青髭 ―鍵の部屋の寓話―

ゆい

第1話


 私は、ひとつの鍵が欲しかった。

 細かな細工と繊細な宝石が施され、光を受けては艶めく、金色の鍵が。


 その鍵を“語らせる”ために、私は屋敷の片隅に部屋を建てた。

 家具も何もない、外枠だけの簡素な空間だというのに、

 鍵が豪奢であればあるほど、部屋は途端にいわくありげな姿を帯びる。


 妻にも、従者にも部屋の中身は見せていない。

 ゆえに彼らは眉をひそめ、

 また何を始めたのか、と言いたげな視線を寄越した。


 ――これが、私にとっての快感だった。


 部屋の中には実のところ、何もない。

 ただ周りを驚かせてみたい一心で建てただけだ。


 浪費にしか見えない所業も、

 私にとっては“誠意を込めた日々の変化”であり、

 疑いの視線がいつか驚きに変わる、その瞬間こそ愉悦の極みだった。


 さて、どう明かしてやろう。

「実は空っぽだ」と私が言うのでは味気ない。

 彼ら自身の目で確かめた方が、驚愕も呆れも、より濃く心を射抜くだろう。


 そう考えた私は、ある日ふいに決めた。


 ――数日、不在にしてみよう。


 私の留守の間に、彼らがこの部屋をどう見て、どう感じ、どう動くのか。

 その反応を、覗いてみたかったのだ。


 今となっては、この思惑が余計な悪戯心であったと

 白状せねばならないのだが。

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