第18話「三人の少女と一人の鈍感」

リズが弟子になって一週間。村での生活は、一層賑やかになっていた。

朝、小屋の前で顔を洗っていると、三人が同時にやってきた。ユイは朝食の籠を、セシルはお茶の道具を、リズは薪を持っている。三人とも、俺に何かを届けに来たみたいだ。

「おはようございます、アキトさん」とユイが言った。

「おはようございます、アキト様」とセシルが続く。

「おはよう、師匠」とリズが笑顔で言った。

「あ、おはよう」

三人は顔を見合わせた。それから、微妙な空気が流れる。誰が最初に話すか、探り合ってるみたいだ。

「あの、今日の朝食を持ってきました」とユイが先に言った。

「私は、お茶を淹れに参りました」とセシルが続く。

「俺は薪を運んできた。師匠、暖炉の薪が減ってたろ」とリズが言った。

三人とも、俺のために何かしてくれようとしている。嬉しいけど、なんだか申し訳ない気もする。

「ありがとう、みんな。助かるよ」

「いえ」とユイが微笑んだ。

「当然のことです」とセシルが頷いた。

「師匠のためだからな」とリズが笑った。

三人はまた顔を見合わせた。今度は、少し競うような空気だ。なんだろう、この雰囲気。


朝食の時間になった。小屋の前に簡易テーブルを出して、四人で座る。ユイが持ってきたパンとスープ、セシルが淹れたお茶。どれも美味い。

「美味しいですね、ユイさんのスープ」とセシルが言った。

「ありがとうございます。でも、セシルさんのお茶もとても香りがいいです」

「いえ、そんな」

二人は笑顔で会話している。でも、なんだか探り合ってるような感じもする。リズは黙って食事をしながら、二人を観察している。

「師匠、今日は何するんだ?」とリズが聞いた。

「畑仕事かな。草むしりと水やり」

「手伝う」

「私も手伝います」とユイが言った。

「私もです」とセシルが続けた。

三人とも、手伝いたいらしい。嬉しいけど、畑仕事にそんなに人手はいらない。どうしよう。

「えっと、じゃあみんなで手分けしようか」

「はい」と三人が同時に答えた。

声が重なって、また微妙な空気になる。俺は気づかなかったけど、何かあるのかな。


畑に着くと、俺は仕事を分担した。

「ユイさんは人参の草むしり、セシルさんは玉ねぎの水やり、リズは土を耕すのを手伝って」

「分かりました」とユイが頷いた。

「はい」とセシルが答えた。

「任せろ」とリズが笑った。

それぞれの場所に散らばって、作業を始める。俺はキャベツの様子を見ながら、時々三人の様子を確認した。みんな、真剣に作業している。

でも、時々チラチラと俺の方を見てくる。それから、他の二人を見て、また作業に戻る。なんだろう、この雰囲気。

「師匠、これでいいか?」とリズが声をかけてきた。

「うん、いい感じ」

「ありがとな」とリズは嬉しそうに笑った。

その様子を、ユイとセシルが見ている。二人とも、少し複雑そうな顔だ。

「アキトさん、こっちも見てください」とユイが言った。

「あ、うん」

ユイの場所に行くと、綺麗に草むしりができている。

「完璧だね」

「本当ですか?」とユイは嬉しそうに笑った。

今度は、セシルとリズがこっちを見ている。セシルは少し寂しそうな顔だ。

「セシルさんも、見せて」

「はい!」

セシルの場所に行くと、丁寧に水がやられている。

「これも完璧。ありがとう」

「いえ、お役に立てて嬉しいです」

セシルは嬉しそうに笑った。リズとユイが、また複雑そうな顔をしている。

なんだろう、この空気。みんな、変な感じだ。


昼になって、休憩にした。木陰に座って、ユイが作ってくれたサンドイッチを食べる。四人で並んで座っていると、なんだか学校の遠足みたいだ。

「美味しいですね」とセシルが言った。

「ありがとうございます」とユイが微笑んだ。

「師匠、今日は疲れたか?」とリズが聞いた。

「いや、大丈夫」

「無理すんなよ」

「ありがとう」

リズは笑顔だ。その様子を、ユイとセシルが見ている。また、微妙な空気だ。

「あの、みんな」と俺は言った。

「はい?」と三人が同時に答えた。

「何か……気まずい雰囲気じゃない?」

三人は顔を見合わせた。それから、一斉に首を横に振った。

「いえ、そんなことないです」とユイが言った。

「全くありません」とセシルが続けた。

「気のせいだろ、師匠」とリズが笑った。

でも、明らかに何かある。三人とも、お互いを意識している。なんでだろう。

「そう?じゃあいいんだけど」

俺はサンドイッチを食べ続けた。三人は、また黙った。微妙な空気が続く。


午後、俺は考えた。この雰囲気を何とかしたい。三人とも、仲良くしてほしい。そうだ、一緒に何かすればいい。

「みんな、今日の夕飯、一緒に作らない?」

「夕飯?」とユイが聞いた。

「うん。四人で料理するの、楽しそうじゃない?」

「それは……」とセシルが言いかけて、止まった。

「いいな、それ」とリズが言った。「料理、得意じゃないけど」

「じゃあ、みんなで教え合おう」

三人は顔を見合わせた。それから、頷いた。

「分かりました」とユイが言った。

「お手伝いします」とセシルが続けた。

「任せろ」とリズが笑った。


夕方、小屋の前で料理を始めた。

「じゃあ、それぞれ得意な料理を作ろう」と俺は提案した。「ユイさんは?」

「じゃあ、私は野菜のシチューを」

「セシルさんは?」

「私は、修道院で習ったスープを作ります」

「リズは?」

「俺は……肉を焼く」

「肉?」

「ああ。豪快に焼く。それしかできない」

リズは少し照れている。ユイとセシルは笑った。

「それもいいですね」とユイが言った。

「はい。楽しみです」とセシルが頷いた。

三人は、少しずつ打ち解けてきたみたいだ。俺はホッとした。


料理が始まった。ユイは野菜を切りながら、丁寧にシチューを作っている。手際がいい。セシルは香草を煎じて、スープに入れている。優しい香りが漂ってくる。リズは肉を豪快に焼いている。火加減が強い。でも、美味そうだ。

「ユイさん、そのシチュー美味しそうですね」とセシルが言った。

「ありがとうございます。セシルさんのスープも、いい香りです」

「いえ、これはまだまだです」

二人は笑顔で会話している。リズも、肉を焼きながら話しかける。

「おい、この肉の焼き加減どうだ?」

「いいんじゃない?」と俺は答えた。

「そうか。じゃあ、もうちょっと焼く」

リズは嬉しそうだ。三人とも、料理を楽しんでいる。さっきまでの微妙な空気は、少しずつ消えてきた。

「みんな、上手だね」と俺は言った。

「そうですか?」とユイが嬉しそうに笑った。

「はい。アキト様に褒めていただけて嬉しいです」とセシルが言った。

「師匠に認められたら、俺も一人前だな」とリズが笑った。

三人とも、笑顔だ。いい雰囲気になってきた。


料理が完成した。テーブルに並べる。ユイの野菜のシチュー、セシルの香草スープ、リズの焼き肉。どれも美味そうだ。

「じゃあ、食べよう」

四人で席について、それぞれの料理を味わう。ユイのシチューは野菜の甘みが染み出ていて、優しい味だ。セシルのスープは香草の香りが爽やかで、体が温まる。リズの焼き肉は豪快で、肉の旨味がしっかり出ている。

「全部、美味い」と俺は言った。

「本当ですか?」とユイが嬉しそうに聞いた。

「本当。どれも美味しい」

「私のも?」とセシルが聞いた。

「もちろん」

「俺のも?」とリズが笑いながら聞いた。

「全部美味いよ」

三人は顔を見合わせた。それから、笑った。

「よかった」とユイが言った。

「安心しました」とセシルが続けた。

「へへ、師匠に認められたな」とリズが笑った。

三人とも、笑顔だ。さっきまでの微妙な空気は、完全に消えている。良かった。

「みんなで作ると、もっと美味いね」と俺は言った。

「そうですね」とユイが頷いた。

「はい」とセシルが微笑んだ。

「だな」とリズが笑った。

四人で食事を続ける。楽しい時間だ。笑い声が響く。風が吹いて、心地いい。


食事が終わって、片付けをしている時、ユイが言った。

「アキトさん」

「なに?」

「私たち、少し変でしたよね。今日」

「え?」

ユイは少し照れたように笑った。「なんだか、お互いを意識しちゃって」

「そうだったの?」

「はい」とセシルが頷いた。「私も、少し……」

「俺もだ」とリズが言った。「なんか、二人と比べちゃってた」

三人は顔を見合わせた。それから、笑った。

「でも、今日一緒に料理して、分かりました」とユイが言った。

「何が?」

「みんな、アキトさんのことが大好きなんだって」

「え?」

「だから、競っちゃうんです」とセシルが続けた。「でも、それは悪いことじゃないって」

「一緒にいられれば、それでいいんだ」とリズが言った。「師匠と、みんなと」

三人は笑顔だ。俺は、少し戸惑った。大好き?どういう意味だろう。でも、三人が仲良くしてくれるなら、それでいい。

「俺も、みんなといられて嬉しいよ」

「本当ですか?」とユイが聞いた。

「本当」

「私もです」とセシルが微笑んだ。

「俺もだ」とリズが笑った。

四人で笑い合った。微妙な空気は、もうない。ただ、温かい空気が流れている。


その夜、一人で星空を見ていた。

今日は色々あった。三人が微妙な空気になって、でも一緒に料理して、仲良くなった。良かった。三人とも、大切な人だ。みんなといられる時間が、幸せだ。

「大好き、か」

呟く。三人は、俺のことが大好きらしい。どういう意味なんだろう。友達として?それとも……。

まあ、分からないけど、嬉しい。みんながいてくれる。それだけで、十分だ。

窓の外から、三人の笑い声が聞こえてくる。ユイの家で、お茶を飲んでいるみたいだ。三人とも、すっかり仲良くなったみたいだ。

「よかった」

そう呟いて、ベッドに横になった。目を閉じる。心が温かい。明日も、きっといい日になる。

やがて、眠りが訪れた。


その頃、ユイの家では三人が話していた。

「今日は、楽しかったですね」とセシルが言った。

「うん。一緒に料理して、良かった」とユイが頷いた。

「だな」とリズが笑った。「最初は変な空気だったけど」

三人は笑った。それから、ユイが言った。

「私たち、アキトさんのこと……」

「好きなんですよね」とセシルが続けた。

「だな」とリズが頷いた。

三人は顔を見合わせた。それから、また笑った。

「でも、競うのはやめましょう」とユイが言った。

「はい。一緒に、アキト様の側にいられれば」とセシルが頷いた。

「そうだな。師匠は俺たちみんなのものだ」とリズが笑った。

「みんなの、ですね」とユイが微笑んだ。

三人は頷き合った。それぞれが想いを抱きながらも、協力することを決めた。アキトの側にいられれば、それでいい。一緒に、幸せな時間を過ごせれば。

そんな想いを胸に、三人は夜を過ごした。

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