奇譚探偵

萌内五味

1st season

第一章 『儚き子』

第一章 『儚き子』 第1話 「来客」

 私の名前はゆうき、高校二年生の明るい女子高生。クラスメイトと同じような学校生活を淡々と送っている毎日だけど、今日は少し違うみたい。四限の授業を受けている時ふと校庭の方に目線を移すと見知らぬ青年?らしき人影が校舎に向かっていた。遅れてきた学生とも違うような感じだし高校に来る来客者だとしたら少し若すぎる気がする。授業が終わったら職員用の階でも行ってあの青年?の顔でも見に行こうかななんて考えてると隣の席の子が先生に指されていた。今は授業に集中しとかないとね。しかし、毎回同じような内容をしてるような気がするけど気のせいなのかな?もしかして私が内容に追いつけてないだけだったりして。もうすぐテスト期間に入るしちゃんと勉強しなきゃ!と自分に喝を入れ授業に集中していく。いい点数を取って明るい希望に満ちた未来を切り開くんだ!

 

 視界に光が灯ると授業は終わっていた。

 なぜ?

 

 簡潔に述べると意識を飛ばしていた。自分に喝を入れ授業に集中すること決意した後、ものの五分で視界は暗闇についていたみたいだった。「はぁー…私ってどうしてこうなんだろう。これじゃあ次のテストやばいよおー」と自身の意志の弱さに滅入ってると、周りのクラスメイト達が昼食の準備に取り掛かっていた。「もう昼休みか!よーし食べるぞー!」さっきの落ち込みが嘘のように天真爛漫に昼食に取り掛かるのだった。

 

 四月の下旬今日は少し肌寒く風が少し強い。白のパーカーの上に黒のコーチジャケットにカーキ色のパンツにスニーカーかなりラフな格好だが青年は仕事に来ている。風は冷たくなり青年のパーカーのフードが靡く。ゆっくりとだが確実に目的の場所を目指す。

 

 彼女が意識を飛ばす数刻前、職員玄関にて一人の青年が窓口に向かっていた。窓口の奥から「おやおや、卒業生かな?」と事務員の男性が重い腰を上げて席を立つ。青年は来校する際に外で風に乱れた髪を整えながら呟く「あれ?おかしいなぁ」事務員からの一言に少し戸惑ったが青年は返事をする。「実はこの学校の方から依頼があって来た者なのですが、何か業務連絡とかって来てないですか?」青年は真っ直ぐ事務員の目を見て話す。

 青年の返答に少し間を空けて事務員は「どんな依頼ですかね、上の人に確認したいので聞いてもよろしいですかね。」落ち着いた様子で問いかけてくる事務員。

 少し怪訝な顔をして青年は答える。

 「えっと、まぁおかしな話ですけど謎を解いて欲しいとのことで依頼がありまして。あはは」乾いた笑いをして後頭部を掻きながら言葉を返す。

 怪しむ事務員、先程とは少し顔色が違う。それは仕方ないことだと理解しながら青年は言葉を続ける。

「とりあえず上の方に電話とかで確認して頂いてもよろしいですか?急ぎじゃないので待ちますよ。」

 

 事務員は奥にあるデスクに向かい固定電話に手を掛け通話を開始する。

 

  「こちら職員玄関の笹井、来客の方が来てるんですけど、何か本日予定なんてありましたっけ?こちらのスケジュール表には書いてないんですけどね。」笹井はこめかみを掻きながら通話している相手に質問する。

  「えーと名前?あーこの方の名前ですね?」青年の方に目線を移しながら笹井はちょっと待ってくださいねと言う。

 「すいませんね、お名前聞いてもよろしいですかね。」「こちらの方こそすいません。まだ名乗ってなかったですね。僕は白生翔廻はくう しょうかいです。」「はくう?珍しい苗字ですね。」なんてことない会話をして、「白生さんという方なんですけど………はい…そうですか………はい、わかりました。」電話を切る笹井事務員。

 

 白生に目線を合わせこう告げる。

 

 「白生さんに依頼してないそうなんですけど。学校を間違えてるとかはありませんか?」

 

「え?本当ですか?四日前にお電話を頂いてここに来たんですけど?」

「どなたからお電話が来ました?」

「確かここの教頭の蒲野さんって方です。」 「確かにここの教頭は蒲野ですね。さっきの電話の相手もそうなんですよ。でもおかしいですなぁ。」  

「じゃあわかりました。学校の中を調査すれば僕の仕事は片付くと思うので、卒業生として入校の許可をいただきたい。もちろんすぐに退散するので問題にはならないと思いますよ。気になるなら同行して頂いても構いません。」

 調査?笹井は自然と言葉が出ていた。

「なんでも怪奇現象が起こるとか。その調査を依頼されてここに来ました。」

「怪奇現象?この学校で?聞いたことないですねぇー。調査依頼となると貴方は探偵さんとかですか?」

「まぁ厳密に言うと探偵ではないんですけど職を名乗る際面倒なので探偵業を営んでることにしてます。」

「初めてですよ探偵に会うなんて。すごいですねぇ。」

「あはは…探偵と言っても全然凄くないですよ、難事件に挑むとかそういうのではなくて迷子になったペットとかの捜索とかが主なので…」

「いやそれでもすごいよそれで生計を立ててるんだ。立派な仕事ですよ。」

 どうもと固い笑みをしながら白生は続ける。「それで中に入っても大丈夫ですかね?」

 笹井は渋い顔をして、「いやぁ流石に、上の者が把握してない依頼に許可を出すのはねぇ。卒業生として入るのもちょっとねぇ。どうしたもんかねぇー」

 

 白生は少し考え、しょうがないかと一言呟きながら笹井の眼前に手を出し。

「なんですかな?」という笹井の言葉に何も答えず白生は指を鳴らす。

 

 パチンッ。 気泡が弾ける。空気が飛び出る。

 

 

 一人の、人間の、思考は回転する。世界は、変わる。

 

 「使いたくなかったんだけどな、まぁ直に解けますよ。催眠術みたいなものなので、それじゃあ入校証貰ってもいいですか?」ぼーっとしている笹井に向かって柔らかい口調で白生は問いかける。

  

  「え?あぁ、入校証ですね。はいはいえーと白生翔廻さんですね。はいこちらが入校証ですね。出る時にまたここに寄ってくださいね。」

 白生は入校証を受け取り、首にかける。

  「ありがとうございます。帰る時にまた寄りますね。」

  

 職員玄関の窓口を後にし、白生は高校の廊下に向かう。

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