第14話 河口さんと田中くん
「良く俺だって分かったね…」
「イチロクサイゼ=16:00サイゼ…舐めてんのかテメェ」
「おっ流石名探偵!」
「あと今回のこの本…私とマドカのネタ使ってるだろ。印税寄越せやコラ」
「何か暫く会わない内に口悪くなったねえ河口さん」
「うっせぇ。こちとら労働基準法無視した仕事こなしてんだよ。暴言位許せや」
「夢の編集者になったのかな?」
河口さんが名刺を出してきた。
「へ〜○○社か!本当に大手入社したんだね!遅ればせながらおめでとうございます。」
「まあねえ〜まだまだ下っ端で雑用の方が多いっすけどねー。これから這い上がってやんよコラ」
「なんか話す度怒られてる」
「何でか分かるか〜?田中〜?貴様は次回はBL作品と私の約束を忘れ数多の作品を出してのうのうとサイン会なぞしやがってるからでございますよ!」
「ごめんごめん。忘れた訳じゃないのよ。河口さんが本当に喜んでくれる作品を作りたくて色々試行錯誤しながら書いてアップしてる内にアレよアレよとこの状態っす。」
「え〜⭐︎私のためにぃ〜⭐︎うれぴよ〜⭐︎と言うとでも思ってんのかボケカス」
「あ〜久々に会った河口さんは世間の荒波に揉まれて凶暴化してしまった」
「まあここで会ったが100年目。今度こそBL書いてもらうからね」
「分かってますよ。ただ今の路線と変わるからペンネーム変えていい?」
「それは許す!いや、むしろその方が私が無名作家を発掘したお手柄となって出世が早まる!」
「何か色んな意味で大人になってるなあ河口さん。」
「まあプレゼンは必ず通すから絶対良い作品作れよ。絵師も最高の先生を付けてやる」
「はいはい。ご期待に添える様誠心誠意を持って取り組ませて頂きます」
「後はコミカライズ、ボイスドラマからの実写、アニメ化、映画化、海外進出と笑いが止まらんわ!」
「欲望が底なしだね」
「河口よ!大志を抱けだよ。田中君」
「逞しくなってる」
「まあねえーまあ何皮も剥けましたからワタクシ。ある意味田中のおかげ。」
「ん!?俺の!?」
「そうそう。田中にBL書いてもらいたくて決死の告白してからね」
「それは自分に区切りを付けるためもあったんでしょ」
「まあそれもあるけどさ。でも自分の為だけだったら出来なかったと思う。」
「ほう〜。多少お役に立てて光栄ですな。」
「でね、その後はもう自分を隠すの辞めたの。今ではホラ」
と河口さんがスマホの写真を見せてきた。
「彼女。今同棲してる。」
「へえ〜〜!可愛いね!幸せそう!」
「私生活は充実しまくってますよ。ホホホ」
「周りにも言ってる?この事」
「うん。まあ親はあんなだから全然応援してくれてる。会社もBL、百合と何でもござれに扱ってるからね。何もコソコソしてない。」
「そうかそうか。河口さんは色々夢やら実現してるんだなあ。安心した。」
「まだだよ!とりあえず田中は私が泣いて嬉ションする様なBLを書け!」
「へいへい。」
○○○○○○○○○○
恋人と寄り添って微笑んでる河口さんの写真をみて思った。
やっぱり好きな人を思い好きな人と寄り添ってる河口さんが好きだなぁと。
これは恋とは少し違うのかも知れない。
河口さんが独りぼっちだと好きだなぁとは思えない。
多様性と言う薄っぺらい言葉で片付けてしまいたくはないけれど、色んな形を受け入れられる世界になって俺も河口さんも伸び伸びと生きていけたら良いなあと思う。
多分俺も河口さんもこの先、自分のDNAを残して行く事は出来ないんだろう。
自分達の居た記憶は受け継がれないだろう。それを思うと少し寂しい気持ちにもなるけど、俺は代わりに作品を残して次の世代の人に気付いて貰えるなら良いなあと自分の存在価値をそこに見出した。
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