制服警官と片桐刑事が踏み込んできた。
―― 助かったー…… ―― 身体から力が抜け、へたり込む。
「 大丈夫かい 」
「 はい、いつもすみません。そこの男の人に裸にされそうになって、つい頼ってしまって…… 」
男達は、片桐刑事にジロっと睨みつけられると、さっきの態度とは打って変わって、虎が猫、
「 事情を聞くから 」と連れて行かれる。
それを横目に、
「 助けてくれてありがとう 」
優しい女性に頭を下げる。
「 いえー、前からあの人たちいやらしいんです。私だけじゃなくてほかの女性社員もお尻触られたり、胸のある人なんか胸まで触るんですよ。良いお仕置きになります。こっちがお礼を言いたいくらい 」
雑談する中、社長が担当してるのは、知事や市長と議員で一般企業では《岐阜土木建設》だけらしいことを聞き出す。
その会社から毎年大口の仕事を回してもらってると言う。
夕飯の後片付けを終えて、パソコンの前に座り録音データを聞いていると、突然プツッと切れた。
探偵さんに問合せたら、盗聴器が壊されたかバッテリー切れだと言われた。
また数台盗聴器を送ってもらう。
「 ちょっとお金がかかるが…… 」
と言われ、聞いてみると使えそうなのでそれもお願いする。
夫はパソコンに向かって何かやってるし、優奈はお絵描きに夢中で、することが無くなりテレビでニュースでもと思いチャンネルを合わせると、札幌の殺人事件の続報をやってた。
「 ……被害者の大留さんは三月二十二日会社を無断欠勤し、午後、千歳空港にいたことがわかりました。私共の独自調査では社内金庫から三百万円を持ち逃げしたとの情報を得ております。
しかし、会社はそれを否定していて真相は不明です。警察は明言を避けていますが社内の事情聴取を続けており、早い解明が待たれます…… 」
片桐刑事に状況を聞くと、
「 あぁ、それ岡引さんなんですよ。《歩行動作照合アプリ》という独自ソフトがあって、大留さんの歩行動作と羽田空港の監視カメラの映像を照合したらしいんです。それで乗った時間が大体わかって、今度はその時間帯に出発する飛行機の行先を洗い出して、その空港の監視カメラの映像と照合したと聞いてます 」
「 でも、どうして岡引さんが? 」
「 あぁ、本庁からの要請みたいですよ。良くわかりませんが、警察のよりずっと性能が良いらしい 」
「 え、じゃ、今は、犯人も飛行機を使ったと……でも対象者がいなくては照合のしようがないですよね 」
「 えぇ、今は、《土橋建設》の役員から社員まで百二十人を対象にやってもらってるみたいです 」
「 へぇ、岡引さんって凄いんですね 」
二日後荷物が届く。早速それを持って《土橋建設》へと急ぐ。今回も同じ掃除婦だけど髪型を変え、眼鏡にホクロ、教えてもらった通り簡単な変装をする。
何か言われても、『掃除に来た』の一点張りで行くつもりだけど、エレベーターで社長室のある四階へ真っすぐ上がる。
ドアを開け放ち、わざと大きめな音を立て掃除していることを気付かせる。
社長の机に貼り付けていた盗聴器は無くなっていた。
―― あらー、気付かれたのかしら。でもそんなに日にち経ってないのに……まさか、雄介が? ――
首を振って自分の妄想を追い払う。
今度は、探偵さんに教えてもらった通りに応接ソフアの裏生地をナイフで数センチ切って中に盗聴器を仕込む。
社長の机の上にあった卓上ライターを取り寄せたカメラ内臓の物に取り替えレンズをソフアに向ける。
この二つは何回使ってもバレたことは無いと言う。
私が嬉しそうにしているところを男性社員に見咎められ、会議室に連れて行かれて冷や汗を掻く。
―― また別のやばさがあるなぁ ―― と思いながらついて行くしかない。
「 あんた掃除婦を装って、この会社の情報を盗もうとしたんじゃないのか? 」
確かにある意味当たってる。
「 いえ、そんな。仕事が終わって娘に会えるからそわそわしてただけです 」
と嘘を言う。
「 ここで待ってろ。今、お前の素性を調べてくるから 」
そう言い残して男性社員が出て行く。
すかさず探偵さんに電話する。
「 相手は、霞さんが電話するのを待ってるんだ。追い込まれたら、仲間に電話するでしょう。だから、俺が保育園の先生だと思って、大きな声で喋って、急いで! 」
「 あ、先生、今日、仕事が早く終わって、これから迎えに行けそうなんですけど、…… 」
汗を流しながら精一杯の大声で喋り続ける。
……
探偵さんも話を合わせてくれ、男性社員がドアを開けるまで会話を続ける。
「 あー、もう良い。早く娘のところへ行ってやれ 」
ドアを開けて退室を促される。
頭を下げ、掃除道具一式を持って退散。
―― あー業務の人達でなくて良かったぁ。盗聴器仕掛けるって案外危険なんだなぁ ――
二度やって二度ともやばい目に遭ってしまった。
外へ出てから探偵さんに電話を入れ、何度も頭を下げる。
冷静になってからよく考えると、さっきの彼、一般企業の男性社員じゃ無いみたいだ。
―― この会社、きっとやばいことしてる ――
一旦家に帰って着替え出社する。いつもは家から持って来たおにぎりで済ませていたお昼ご飯、今日は作る時間が無くて同僚の女の子を誘って行きつけのラーメン店へ。
そこそこの混み具合。
注文を済ませお喋りしていると、オーナーが調理の合間を縫って寄ってきて、
「 霞さん、さっき旦那も来てたよ 」
珍しいことでは無かった。二人で来ることもあるから、
―― それがどうした? ―― と思う。
「 そうしたら、奇麗な姉さんが隣に座ってさ、いや、ほかにも空きはあったんだよ。だから、わざわざって感じでさ。旦那に何やら話しかけてんのさ 」
ちょこっと興味を惹かれる。
「 へー、どんな話してたの? 」
「 いやー、それは聞いてない。客が来ちゃってさ 」
―― はーっ? それじゃ、何が言いたかったのかさっぱりわからないじゃない ――
「 そ、わざわざ教えてくれてありがと 」
如何にも余計なお世話という気持ちを察してもらえるような言い方をしてやった。
隣で「 くくく 」と笑う同僚。
「 なんであんなことわざわざ言いにきたんだろ? 」
「 あれじゃないの。円満夫婦に波風立てて楽しみたいんじゃないの。くくく 」
「 ふっ、円満ねぇ…… 」
私の言葉に、あれっと思ったのか、
「 円満じゃないの? 」
「 もち円満よ。円満なんだけどねぇ…… 」
……
ラーメン店からカフェに場所を移してまでしつこく粘られて、ついつい夫が弱腰になってしまったことを白状した。
「 んー、その秘書とか知事に弱みを握られてるとか? 惚れた? ふふふ、まさかね 」
「 止めてよー。ホモじゃん 」
「 和花、ダメよ。ホモは差別用語。ゲイと言わなくっちゃ 」
「 わかってるわよーそのくらい。あなたが変な事言うから言い間違っただけよ 」
ふざけて口を尖らせる。
「 でも、あなたも大変ね。祖父母失くして、引ったくりに空巣、しまいに優奈ちゃんが誘拐されそうになるなんて……あんたに心当たりないの? 」
「 あったら、どうにかしてる 」
「 そ、私も何か協力できる? あったら言ってね。何でもするから 」
姿の見えない相手に非力な自分を感じている今、そう言ってもらえるだけでも心強い。感謝。
盗聴器から有益な情報を得られたのは月が進んだ七月十一日。浅草にいる探偵さんにも一緒に聞いてもらう。
「 あぁこの声は、土橋社長と阿部知事の秘書だな 」
と探偵さん。
「 あら、五十嵐さんでは無いような気がしますけど? 」
「 うん、五十嵐とは別人の横山正治(よこやま・まさはる)という秘書がいるんだ。四十歳で子持ち 」
聞こえてきた情報とは、
《F建設》が祖父母に提案したのは、平米三百円で、山林は五十ヘクタールあるので、一億五千万円でどうかという買取り案。購入理由は山林の保護のため。
《土橋建設》の提案は、同じ山林を平米五百円として総額二億五千万円。
という内容だった。
相場は平米三百円らしいから、《土橋建設》はかなり高い、売手にとっては良い条件だ。
私は《F建設》社長の『山林保護のため』という理由に疑問を持ち聞いてみると、
「 ひょっとして、《土橋建設》が『購入理由は将来のための先行投資』と説明したよね。それは買った山が何かの理由で高く売れるということだと思うんだ 」
「 なるほど、それで自然が破壊されるから《F建設》社長は『山林保護』と言った訳ですね 」
その後の録音を聞いてゆくと、土橋社長が、『息子も同意してる』と言い、秘書が『先生に伝えます』と締めた。
「 息子も同意って村上の叔父さんこと言ってるのかしら? 」
「 恐らく、内々で話を通してるんだろうね 」
「 あぁ、それで以前、私に売ろうなんて言ったんだわ 」
「 霞さん、今後の方針なんだけど、《F建設》はシロだと思うので《土橋建設》と阿部知事とその秘書を中心に調査したいと思うんだけどどうかな? 」
「 はい、お願いします。それと別料金でも良いので、叔父のことも調べてもらえませんか? 」
「 良いですが、殺人容疑で、かな? 」
「 と、言うより、何故、急いで山を売りたいのかを、です 」
お礼を言って通話を切ろうとしたら。
「 せっかくの電話なんで、札幌の事件を気にされてるようなんでお知らせしとくね 」
《土橋建設》の大留さん殺害事件のことだ。お願いすると、
「 《土橋建設》の社員は全員シロだった。今は友人知人などの情報収集していて、その人らと照合する予定なんだよね。見つかると良いんだが 」
「 ほかのお仕事もあるのに大変ですね 」
「 いや、美紗が操作してるんだけどね。データを入力したらパソコンが二十四時間照合してるんで、たいした負荷にはならないんだけど、千歳空港に到着する人は一日三万人ほどいるんでそれなりに時間はかかっちゃうんだ 」
別の日、盗聴器から、
「 ……リソート開発計画が承認になったら、土壌の開発整備をうちに頼みますよ 」
と土橋社長の言葉が聞こえ、
「 あぁ、知事にも言ってあるから心配いらんよ。設備関係は大手企業も手を上げてるんで無理だが、土地の方はな…… 」と知事の秘書。
土橋社長の魂胆が垣間見えた一瞬だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます