SFミリタリーな滅亡寸前世界に殺戮機械として転生した僕は、それでも◼️◼️でいることを諦めない

性癖のサラダボウル

プロローグ 遥か彼方より


 ──高度約十六万フィート、


 底無しの闇に浮かぶ命の星と、その闇の狭間。


 秒速七キロで揺蕩う僕という存在は、この星にいくらの衝撃を与えるだろうか。


 宙を灼き、林を貫き、大地を抉って、


 そこに暮らす人々を傷つけてしまうならば、ボクはここで燃え尽きてしまうべきだ。

 

《[プロメテウス・リアクター]より報告、出力46%……44%……39%、なおも低下中。》


《[内部診断システム]……応答無し。》


 白熱する装甲板、その一部が弾け飛んで光の尾を引いて焼失した。


 きっと、あんな風に蒼白い閃光を纏って、鮮やかなほうき模様を空に描き、刹那の内に消える。


 誰の手の届かない天上の絶景として消え、


 何も変えず、刻まず、折り曲げず、


 そう、あるべきだった。


 きっとこれからもそうあるべきなのだ。


 機械の体に、決して感じ得ぬはずの胸を締め付ける痛み。


 

 ……ああ、そうだ。僕は決してそうは生きられない。


 君を傷つけて、苦しめて、泣かせて。


 それでも僕は君達と、◼️◼️として生きていたい。


 ◇◇◇


 それは突然訪れた。


 なんて事のない日常の一幕。


 足の早い太陽は彼方に隠れ、街頭と行き交う車の軌跡がざわめかしい夜の街並。僕は一息をついて、その場に立ちすくんでいた。


 背負った学生鞄の重みにいだく思いもなければ、そばを通り抜ける同世代の女子の誰にも、寄せる情はない。


 ただ漫然と、漠然と、空を仰ぎ見ていた時の事だ。


 ──なんだ、あれ?


 見上げた先、蒼白い一筋の光が水平線より昇り、遙か高度の宙空にて四散する。


「……きれいだ。」


 あまりの絶景に、つい呟かずにはいられない。


 壮大にして幽玄。


 まさしく手の届かない天上の景色は、息を呑むほどに美しいものだった。


 僕はそれが空振ると知りながら掌を掲げ……、



 ──その刹那、夜空の天蓋は流星によって穿たれた。


 轟轟と大気が軋みをあげ、夜の帳は真白に染めあげられる。


 痛みも苦しみも、恐怖を抱くいとますらない。


 ただ立ち尽くすばかりの群衆を、ボクを。その流星は一切の躊躇もなく消し飛ばした。



 こうして、僕こと犬飼イヌカイ星彦ホシヒコはその短い人生に幕を下ろす。


 


 ……その、筈だった。



 吹雪が吹き荒れる深雪の大地、鈍色のコンテナ内で僕は目を覚ます。


 目の前に迫る機械仕掛けの鋼の獣たち。彼らの一人が携えた一対のブレードに、変わり果てた自分の姿が反射した。


 ずんぐりむっくりとした鋼の巨体。

前に大きく突き出した胴体に半ば埋もれるようにして、潰れた楕円体の頭部が備わる。


 蒼い、人魂の様な単眼モノアイが僕の動揺と反して冷厳と揺らめいて、悟る。


  ──僕は、どうやら機械に転生したらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る