青髭 ―鍵の部屋の寓話―
ゆい
第1話
私は、ひとつの鍵が欲しかった。
細かな細工と繊細な宝石が施され、光を受けては艶めく、金色の鍵が。
その鍵を“語らせる”ために、私は屋敷の片隅に部屋を建てた。
家具も何もない、外枠だけの簡素な空間だというのに、
鍵が豪奢であればあるほど、部屋は途端にいわくありげな姿を帯びる。
妻にも、従者にも部屋の中身は見せていない。
ゆえに彼らは眉をひそめ、
また何を始めたのか、と言いたげな視線を寄越した。
――これが、私にとっての快感だった。
部屋の中には実のところ、何もない。
ただ周りを驚かせてみたい一心で建てただけだ。
浪費にしか見えない所業も、
私にとっては“誠意を込めた日々の変化”であり、
疑いの視線がいつか驚きに変わる、その瞬間こそ愉悦の極みだった。
さて、どう明かしてやろう。
「実は空っぽだ」と私が言うのでは味気ない。
彼ら自身の目で確かめた方が、驚愕も呆れも、より濃く心を射抜くだろう。
そう考えた私は、ある日ふいに決めた。
――数日、不在にしてみよう。
私の留守の間に、彼らがこの部屋をどう見て、どう感じ、どう動くのか。
その反応を、覗いてみたかったのだ。
今となっては、この思惑が余計な悪戯心であったと
白状せねばならないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます